映画コラム

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2018年06月22日

『カメラを止めるな!』を絶対に観るべき8つの理由!ゾンビ映画最高傑作にして大感動ファミリー映画だ!

『カメラを止めるな!』を絶対に観るべき8つの理由!ゾンビ映画最高傑作にして大感動ファミリー映画だ!




※本記事は映画公開前(社会現象前)に掲載した記事であり、テレビ方法に合わせて2019年3月7日に追記をしております。

2018年6月23日より、『カメラを止めるな!』が公開されます。メジャー公開ではない低予算のインディペンデント映画であり、キャストもスタッフも(こう言っては失礼ですが)無名であるため、その存在を知らないという方も多いでしょう。

しかしながら、知らないままでいることはあまりにも勿体ない! お世辞抜きで2018年の映画の中でも一番の必見作であり、近年の『アイアムアヒーロー』や『新感染 ファイナル・エクスプレス』に並ぶゾンビ映画の最高傑作と呼んでも過言ではない、とんでもない面白さを持つ作品だったのですから!

そして、本作はネタバレなしでの紹介がものすごく難しい! どれくらい過度なネタバレが厳禁な内容かと言えば、冗談抜きで『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』に匹敵するレベル! 予備知識がなければないほうがより楽しめる“まさか”の展開があり、「こんな映画だったのか!」と存分に驚いて欲しい内容でもあるのです。

しかも、本作は“ゾンビ映画でありながらゲラゲラと笑えるコメディ映画”でもあり、“ゾンビ映画でありながら感動的なファミリー映画”でもあり、“最初から最後までひとときも退屈しない極上のエンターテインメント”でもあり、“お金がなくても情熱とアイデアがあればここまで面白い映画が作れることの証明”のような作品でもありました。それらの魅力を詳しく説明すると、これまたネタバレになってしまうので苦しい!

そして、『カメラを止めるな!』はゾンビ映画という括りのみで考えてしまうことも勿体無い、老若男女を問わずに誰もが楽しめる内容であることも強く訴えておきたいです。ゾンビ映画を観たことがない、またはゾンビ映画の残酷さやホラー要素が苦手という方でも、存分に楽しめるのですから(もちろんゾンビ映画ファンも盛り上がれます)。その理由さえも詳しく書くと、これまたネタバレになってしまうのです。

このように、ネタバレなしで内容を紹介することがとてつもなく難しいため、この記事では以下の3段階に分けて『カメラを止めるな!』の魅力を解説します。いずれも致命的なネタバレはありませんが、何も知らないままで楽しみたいという方は十分にご注意ください!

もくじ:タイプ別の『カメラを止めるな!』魅力紹介


※目次のクリックで該当箇所へ移動することができます。
【第1段階:圧倒的な高評価と、スタッフとキャストの情熱を知ってほしい! ネタバレは皆無です!】
1:『この世界の片隅に』や『万引き家族』のような超高評価!
2:情熱と自信が伝わる、宣伝の頑張りを見逃すな!
3:これ以上の予備知識はなくてもいい! 上映劇場を調べて観に行こう!

【第2段階:コメディ映画でありファミリー映画でもある理由を解説。物語上のネタバレはありません!】
4:『ズートピア』のような抱腹絶倒のコメディシーンがあった!
5:『デッドプール2』のような“まさか”のファミリー映画だった!

【第3段階:公式サイトや予告編でわかることを紹介。少しだけ内容に踏み込みますが、知っていても十分に楽しめます!】
6:“37分間のワンカット”で撮られた、ノンストップのゾンビ映画だった!
7:“残り”が重要だった! 驚き、笑い、そして感動してほしい!
8:映画愛に満ち満ちていた! ものづくりに関わる方に観てほしい理由とは?

【おまけ】
おまけその1:監督の次回作はVR映画!
おまけその2:『カメラを止めるな!』と合わせて観て欲しい映画はこれだ!

【地上波放送に合わせて】※2019年3月7日追記
誤解してほしくないこと その1
誤解してほしくないこと その2
誤解してほしくないこと その3
この『カメラを止めるな!』関連作品も知ってほしい!
このインディペンデント映画も観てほしい!

【第1段階:圧倒的な高評価と、スタッフとキャストの情熱を知ってほしい! ネタバレは皆無です!】




1:『この世界の片隅に』や『万引き家族』のような超高評価!


とにかく知っておいて欲しいのは、日本のゾンビ映画、低予算のインディペンデント映画としては異例とも言える、圧倒的な高評価を得ているということ。箇条書きで簡単にご紹介しましょう。

・先行上映や試写会では絶賛の嵐。映画レビューサービスのFilmarksでは5点満点中4.2点という『グレイテスト・ショーマン』や『この世界の片隅に』に並ぶ高評価を獲得
・“ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2018”でゆうばりファンタランド大賞(観客賞)を受賞
・“ウディネ・ファーイースト映画祭(イタリア)”では上映後5分間に渡るスタンディングオベーションが巻き起った
・南米最大級のファンタスティック映画祭“FANTASPOA 2018(ブラジル)”にてインターナショナルコンペティション部門・最優秀作品賞を受賞
・その他の映画祭でも軒並み高評価&権威ある賞を受賞(今後も映画祭での上映が続々と決定)
・町山智浩、水道橋博士、乙一、水野美紀などの著名人が公式サイトに絶賛コメントを寄せる

国内で大好評なのはもちろん、国外の権威ある賞を受賞し、さらに絶賛に次ぐ絶賛で迎えられている……まるで現在大ヒット中の『万引き家族』のようではありませんか!

