映画コラム

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2016年07月21日

『ファインディング・ドリー』解説、あまりにも深すぎる「10」の盲点

『ファインディング・ドリー』解説、あまりにも深すぎる「10」の盲点

(C)2016 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

『ファインディング・ドリー』は、本国でアニメーション映画史上ナンバーワンのオープニング記録を樹立、興行成績は3週連続1位、ピクサー史上最高の興収を誇る『トイストーリー3』を超えることも秒読み段階と、特大ヒットをしています。

実際に映画を観てみると、その超ヒットに大・大・大納得できるおもしろさでした!アニメーションとしての出来もさることながら、前作にあったキャラクターの魅力に、さらなる“アップデート”があったと思えたのですから。

ここでは、前作『ファンディング・ニモ』で描かれていたことを踏まえ、本作『ファインディング・ドリー』のキャラクターの“欠点”を含めた魅力について解説します。大きなネタバレはありませんが、予備知識なく映画を観たい方はご注意を!

1.前作『ファインディング・ニモ』の親子関係は、じつは……

前作『ファインディング・ニモ』と、本作『ファインディング・ドリー』は、じつは“障がい者”を扱った映画として観ることができます。

前作においては、カクレクマノミのニモは明らかに“障がい児”で、その親のマーリンは“障がい児を持つ親”のようでした。
マーリンは、生まれつき片方のヒレが小さいニモに「お前はうまく泳げないんだ」と決めつけて、その可能性を信じていませんでした。学校のエイ先生にも「先生が目を離したスキに、何かあったら……」と必要以上に心配しています。
これは障がい児を持つ親が、子どもの可能性を信じないあまり、ついやってしまいがちな“過保護”なのです。
(ちなみに、『ファインディング・ドリー』はアンドリュー・スタントン監督の子育て経験が物語に反映されており、マーリンはかつての監督がモデルなのだそうです)

そして、障がい児であるニモは迷子になってしまったことをきっかけに、誰かに助けてもらえることを知り、勇気を持って問題に立ち向かっていきます。
親のマーリンは、“すぐ忘れてしまう”障がいを持つドリーとタッグを組んで、いなくなったニモを探します。

こう考えると、『ファインディング・ニモ』は、障がい児と、その親(しかもその相棒も障がいを持っている!)の冒険物語と言ってもいいのです。

2.ドリーの癖は“なんでもすぐ忘れてしまう”ことではない!?

ドリーの癖は「私、なんでもすぐに忘れちゃうの」と日本語に訳されていますが、原語ではちょっと違います。

というのも、ドリーは原語では「I suffer from short-term memory loss.」と言っているんです。「short-term memory loss」の意味は“短期記憶障がい”で、ドリーはなんでもすぐ忘れてしまうというよりも、じつは“ちょっと前のこと”をすぐに忘れてしまうのです。

本作『ファインディング・ドリー』では、子どものころのドリーが「short-term “remembery” loss.」と言葉を間違えて言っているのがめっちゃかわいいですねえ(笑顔)。



しかも今回は、ドリーが少し前のことを忘れてしまっても、ニモやマーリンと出会ったことや、“世の中の当たり前のこと”を覚えているという描写があります。
ドリーは、一部の長期記憶、手続き記憶(身体で覚えた記憶)や、意味記憶(言葉の意味)の能力はあるのです。

そして、ドリーは最愛の両親のことを思い出し、旅に出ることになります。ちょっと前のことをすぐに忘れてしまうドリーにとって、すぐには忘れない“長期記憶”となった両親のことは、何よりも大切に思えたのではないでしょうか。

なお、ドリーに似たような短期記憶障がいは、お年寄りの認知症によくみられます。認知症の方は新しいことをすぐに忘れてしまう一方で、過去のことはよく覚えていたり、長年培ったクセや行動がよく表れていることもよくあるのです。

3.ドリーは短期記憶障がいを改善する努力をしていた!

本作『ファインディング・ドリー』において、ドリーは短期記憶障がいを改善しようと努力していたようでした。
エイ先生の助手を努めようとしたとき、ドリーは何度も“すぐに復唱”していましたよね? これは少しでも他人の言葉を忘れないようにする“工夫”なのでしょう。前向きに欠点を治そうとする彼女のがんばりがみえて、うれしくなりました。
(後半でも、ドリーが何度も復唱をすることで、問題を解決しようとするシーンがありました)

しかしマーリンは、ドリーがエイ先生の助手を務めることに難色を示したり、あまつさえドリーにひどいことを言ってしまいます。
マーリンは前作から成長したとはいえ、まだまだ大切な人の可能性を信じられないところがあるんですね。そういう人間くささ(魚ですが)も大好きです。
(そういえば、マーリンが同じ水槽にいた魚のおもちゃを“あっちいけ”という感じに追い払ったシーンがありました。マーリンは、ドリーのことをまるでおもちゃのように“やっかいなもの”と考えてしまったところもあるのかもしれません)

ちょっとうるっと来てしまったのが、ドリーの父親が「僕はドリーに覚えてもらいたい、いい魚だよ」と、子どものころのドリーと“友だち”になろうとしていたこと。父親は、すぐに少し前のことを忘れてしまう、ひょっとすると両親のことさえ忘れてしまうドリーが生きていけるように、友だちを作る練習をしようとしていたんですね。

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