『ダンスウィズミー』が万人にオススメな「4つ」の理由

(C)2019「ダンスウィズミー」製作委員会

エンターテインメントとして長きにわたって愛されている「ミュージカル」。映画にしろステージにしろ数多くの名作が生まれてきているが、実は“ミュージカルが苦手”という人は意外に多いらしい。かく言う映画音楽大好き人間の筆者も、ミュージカル映画を観るようになったのはここ数年のことだったりする。

ミュージカルに対して、作品内の日常生活において突然歌い踊り出すことに恥ずかしさを覚えたり、理解できないというのが大方の理由ではないか。そんなミュージカルへの“あるある”を物語に取り込んだのが、矢口史靖監督作の『ダンスウィズミー』だ。

1:矢口監督ならではの王道娯楽作!

矢口監督といえば男子によるシンクロナイズドスイミングを描いた『ウォーターボーイズ』が有名で、『スイング・ガールズ』や『ハッピー・フライト』、『WOOD JOB!~神去なあなあ日常~』など“娯楽”にこだわった作品を生み出し続けている。本作で10作目というのだから意外に作品数自体は少ない印象を受けるが、いずれの作品も高い注目を集めてきた。

また矢口監督は作品ごとのテーマがはっきりしていて、シンクロやフライトアテンダント、果ては林業にもスポットを当てるなどピンポイントに的を絞っているのが特徴。ただ決してマニアックな目線にはならず、観客が作品ごとの世界観に入り込みやすいようあくまで軽妙な語り口になっているのも持ち味だろう。そんな矢口監督が本作で描いているのはミュージカルというジャンルそのものだが、実は同時にロードムービーや主人公の成長譚としても機軸を置いているのは明らかだ。

ざっとあらすじを紹介すると、本作の主人公・静香は小学生時代のミュージカル劇がトラウマになり、ミュージカルに対する苦手意識を持っていた。そんな彼女がインチキ催眠術師のマーチン上田によってかけられたのは、「音楽を聴くと歌わずには、踊らずにはいられなくなる」という催眠術。せっかく背伸びして入った会社でも催眠効果は発露してしまい、大事な会議の席で踊り出す始末。静香はなんとか催眠術を解こうと、行方をくらましたマーチン上田の後を追うハメになる─。

静香がミュージカルに対して苦手意識を持っているからこそ設定が活きてくる内容になっており、全編を通して思わず観る側もリズムを取りたくなるようなミュージカルナンバーが満載。それと同時に旅を続け様々な出会いを果たす静香の視点によって、実は彼女が人間的な成長を遂げていく様子も丁寧に描かれている。あくまでエンタメ作品であり深く詮索する必要はなく、肩の力を抜いて鑑賞できるのも矢口監督らしさと呼べるのだろう。

©2019「ダンスウィズミー」製作委員会

2:主人公・静香を演じる三吉彩花の魅力が炸裂!

催眠術によって音楽を聴くと歌いそして踊り始める、という設定は言うなればファンタジーとしての印象が強い(決して催眠術というジャンルそのものを否定しているわけではなく)。ややもすれば嘘くささが出かねない設定だが、そんな静香を三吉彩花が演じ上げると驚くほど嘘くささを感じさせない。催眠術に困惑する表情を見せたかと思いきや、ひとたび音楽が流れればミュージカルパフォーマーとしての表情に切り替わる様は実にスムーズ。まるで三吉本人が本当に催眠術にかかっているようで、ぐいぐいと物語を牽引していくのだ。

モデル・女優として活躍する三吉だが、歌唱力や特技のダンスを活かしてオーディションを勝ち抜き主役の座を手にしたという。彼女の才覚は文字通りスクリーンの中で発揮され、ここまで清々しく自然体でヒロインを演じたことは彼女のキャリアにとっても大きな転換点となったのではないだろうか。妻夫木聡や綾瀬はるかを見出した矢口監督の慧眼もさすがと言うべきところ。

さらに本作で重要なのは、歌にダンスにだけではない。前述の通り本作では静香が旅を通して徐々に変化していく様子も描かれている。序盤の彼女はどこか背伸びをして無理に自分を飾ろうとする様子が見られたものの、まさかの催眠術をきっかけに他者と密接に関わり合うことを学んでいき、その中で自分を見つめ直していくことになる。ミュージカルパートだけではなく、刻々と繊細な変化を遂げていく様を見事に体現した三吉の演技力にも注目してほしい。

(C)2019「ダンスウィズミー」製作委員会

3:曲者揃いのサブキャスト!