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2:情熱と自信が伝わる、宣伝の頑張りを見逃すな!


本作はかなりの低予算映画です。元々は映画監督や俳優の養成学校である“ENBUゼミナール”におけるワークショップの企画の1つで、クラウドファンディングのページで上田慎一郎監督は「少ないながらもスタッフにもちゃんとギャラを支払いたい」「この映画に賭けてくれた俳優たちに少しでも良い環境で芝居をしてもらいたい」などと書かれています。極めて制作費が少ない(もしくはない)、スタッフやキャストへのギャラもごくわずか(もしくは払えない)という厳しい状況であったのは間違いないでしょう。

しかしながら、本作は(詳しくは後述しますが)素晴らしいアイデアと、徹頭徹尾退屈することのない娯楽性の高さで、とんでもない面白さを持つ映画に仕上げています。そのあるアイデア自体はお金がなくても確かに実現可能なものなのですが、決して簡単に達成できることではありません。むしろ低予算を逆手に取り、限られた場所や予算でこその最高のエンターテインメントを作るという気概に溢れていると言ってもいいでしょう。そのために、監督ほか優秀なスタッフたちが、努力に努力を、工夫に工夫を重ねていたことは想像に難くないのです。

キャストは無名ながら、全員が全員とも魅力的なキャラクターを生き生きと演じられています。誰もがハマり役に見えるのは、オーディションで集まったそれぞれに対し“当て書き(演じる俳優をあらかじめ決めておいてから脚本を書くこと)”をしたためでもあるのでしょう。

そして、本作は宣伝費さえもほとんどないようです。公式Twitterを見ればわかる通り、キャストたちが自らの足で、チラシを劇場や飲食店に設置していたりするのですから。



さらには、キャストとスタッフが連日、公開日までのカウントダウンを実施しています。上田慎一郎監督のお子さん(1歳の赤ちゃん)までもがこの企画に参加しているのが微笑ましいですね。



また、本作は“実際に作品を観てもらう”という宣伝も積極的に行っています。2017年11月に6日間限定での先行公開をした他、マスコミ試写会を積極的に開催し、先日には学生限定の特別試写会も行い、公開日前夜には前代未聞のニコニコ生放送で本編の有料生配信を実施するのですから。



なぜスタッフとキャストがここまで本気で宣伝をしているのか? その理由は聞くまでもないでしょう。「これほど面白い映画を作ったんだから、より多くの人に観て欲しいんだよ!」に違いありません。

お金がないからこその宣伝が、そのままスタッフとキャストの情熱、そして作品そのものの自信の表れになっているのです。決してタダではできない試写会をたくさん開催していることも、口コミで評判が広がる作品であるという自信があるからでしょう。これは大手配給会社の映画ではみられないこと。その情熱と自信を信じ、応援したくなるではありませんか!

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3:これ以上の予備知識はなくてもいい! 上映劇場を調べて観に行こう!


重ねて書きますが、『カメラを止めるな!』は予備知識がなければないほうが楽しめる、過度のネタバレが厳禁なエンターテインメントです。最大限に楽しみたいのであれば、ここまでの情報だけで十分。圧倒的高評価と、スタッフとキャストの情熱を信じて、以下の劇場情報だけを確認し、映画館に足を運んでください! 6月23日の初日では、全ての回で舞台挨拶が予定されていますよ。

・新宿K's cinema(東京)6月23日(土)〜終了未定
・池袋シネマ・ロサ(東京)6月23日(土)〜終了未定
・シアターキノ(札幌)8月4日(土)〜10日(金)
・上田映劇(長野)9月8日(土)〜21日(金)
・宮崎キネマ館(宮崎)夏予定
・シネ・リーブル梅田(大阪)9月予定
・シネマスコーレ(名古屋)7月21日(土)〜8月3日(金)
・シネマ尾道(広島)9月予定
・横川シネマ(広島)公開日未定
・ユナイテッド・シネマ キャナルシティ(福岡)7月20日(金)〜2週間予定

※追記:上記は6月下旬時点で予定されていた劇場情報です。8月中旬現在では全国150館での上映が決まっています。以下のリンクからぜひチェックを!

<詳しい劇場情報のページはこちら(ゾンビメイクでの割引、リピーター割引の情報もあります)>
http://kametome.net/theater.html

【第2段階:コメディ映画でありファミリー映画でもある理由とは?物語上のネタバレはありません】



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4:『ズートピア』のような抱腹絶倒のコメディシーンがあった!


本作のジャンルはゾンビ映画ですが、あまり悲壮さや残酷さ、ホラーとしての怖さはありません。正確に言えばゾンビの血が飛び散ったり、腕がもがれてしまうという、それだけを捉えれば「子どもが観るにはちょっと…」な残虐描写もあるにはあるのですが、上田慎一郎監督は「“アフターケア”がありますから(子どもでも大丈夫)」と語っており、それは本当なのです(具体的にどういうアフターケアであるかはネタバレになるので書けません)!

