『Diner ダイナー』を美しく彩る「4つ」の魅力!

(C)2019 映画「Diner ダイナー」製作委員会

平山夢明の同名小説を原作に、極上の色彩表現で観る者を圧倒する鬼才・蜷川実花が実写映画化した『Diner ダイナー』。主演に藤原竜也を起用し、共演に玉城ティナ、窪田正孝、本郷奏多、武田真治、小栗旬、土屋アンナ、真矢みき、奥田瑛二ら豪華布陣を配したことでも話題だ。客は全員“殺し屋”──という食堂で繰り広げられるサスペンス・アクションの魅力を、今回じっくりと紹介したい。

蜷川実花ワールド炸裂の演出が光る!

監督を務めた蜷川実花といえば、本作にもちらりと登場する今は亡き名演出家・蜷川幸雄の娘である。写真家として活動していた彼女が安野モヨコ原作の『さくらん』で長編劇場監督デビューを果たしたのは2007年のこと。燃えるような赤を基調にしながら、絢爛豪華な原遊郭の花魁を鮮烈なまでにスクリーンへと映し出した。

続く監督第2作の『ヘルタースケルター』は現代を舞台にトップスターモデルが抱え込む欲望をありありと浮かび上がらせ、同時にやはり蜷川の映像美学が詰め込まれた作品となっている。

そんな蜷川の監督第3作に当たるのが、本作『Diner ダイナー』だ。今回は物語のほとんどが「ダイナー(食堂)」の中で展開するが、やはり“蜷川節”ともいえる演出が全編に渡って散りばめられている。舞台にして本作のもうひとつの顔でもあるダイナーは装飾美術を美術家の横尾忠則が手掛け、フラワーデコレーションをフラワーアーティストの東信が担当するなど、隅々にまで行き届いたデザインも有機的に蜷川演出に作用。

つまりダイナーというセットだけでも、実に贅沢なビジュアルを誇っているのだ。それらが渾身一体となって俳優陣に彩りを添えているのだから視覚的な情報量がとんでもないが、しかし不思議なくらいぴたりとピースが合わさったように違和感を感じさせないのだから、蜷川の“画面の統制力”はさすがと言ったところではないだろうか。

(C)2019 映画「Diner ダイナー」製作委員会

ダイナーの王・藤原竜也が魅せる!

主演の藤原竜也は、かつて舞台『身毒丸』で蜷川幸雄に見出された俳優。時を経て娘の蜷川実花によって主人公ボンベロ役に起用されるというのも、なんとも運命的だと言える。そんな藤原が演じるボンベロはかつて凄腕の殺し屋で、殺し屋組織を束ねるトップ・デルモニコに腕を買われてダイナーを切り盛りするという役どころだ。“元”殺し屋なのでギラついた殺意は見せないが、その代わりダイナーの主人として客である殺し屋たちに平等に食事を振る舞う姿を抑揚の効いた演技で体現している。

とはいえそこはやはり主人公。予告編でも大きな話題になった「俺はここの王だ」と言うセリフが示す通り、ボンベロはダイナーを守る責務を担っている。そのため粗相をする客に対しては容赦なく、また玉城ティナ演じる身売りされてきたオオバカナコへの態度も極めて高圧的だ。それでも“憎めない”のがボンベロの人間的な魅力であり、ふとした場面でその人間臭さがじわりと伝わってくる。匙加減ひとつで観る者を魅了する藤原の演技はさすがのひと言で、カナコや窪田正孝演じる殺し屋・スキンとのやり取りを通して見せる幾つもの表情は、藤原だからこそ演じ分けることができるのではないか。

そんなボンベロが、元殺し屋としてのスキルを遺憾なく発揮する場面の高揚感もまた素晴らしい。蜷川にとってアクションは初演出となるが、ジョン・ウーばりの2丁拳銃や藤原の身体能力が際立つナイフアクションも後半における大きな見どころだろう。藤原はかつて映画『るろうに剣心』シリーズで緋村剣心の宿敵・志々雄真実を演じ、複数人を相手に圧巻のアクションを披露した実績がある。藤原が映画で久しぶりに本格アクションを見せたというだけでも、ファンにとって本作は大きな価値があるのではないだろうか。

(C)2019 映画「Diner ダイナー」製作委員会

色気がハンパなさすぎる窪田正孝!