本作において矢口監督が引き出したキャストの魅力は、主人公を演じる三吉に限ったことではない。真っ先に名前を挙げられるのが、マーチン上田の“サクラ”であり静香とともに彼を探す旅に出る千絵役のやしろ優だろう。やしろといえば倖田來未や芦田愛菜らのモノマネで有名だが、女優としては失礼ながら未知数だった。ところが彼女の初登場シーンで筆者はまんまと騙されたクチで、正直悔しさすら感じたほど。

さらに静香との旅でお調子者の性格をこれでもかと振りまくが、そんな姿ですら違和感を感じさせない。時としてその性格によって静香と対立もしてしまうが、彼女自身もまた静香と影響し合って変化していくキャラクターだ。

やしろに負けず劣らずのインパクトを残したのは、本作が女優初挑戦となったミュージシャンのchay。物語の途中から加わってくるストリートミュージシャン・洋子を演じる彼女は役柄とも相まって見事なボーカル&ギターパフォーマンスを見せる。唐突ながら静香&千絵とのセッションをいきなり成功させる場面では、やはり本職であるchayのアシストは大きい。

chayの愛らしいルックスとふんわりした方言演技が洋子の魅力を引き立てているが、実は彼女こそ本作において最も体当たりの演技を見せたキャストかもしれない。もちろん多くのミュージカルパートをこなしてみせた三吉とやしろの存在感なくして本作は語れないが、洋子と言うべきかchayと言うべきか、とにかく彼女の豹変ぶりはぜひともその目で確かめてほしいところ。劇場で最も笑い声が上がっていたのは、紛れもなく洋子のパートだったということをつけ加えておきたい。

(C)2019「ダンスウィズミー」製作委員会

4:ミュージカルパートに込められた意味

本作の屋台骨になっているミュージカルナンバーだが、“突然歌い踊り出す”ことに意味を与えていることも大きな特徴ではないかと思う。例えば高級レストランで、静香が山本リンダの「狙いうち」をBGMにダンスパフォーマンスを披露するシーン。静香のパフォーマンスは大胆にして実に華麗だが、実は彼女の大失態(相応の現実)を描いた場面でもあり、心身ともに疲弊してしまう静香の姿は同情以上の感情を誘う。

また新潟での“ダンスバトル”にも注目したい。見るからにヤベェ兄ちゃんたちに拉致されてしまった静香と千絵は絶体絶命のピンチに陥るが、そこで何故かヤベェ兄ちゃんたちのチーム同士によるダンスバトルが勃発。ここでは矢口監督と三度目のタッグとなる野村卓史が重低音効きまくりナンバー「Hold Up」を用意し、よもやの静香&千絵がダンスバトルに参戦する。その姿はヤベェ兄ちゃんたちに怯えていた数分前の姿とは別人で、見事なヒップホップダンスは自分の殻を打ち破るような、まるで解放を意味しているようにも見えた。

本来のミュージカルシーンでは、台詞で伝えきれない感情や抑揚或いは興奮を音楽に乗せることが多い。もちろん本作でもその役割は果たされているが、それ以上に音楽(ミュージカルナンバー)が直接的な役割を果たす場面も重要な意味を帯びている。それは静香の成長に欠かせないパーツであり、彼女とその周囲がミュージカルによって受ける影響を如実に現わしてもいる。ミュージカル映画でありながら、その裏ではしっかりとドラマも脈々と波打っているのだ。

まとめ

突然歌い始めて恥ずかしい…、なぜ踊り出すのか理解できない…。ミュージカルにつきものでもある“見えない壁”だが、実はそんな壁を打ち破るのに本作はうってつけなのではないか。魅力的なキャラクターにミュージカルナンバー、物語が絶妙に絡み合いつつラストに向かって1つに収束していくワクワク感はミュージカル映画だからこその醍醐味。矢口節で描かれる音楽とダンスの世界をぜひ堪能してほしい。

(文:葦見川和哉)

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    葦見川和哉

    葦見川和哉 映画が好き。旅が好き。小説が好き。 映画開眼と同時に映画音楽の魅力にも取りつかれたサウンドトラック収集家。

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