しかも、本作は試写会で割れんばかりの爆笑が起こった、抱腹絶倒のコメディ映画でした。なぜ本作がゾンビ映画でありながらコメディ映画でもあるのか?と詳細に説明しようとすると、やっぱりネタバレになるので書けません。しかし、“映画でしかできない笑いが満載”ということだけはお伝えしておきます。それは、時間の短いショートコントや漫才では絶対に不可能な“まさか”の伏線回収のおかげなのです。

例えるなら、先日に地上波放送された『ズートピア』のラストシーン。中盤のコメディシーンはそれ単体で笑えた上、ラストではそのコメディシーンを伏線としたおかげで、さらなる大爆笑をかっさらうことに成功していました。その『ズートピア』のラストは“偏見と差別”という作品のテーマにも密接に絡んでいたのです。

『カメラを止めるな!』のコメディ要素は『ズートピア』と同様に、それ単体で面白い…というよりも“違和感があり”“笑っていいのか困惑する”のですが、それを“まさか”の伏線として回収したおかげで、ゲラゲラと笑えた上にスカッと痛快、同時に(詳しくは後述しますが)作品のテーマそのものをも表すことにも成功しているのです。具体的なことが書けないのがもどかしいですが、とにかく「笑いたい」という方にとっても、『カメラを止めるな!』は必見作と言えるでしょう。

『カメラを止めるな!』の笑いの内容にもう少しだけ踏み込めば、“登場人物が軒並みポンコツ”ということでしょうか。ゾンビに襲われているという状況においても彼らはどうしようもなく間抜けで、なんとも愛おしくなってきて、そのキャラへの思い入れが増すほどさらなる笑いが巻き起こっていくのです。「全力でバカをやる」という意味では王道の笑いを突き詰めているとも言える、そして「本当に面白いコメディは知恵と工夫がないとできない」ことを思い知らされました。

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5:『デッドプール2』のような“まさか”のファミリー映画だった!


『ジョゼと虎と魚たち』や『猫は抱くもの』の犬童一心監督は、本作のレビューコメントにて「ファミリーでもOK!」と書いています。筆者もこの意見に同意、というよりもむしろ「家族で観てほしい!」と強く訴えたいです。

なぜ本作がゾンビ映画でありながらファミリー映画であるのか?と詳細に説明しようとすると、これまたやっぱりネタバレになるので書けません。フワッと表現できるのは、“教育上全く問題ないどころかとっても教育的”かつ、“観た後は少し家族に優しくなれる物語だから”、ということくらいでしょうか。

公開中の映画『デッドプール2』はR15+指定にも関わらず「実はファミリー映画だよ」という触れ込みがあり、実際の本編も冗談抜きで(家族を描いた映画という意味での)ファミリー映画になっているという面白さがありました。子供は当然その『デッドプール2』を観ることはできなかったのですが、この『カメラを止めるな!』はパッと見のイメージとは違って小学生くらいのお子さんが観ても全く問題がない(それどころか子供こそに観て欲しい)という意味で、『デッドプール2』を超えて「マジのファミリー映画で驚いた!」な内容になっているのです。

コメディとしてゲラゲラと笑え、サービス精神が満載でひとときも飽きさせず、“家族を描き”“家族で観られて”“子供から大人まで楽しめる”……ファミリー映画として、これは理想的です。ゾンビ映画というジャンルとしても、革命的と言えるでしょう。

個人的に、本作はゾンビ映画が好きだというお父さん(お母さん)に、小学生以上のお子さんを連れて観に行ってほしいです。ゾンビ映画はもちろん、映画というエンターテインメントそのものの魅力に、きっと気づいてもらうことができますよ。

余談ですが、本作の初期のプロットでは監督の娘役として小学6年生の女の子を登場させる予定だったのですが、オーディションで小学生が応募してこなかったため、女子大生の設定に変える必要があったのだそうです。この元々の設定でも、作り手が子供もターゲットにした映画にしたかったという気概が伝わりますね。

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【第3段階:公式サイトや予告編でわかることを紹介。少しだけ内容に踏み込みますが、知っていても十分に楽しめます!】



6:“37分間のワンカット”で撮られた、ノンストップのゾンビ映画だった!


本作がどういう映画であるか、その内容の1つに踏み込めば、“37分間のワンカットで撮られたゾンビ映画”ということです。ワンカットとは、編集の“切れ目”が存在しない、つまりはカメラをずっと回し続けていたということ。『カメラを止めるな!』というタイトルも、そのワンカットの映像を作り上げることを意味しているのです。(英題は「One Cut of the Dead」となっています)

もちろん、ワンカットの映画を作り上げることは、簡単ではありません。カメラを回し続け、その間に役者はずっと演技をし続けるしかなく、許容できないアクシデントがあれば“初めから撮り直し”になるのですから。

実際に『カメラを止めるな!』では、ワークショップの頃から数えればリハーサルを10回以上行い、ワンカットの映像を作り出すために6テイク(通しで撮れたのは4テイク)を重ねています。しかも、キャストたちが血糊で汚れてしまうこともあって、1日に2〜3回しか撮影できなかったのだとか。中には、最後までやり終えたにも関わらず、カメラマンが転んだ時に撮影ボタンがオフになってしまっていて、全く撮れていなかったという勿体無さすぎるテイクもあったそうです。

しかも、実際に本編で採用されたラストテイクの映像にも、撮影時のミスがいくつも映り込んでいるのです。その1つが、“カメラについた血糊を拭う”というシーン。演出としてワザとやっているのかと思いきや、これが実は本当のアクシデント! その他にも、「これは作劇上で予定されていたトラブルなのか?」「それとも本当のアクシデントなのか?」と、良い意味で不安にさせてくれます。

また、本作の物語の発端は「ゾンビ映画を撮影していたら、本物のゾンビに襲われてしまった!」というもので、いわゆるフェイクドキュメンタリー(モキュメンタリー)になっています。これ自体は低予算映画によくみられる手法であり、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』や『パラノーマル・アクティビティ』などを思い出す方も多いでしょうが、それ以降はそれらとは似ても似つかないオリジナリティが満載です。良い意味で全く怖くない、抱腹絶倒のコメディ&感動のドラマへと展開していくので、楽しみにしてみてください。

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7:“残り”が重要だった! 驚き、笑い、そして感動してほしい!