本作のサブキャストの中でも重要な位置に立っているのが、窪田正孝演じる殺し屋・スキンだ。

(C)2019 映画「Diner ダイナー」製作委員会

顔をはじめ至る所に切創を持ち、耳の一部が欠けた痛々しいビジュアルで、これまでの窪田の役どころとはどこか違う覇気のない眼差しが特徴的。ボンベロも実力を認めるスキンは曲者揃いのダイナー常連客の中では至って“まとも”な振る舞いを見せ、ボンベロに厄介者扱いされているカナコに対しても紳士的な態度で接する性格の持ち主でもある。

スキンがダイナーを訪れる理由は、ボンベロにしか再現できない“母親のスフレの味”を楽しむため。スキンはボンベロが作るスフレだけを味わうためだけに生きているとすら言い放つが、裏を返せば彼には“それ”しか生き甲斐がないということにもなる。スキン=窪田から滲み出る翳りは人生に絶望したような暗さにも似ていて、どこか儚げですらあるほどだ。そんなスキンという存在が物語の中盤で重要な役割を果たすからこそ、後半の加速感が作品そのものに生きてくるので注目してほしい。そして見事に大役を果たした窪田の男性的な色気は、本作における原色的な“美”とは対極に位置した美しさだと筆者は思う。

(C)2019 映画「Diner ダイナー」製作委員会

個性が強すぎるサブキャラクターたち

本作における玉城ティナのポジションをヒロインと呼ぶかは疑問だが、少なくとも彼女はオオバカナコとして映画の“視点”を牽引する役割を担っていることは確か。言い換えれば観客に最も近しい視点でダイナーで繰り広げられる饗宴を目の当たりにし、観客もまたそんなカナコの生き方を見届ける役目を果たす。

本作のオープニングでは演劇調のシーンが用意され、その真っただ中にいる人物こそカナコだ。彼女の周囲を歩く人間が一斉に奇妙な動きを見せるのは、人生の歯車がかみ合わないカナコという存在にピッタリと言える。もちろんそんなオープニングはしっかりと本編の中で“対”になっているので、彼女がダイナーという狂った世界の中で何を見て、そして感じ、どのような変化を遂げていくかも本作の注目すべき点だろう。

ボンベロとカナコが切り盛りするダイナーに集う殺し屋のメンツも錚々たるもので、中でも抜きん出た怪演を見せるのが本郷奏多だ。映画『キングダム』でも圧政を強いる暴君を憎々し気に演じた本郷だが、本作のキッド役はさらにその上をゆく強烈なインパクトを含んでいる。そもそも殺し屋稼業のために自らその体を縮ませたという時点でなかなか頭のネジが飛んだ設定だが、それどころか嬉々として人をなぶり殺す性格にも思わずドン引きしてしまう。その異常性は本作でも屈指と感じると同時に、本郷奏多という俳優は今後まともな役柄のオファーがくるのかしらんといらぬ心配をするほど。

サブキャラクターの中でもひと際異彩なる美しさを放つのが、真矢みき演じる殺し屋トップのひとり・無礼図。男装の麗人であり部下の荒裂屈巣と雄澄華瑠を従えてダイナーを悠々と歩く姿は、演じる真矢の佇まいが自然なほど様になっている、と言うか否が応でも目が引き寄せられてしまう。さらに荒裂屈巣と雄澄華瑠を演じるのは真琴つばさ&沙央くらまと、完全に“宝塚組”で固められた布陣。それでいて決してギャグネタになったりせず、むしろ宝塚組だからこそ醸し出せる雰囲気とアクションが実に効果的で、ある意味後半におけるオイシイ役回りだと言える。結果的にこの上なく正しい方法で宝塚組を配したことが、後半のアクションをぐっと引き締めたのだ。

まとめ

豪華なメンツがずらりと揃った『Diner ダイナー』。

たとえ登場シーンが短かったとしても各キャラクターの個性はとても色濃く、一目見ればそのパンチ力の強さがわかるはず(斎藤工&佐藤江梨子演じるぶっ飛びカップルもある意味衝撃的)。

ダイナーというデッド・オア・アライブの空間で、果たして誰が生き残り、誰が散っていくのか。そんな予想もしつつ、ボンベロとカナコの関係性や、さらにはキャストから美術に至るまでの煌びやかな美の競演をスクリーンで存分に楽しんでほしい。

(文:葦見川和哉)

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