この『カメラを止めるな!』の上映時間は全部で96分です。しかしながら、前述した“ワンカットのゾンビ映画”は37分間のみ。では、残りの約1時間は一体どういう内容なのかと誰もが思うところですが……その“残り”こそが、この映画の最大のネタバレ厳禁部分。観ていない人には口が裂けてもその内容を言うことはできません! 「まずは困惑して」「度肝を抜かれて」「笑って」「感動して!」とフワッとしたことしかお伝えできないのです。

本作のキャッチコピーには「最後まで席を立つな。この映画は二度はじまる。」とあります。まさにこの通り、ワンカットのゾンビ映画が終わっても、そのまま席に座っておきましょう。それまで疑問に思っていた“違和感”が解消され、次々に“パズルのピールがハマっていく”快感に酔えるはずですよ。

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8:映画愛に満ち満ちていた! ものづくりに関わる方に観てほしい理由とは?


本作が“映画愛”に溢れていること、“ものづくり”に関わる方に絶対に観て欲しいこともお伝えしなければいけないでしょう。(フェイク)ドキュメンタリー的な手法を用いることで、“何かをみんなで作り上げること”そのものの喜びや楽しさを謳っており、そのことが作品のテーマと言っても良いのですから。

普段映画を観ないという方であっても、映画そのものの魅力、ものづくりそのものの楽しさや意義に気づくことができるでしょう。大切な作品が1つでもある映画ファンの方であると、さらなる深い感動があるはずです。

『カメラを止めるな!』というこの映画を、キライになる方はいないかもしれません。愛すべき登場人物たちばかりで、ゾンビ映画のキモも捉えていて、コメディとしてゲラゲラ笑え、ファミリー映画として感動的で、アイデアそのものに驚いて、そのアイデアを実現したキャストとスタッフたちに心からの拍手を送りたくなる……世の中に数あるインディペンデント作品で、ここまで素晴らしい映画が他にあったでしょうか。(いや、ない!)

最大限に『カメラを止めるな!』の魅力を堪能したいのであれば、絶対に映画館で観ましょう。唯一無二とも言える驚き、笑い、興奮を、一緒に観た人と共有すれば、忘れられない体験になることは間違いありません!



 
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おまけその1:監督の次回作はVR映画!


『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督の次回作は、なんとVR(バーチャルリアリティ)映画です。グライダーを操縦する部活“航空部”を舞台としたマンガ「ブルーサーマル 青凪大学体育会航空部」を原作とした約12分の作品で、7月上旬よりカラオケやゲームセンターなどに常設されているサービス“VR THEATER”、またVRポータルアプリ“VR CRUISE”で体験可能となるとのこと。実写映画版『鋼の錬金術師』で声の出演およびモーションアクターを務めた水石亜飛夢も出演しています。

<『ブルーサーマルVRーはじまりの空ー』公式サイトはこちら>
http://bluethermal-vr.com/

また、上田慎一郎監督が手がけたシュートームービー「正装戦士スーツレンジャー」が公開中です。こちらはビジネスパーソンのためのトータルファッションブランド「ザ・スーツカンパニー」とのコラボ企画で、“昭和特撮”感に溢れるアツさと良い意味でのバカバカしさが融合した、素敵な動画になっていますよ。



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おまけその2:『カメラを止めるな!』と合わせて観て欲しい映画はこれだ!


最後に、『カメラを止めるな!』と合わせて観るともっと楽しめる、5つの映画を紹介します。

1:ヴィクトリア





2時間20分に及ぶ本編を全てワンカットで撮影した映画です。俳優たちはわずか12ページの脚本をもとに即興でセリフを発し、撮影中に発生したアクシデントもカメラに収めています。序盤は穏やかなシーンが続くので少し退屈にも感じるかもしれませんが、主人公がとある犯罪に巻き込まれてからは息つく暇のないハラハラの連続でした。

キャッチコピーは「たった一夜で、彼女の人生は一変する」。全編ワンカットという作劇は、その悪夢のような一夜をリアルタイムで体験できるということと見事にマッチしていました。クライム・サスペンスとしても極上の出来で、ベルリン国際映画祭で最優秀芸術貢献賞を受賞したことも納得の傑作に仕上がっています。

2:ラヂオの時間





ラジオドラマの生放送中に、高慢な女優の要望や、勝手なキャストの暴走で、元々のシナリオが予想もしない方向へと変わってしまうというコメディです。キャラクターのそれぞれがポンコツで、シナリオへの“つじつま合わせ”のために奔走する姿はなんともおかしく、そして感動させられるでしょう。

なお、『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督は「『ラヂオの時間』をクエンティン・タランティーノ監督が作ったらどうなるかな?ということをやりたかった」と語っています。確かに『カメラを止めるな!』の本編は『ラヂオの時間』以外にも、『キル・ビル Vol.1』のような編集のテンポの良さ、『ジャンゴ 繋がれざる者』のようなスカッとするカタルシスを感じられるかも?

3:フロム・ダスク・ティル・ドーン





この映画の最大の魅力は「前半と後半が全然違うやんけ!」ということ。前半は犯罪者の兄弟2人が、たまたま出会った一家を脅して逃亡を続けるというクライム・ムービーなのですが……中盤でズッコけるような展開があり、そのままのテンションで最後まで突っ走るという、破天荒すぎる内容になっているのです。

クエンティン・タランティーノが脚本と出演を、『アリータ: バトル・エンジェル』が2018年12月に公開予定のロバート・ロドリゲスが監督を務めた作品で、この両者の作家性と“おふざけ具合”が最大限に発揮されていることも大きな魅力でした。『カメラを止めるな!』同様、この映画もなるべく予備知識がないまま観た方がいいでしょう。

4:サマータイムマシン・ブルース





劇団ヨーロッパ企画の代表作の映画化作品です。タイムマシンが出てくるまでは意味不明な描写ばかり、登場人物がグダグダとしているだけで、はっきり言って退屈に感じるのですが、その序盤で提示された全てのことが“まさか”の伏線として回収されていく様には感動させられました。

この“パズルのピースがはまっていく快感”“全力でバカをやる”“なんとか辻褄合わせをしようとする努力と奮闘”は『カメラを止めるな!』の面白さに通じています。キャラクターのほぼ全員がダメダメなのに(だからこそ)愛おしくなってくるのも共通していますね。

5:コリン LOVE OF THE DEAD





低予算であることをむしろ売りにしているゾンビ映画です。その制作費は日本円にしてなんと6000円! 主演俳優は監督の親友だったので無償で出演、ゾンビ役のエキストラはFacebookなどで募集。6000円の内訳は撮影用の小道具、ミニDVテープ数本、エキストラに配るお菓子代くらいだったそうです。

物語は主人公がゾンビになってしまい、わずかに残っていた記憶をたよりに、恋人のアパートに向かうというもの。正直に申し上げると間延びしている展開も多いのですが、美しいショットあり、ゾンビ映画ならでの残酷性もしっかり表現されているなど、あなどれない作品になっていました。『カメラを止めるな!』の低予算っぷりはこの映画に負けてはいないでしょうが、娯楽性でははるかに上回っていますよ。

なお、『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督は『パルプ・フィクション』や『マグノリア』や『愛のむきだし』などの映画が大好き、または自身の作家性に強く影響を与えていたと語っています。こちらもまた名作であるので、ぜひ合わせて観てみてください!

※以下、 地上波放送に合わせて2019年3月7日追記

同作における3つの“誤解してほしくないこと”


ここからは、『カメラを止めるな!』の地上波放送に合わせて、同作における3つの“誤解してほしくないこと”を挙げると同時に、上田慎一郎監督の来歴や作家性などをまとめてみます。さらに、もっと楽しむための関連作品と、注目して欲しいインディペンデント映画も一挙に紹介します!

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誤解してほしくないこと その1
“製作費300万円”を鵜呑みにするのは危険である!


『カメラを止めるな!』は上田監督自ら製作費が300万円であり、「『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』を2秒も撮れない」と公言していたことも話題になっていました。「それだけでこんなに面白い映画を作れるんだ!」と単純に感嘆の声をあげたいところですが……実はその金額だけを鵜呑みにしてしまうのは、ある意味で“危険”とも言えます。

というのも、『カメラを止めるな!』は俳優や監督などを養成する専門学校のワークショップの一貫として企画された作品であり、出演者は実質的にノーギャラで出演しています(むしろ受講料を払っている)。上田監督によると、もしも商業映画の製作体制で『カメラを止めるな!』を撮ろうとすると、たとえ無名の役者を選んだとしても(その分のギャラの支払いを考えれば)その10倍となる3000万の製作費がかかるのだとか。さらに、上田監督があるプロデューサーに、もしも広瀬すずや菅田将暉や大泉洋などネームバリューのある俳優を揃えて製作するとどうなるかと聞くと「4億円はかかる」と返されたのだそうです。

では、実際の『カメラを止めるな!』の製作費の内訳は具体的にどうだったかというと、300万円のうちの約半分は(出演者以外の)スタッフたちの人件費なのだそうです。その他で意外にお金がかかったのは、ロケ地となる廃墟(芦山浄水場)に設置する仮設トイレ代の10万円だったのだとか。その他はほぼほぼ“みんなが頑張って手作りをした”(小道具なども既存のものを借りたりした)ことによって、『カメラを止めるな!』は完成しているのです。

つまり、『カメラを止めるな!』の製作費が300万円であることは事実だとしても、“本当だったらもっとお金はかかっていたはず”なのです。このことを顧みずに「なんだ、映画ってお金そんなにかからないじゃん」と思ってしまわないほうがいいのです。事実、上田監督も『カメラを止めるな!』が大ヒットしたことによって「低予算で映画を撮れと言われて搾取される人が増えるのではという懸念がある」「“予算かけなくても情熱があればいい映画はできるんだ”というやりがい搾取みたいなことが横行すると困る」と、映画業界に釘をさす発言をしていました。

『カメラを止めるな!』が真に素晴らしいところは、そのようなインディペンデント映画ならではの“限られた状況”で作られていたことが、映画本編の内容と見事にシンクロしているということでしょう。映画内の物語において不器用な人たちが集まって、制限の多い状況でも(だからこそ)頑張りに頑張って映画を作ろうとしていることが、『カメラを止めるな!』そのものの製作体制と重なっているのですから。

また、上田監督は「低予算で無名の監督と俳優“でも”ヒット作を作れるじゃないかなどと言われていますが、実際は低予算で無名の監督と俳優“だから”できた映画なんです」と繰り返し発言していたりもしてします。まさにその通りで、もしも同じ内容を有名な俳優と一流のスタッフで作ったとすると……悪い意味でのわざとらしさや作り物然とした印象になってしまうことが容易に想像できます。『カメラを止めるな!』のオーディションで集まったのは上田監督によると“不器用な人たち”であり、その人それぞれに当て書きをしたこと、役者と演じたキャラクターがほぼ一致していることも、本作の面白さにつながっているのですから。

まとめると、“低予算のインディペンデント映画の製作体制でしかなし得なかった”こと、そして“映画内の物語と製作体制がシンクロしている”ことこそが『カメラを止めるな!』にとっては真に重要であって、300万円という制作費はその“結果”でしかないのです。

なお、出演者は実質的にノーギャラだったと前述しましたが、この『カメラを止めるな!』の大ヒットを受けて、出演者やスタッフにはそれぞれの役割に対する追加報酬が支払われたのだそうです。しかも、出演者はそれぞれテレビ出演も果たし(もちろんその分のギャラは支払われます)、芸能事務所とも続々と契約を結んでいます。こうして映画業界での活躍を夢見ていた人たちの今後の可能性を押し広げたということ……それもまた、『カメラを止めるな!』が成し遂げた大きな功績と言えるでしょう。

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誤解してほしくないこと その2
決してシンデレラストーリーなんかじゃない!


『カメラを止めるな!』は上田慎一郎監督の劇場用長編デビュー作でありながら、(300万円の製作費に対して)31億円を超える興行収入を記録しました。この大ヒットを“シンデレラストーリー”のように捉えている方もいるかもしれませんが……それもまた危険な認識、いや全くの誤解と言い切っても過言ではありません。

それにはいくつかの理由があります。まずは言うまでもなく『カメラを止めるな!』という作品がとてつもない努力と工夫により完成したということ、つぎに出演者自らも発信するSNSを利用したプロモーションに力を入れていたこと、そして上田監督は過去にも中編や短編の映画を数多く撮ってきたというキャリアがあること……何より上田監督は並大抵の苦労人ではなく、『カメラを止めるな!』の前にも尋常ではない挫折や失敗を繰り返してきていたのですから。

その上田監督の来歴の詳細は(著作やインタビュー記事で知ってほしいので)ここには書きませんが、ハリウッドで活躍するために英語の専門学校に通うものの2ヶ月で中退したであるとか、虚言癖のあるバイトの先輩に「オフィス北野の部長が君の映画を気に入っている」などと言われて騙されたとか、20代前半にはホームレスで借金まみれであったとか……心の底から「上田監督の人生を映画にしても絶対に面白いよ!」と思える(でも笑うに笑えない)エピソードに事欠きません。

さらに、初めて書き上げた小説『ドーナツの穴の向こう側』を自費出版したものの全く売れずに在庫の山と借金を抱えてしまい、(内容は後述しますが)実質的に初めての長編映画と言える『お米とおっぱい』も映画賞などに何も引っかからなかったと振り返っていたなど……作品評価という点においても、上田監督は苦汁をなめ続けてきたのです。『カメラを止めるな!』の超絶高評価と大ヒットも、その上田監督の実人生の苦労の上にあったものであったと、知ってほしいのです。

また、上田監督は苦労人であると同時に、凄まじいまでの楽観主義者でもあります。20代前半にホームレスになっていたことさえも「ここまでくればある程度のことが起こっても動じないというか、これより下がなかなかない」「そのころも(ブログなどで)身の回りのことをアウトプットして楽しくやっていた」「ある意味では悪いことが起こっていないんですよ。悪いことが起きたらネタにできますからね。無敵です」などと語っているのですから。その鋼のようなメンタルは見習いたいです……マネはできないけど!

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誤解してほしくないこと その3
上田監督はテーマを掲げて“ない”!でも実際にテーマはあるとも言える?


「“何かをみんなで作り上げること”そのものの喜びや楽しさを謳っており、そのことが『カメラを止めるな!』のテーマと言っても良い」と前述してしまいましたが、実は上田監督は「テーマはないです」と単刀直入に言い切ったことがあります。その本意は、「テーマとかメッセージじゃなくて映画の面白さがど真ん中にくる作品を作ろうと思った」「僕の場合はテーマやメッセージを決めないほうが作品について広い理解ができる」というものだったのだとか。

その一方で、上田監督は「テーマやメッセージがなくていいと思っているわけではない」とも語っています。それは、「作品からにじみ出てきたものからメッセージやテーマは伝わる」「まずは“お客さんを楽しませる”以上の意義はないと思って作っている」ということを根拠しているのだとか。つまり、上田監督は観客に楽しんでもらうことが第一であり、テーマやメッセージは“後からついてくる”くらいでも良いと考えているのでしょう。(テーマやメッセージを初めに掲げている作品ももちろん良いとも上田監督は語っています)

言い換えれば、「監督本人はテーマやメッセージを設定していないが、観客それぞれが作品からテーマやメッセージを受け取れる」ということ。それもまた、『カメラを止めるな!』が多層的な構造を持つ豊かな映画になった理由であり、押し付けがましさや説教くささを微塵も感じさせないまま「何かをみんなで頑張ること」そのものの尊さを感じられる、そして勇気と希望をもらえる内容になった理由でもあるのでしょう。

余談ですが、上田監督は自身の監督作品の共通点として「タイムリミットなどの限られた時間と空間の中で展開する物語であること」を挙げています。その“作家性”は『カメラを止めるな!』においては、前述した通り“製作体制そのものが物語とシンクロする”という最大の特徴の1つにもリンクしているのです。そこに「まずは“お客さんを楽しませる”以上の意義はない」と考えている上田監督のサービス精神までもが加われば……ここにこそ、『カメラを止めるな!』が奇跡的なまでに面白い作品になった、真の理由があるのではないでしょうか。

さらに上田監督は『カメラを止めるな!』について「自分の好きなこと、やりたいことを、全くブレーキをかけずにやりきった作品」と自負しています。つまり、『カメラを止めるな!』は上田監督の劇場用長編デビュー作であると同時に、(その作家性を全開にして詰め込んでいる)ある意味では “集大成”とも言えるのかもしれませんね。

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この『カメラを止めるな!』関連作品も知ってほしい!


前述した通り、『カメラを止めるな!』は上田監督の劇場用長編デビュー作でありながら、その集大成といっても過言ではない作品です。その“源流”を知るには、先にも少し触れた『お米とおっぱい』も観てみると良いでしょう。





この『お米とおっぱい』は三谷幸喜監督が脚本を手がけた『12人の優しい日本人』(またはその元ネタの『十二人の怒れる男』)を意識した作品で、内容は5人の男が「この世から"お米とおっぱい"のどちらかが無くなるとしたら、どちらを残しますか?」について議論をするだけ、はっきり言ってすげーくだらないです(褒めています)。しかし、キャラクターそれぞれの人となりを示していく会話劇の妙、最後の結論に至るまでの論理展開もしっかりしており、クライマックスでは存分に泣かされるなど、なかなか侮れない内容になっていました。この「くだらないと思っていた話題であったのに思いがけない感動もある」というのは、現在公開中の映画『翔んで埼玉』にも決して引けを取りませんよ。同作は配信サイトやレンタル店にもあるほか、3月11日の深夜25時59分から「映画天国」(関東ローカル番組)にて地上波放送もされますよ。

上田慎一郎監督の中編や短編の中では、『彼女の告白ランキング』を特におすすめします。内容は青年が彼女にプロポーズしたものの、「告白したい事が17個ある」と告げられるというもの。その17位が、“浮気していました”という「これが17位っておかしいだろ!」と誰もがツッコミたくなるものだったりするのです。ラストには意外というか何というか……良い意味で呆れ返る、とんでもない結末が用意されていますよ。こちらは動画配信サイト“青山シアター”にて、他2本の短編と合わせての購入で観ることができます。



さらに知って欲しいのは、“マンガ版カメラを止めるな!”です。こちらは『ARMS』や『PEACE MAKER』などで知られる皆川亮二先生によるコミカライズ作品で、書籍“『カメラを止めるな!』アツアツファンブック”に収録されています。





その“マンガ版カメラを止めるな!”の内容がいかなるものか…は実際に読んで欲しいのでここに書くのは控えておきますが、皆川先生のカッコいい絵柄がゾンビものにめちゃくちゃマッチしている、ということだけはお伝えしておきます。同書籍は各インタビューが充実している他、“トラブルが起こらなかった”バージョンの台本、製作時のトリビア、人気イラストレーターやマンガ家さんからの寄稿などなど、「これでもか!」というほどの豪華な内容となっているので、ファンはぜひ手に入れてみてほしいです。

さらに、大正製薬株式会社の通販限定の製品“リポビタンD ありがとうBOX”
のプロモーションとなるPRムービー「カンシャを止めるな!」も公開されています。内容は本編でテレビ局員を演じていた曽我真臣さんをドッキリにかけるというもので、観ればほっこりと笑顔になれますよ。



さらにさらに、初となるスピンオフドラマ『ハリウッド大作戦!』も先日にAbemaTVで放送されており、その視聴者数は17万人に上っていたそうです。こちらは見逃し配信の対象外で筆者も見逃してしまったのですが、同作は3月8日(本編の地上波放送の後すぐに観ることが可能!)と3月9日に2夜連続再放送が決まっています。3月10日からはネスレアミューズ公式サイトでも視聴が可能になるそうですよ。

なお、三浦誠己さんと木南晴夏さん演じる男女漫才コンビを描いた上田監督作「猫まんま」が収録されているオムニバス作品『4/猫 ねこぶんのよん』も発売&レンタルが開始されています。もっと上田監督作の魅力を担当したいという方は、こちらもぜひチェックをしてみてください!

このインディペンデント映画も観てほしい!


『カメラを止めるな!』は歴史に残る大ヒットを記録しましたが、言うまでもなくこれは異例中の異例のこと。インディペンデント映画の多くはミニシアターのみで公開され、その存在を一般的に知られることがないままに上映が終了するということも往々にしてあります。

しかしながら「見逃すのはあまりに勿体無い!」「『カメラを止めるな!』くらいに評価されヒットしてもいいのに!」と思うばかりの、主要キャスト(のほとんど)はほぼ無名、原作もないオリジナル脚本の作品でありながらも、優れたインディペンデント映画も数多く公開されています。ここでは、ごく近年に公開され作品の中から、5作品に絞って紹介しましょう!

1:アイスと雨音




「『カメラを止めるな!』が好きな人は絶対にこちらも観て!」と訴えたいのが、こちらの『アイスと雨音』です。その最大の理由は同じく“ワンカット”で製作されていること。しかも74分の全編がワンカットでありながら、描いているのは舞台の本番までの“1ヶ月”なのです。若手劇団員たちの1ヶ月の軌跡がシームレスにつながる、時間を飛び越えてフィクションと現実が入り混じったような驚きと感動は“映画”という媒体でしか成し得ないものでした。ラップグループ“MOROHA”によるメッセージ性の強い音楽にも泣かされます。

2:カランコエの花




高校で唐突に“LGBTについて”の授業が行われたことをきっかけに、クラス内に「LGBTの当事者がいるのではないか」という噂が広まっていく様を描いた青春ドラマです。その特徴は、LGBTに止まらず普遍的な差別や偏見における“過剰な配慮”を描き出す奥深い物語になっていること、若手俳優の演技が自然すぎる(というか演技に見えない!)ということ、そして『カメラを止めるな!』に匹敵するほどに“もう一度観たくなる”内容になっていることでしょう。上映時間が39分と短い中編であるのに、ここまで豊かな映画になっているとは……! 差別や偏見の描写で「誰もが思い当たる、このことを良く描いてくれて、本当にありがとう!」と思ったのは『ズートピア』以来でした。

3:少女邂逅





いじめられたことがきっかけで声が出なくなってしまった、孤独な女子高生の姿を追った青春ドラマで、モデルとしても人気のモトーラ世理奈が準主人公を演じています。“蚕”というモチーフを交えラストに向けて伏線を1つ1つ積み立てていく作劇は見事の一言、スプリットスクリーン(2分割画面)の使い方も巧み、性的な話題もありますが(だからこそ)彼女たちと同年代の子たちにも観てほしい内容になっていました。枝優花監督は現在若干25歳、オムニバス映画『21世紀の女の子』にも参加しており、さらにその活躍が期待できます。また、スピンオフ作品「放課後ソーダ日和」がYouTubeに公開されており、その“特別編”も劇場公開がされていますよ。

4:パラレルワールド・シアター




(C)Tick Tack Movie


アラサーの売れない劇団員たちが3年ぶりの大きな公演のために集まったものの、その後はメンバー同士の“不協和音”がじわじわと聞こえてくる……という、良い意味で胸が締め付けられるドラマです。「いい年をして売れない劇団を何のために続けているんだろう…」ということを容赦無く自己批評する辛辣さがあり、作り手の経験や実人生が劇中の物語に反映されている(であろう)ことを『カメラを止めるな!』以上に感じることができました。劇中劇にも重要な意味があり、クライマックスの感動と驚きは唯一無二のものがありました。なお、本作は自主的な上映イベントのみで上映されており、実質的には劇場未公開作品と言えます。堤真矢監督によると「しばらくは各映画祭へのエントリーも含め、自主上映ではない形での劇場公開を目指して動いてく」とのことなので、続報に期待したいところです。

5:岬の兄妹

(C)SHINZO KATAYAMA

こちらは現在公開中の映画です。造船所で働く足に不自由がある兄と、一緒に暮らしていた自閉症である妹が極貧生活に陥ってしまうのが物語の発端なのですが……その先の展開はR15+指定がされていることも大納得、ここで書くのがはばかられるほどに嫌悪感と不快感を煽る物語になっていきます。しかしながら、主演2人の鬼気迫る演技、計算し尽くされた構成、観た後に深く考えざるを得ない見事なラストカットなど……絶賛に次ぐ絶賛も大納得、間違いなく傑作と断言できる出来栄えに仕上がっていました。凄惨な内容のようでいてクスッと笑えるユーモアもあり、意外にも“見やすい”内容とも言えます。ポン・ジュノ監督や山下敦弘監督の下で助監督をしていた片山慎三監督は、本作で脚本・製作・プロデュースまでも手掛けており、その手腕は初長編監督作とはとても思えないほど。劇場では満席も相次いでおり、今後も話題になることが期待されます。

その他、メジャー作の『チワワちゃん』も公開されたばかりの二宮健監督が“脚本なしで全編アドリブ”で作り上げた『疑惑とダンス』が、渋谷ユーロスペースのみで現在公開中です。こちらは各回で上映後にトークイベントが行われているようで、そのゲストは門脇麦さんや戸田恵梨香さんや有村架純さんなど、信じられないくらいに豪華! 上映後にトークイベントを行うなどして、“作り手と観客の距離が近い”こともインディペンデント映画の強みですね。

さらに、水道橋博士が絶賛したことでも話題になったバイオレンス作品『ケンとカズ』、認知症の祖父がきっかけとなり家族が崩壊していく『ファミリー・ウォーズ』、謎の現象により時が止まったかのような町での群像劇が展開する『ゾンからのメッセージ』、“ラストアイドル”のメンバーである中村守里さんが主演を務めた『書くがまま』、人工知能の“殺意”を立証のために奔走する新任検察官の姿を追った『センターライン』(4月20日より公開)など、注目してほしいインディペンデント映画はまだまだたくさんあります。『カメラを止めるな!』の大ヒットにより、これらの作品にもスポットライトが当たり、さらにインディペンデント映画界が盛り上がることを期待しています!

(文:ヒナタカ)

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