ネガティブなストーリーこそ人間の「リアル」|映画で人生が動いた瞬間

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突然ですが「幸せ」はリアルとバーチャル、どちらで体験したいですか?

「バーチャルで」

と答える人は少ないのでは。リアルに幸せを感じられる方が圧倒的にいいですよね。

では「悲しみ」や「苦労」はどうかというと、これはバーチャルで済むならそうした方が良さそうな気がします。

苦労や悲しみの経験は人間に奥深さや優しさを与えます。だからこそ「苦労は買ってでもしろ」なんて諺(ことわざ)があるけれど、それが仮想で済むならなおのこと良いわけです。

苦労や悲しみをバーチャルで得るなら、それはドラマ(物語)を観るのがわかりやすいですね。作り手の意図がふんだんに盛り込まれていますから。

映像作品でそういう悲哀を感じられるものが何かというと、僕の中では圧倒的に時代劇。とりわけ「必殺シリーズ」なんですよ。

(C)1984〜1996・2001 松竹/朝日放送

〜映画との出逢いで人生が動く瞬間がある。人生を動かす映画がある〜

誰にでも心のひだにひっかかり、ふとしたときに思い出す映画がある。理由も映画も人それぞれ。でも、その映画は誰かの人生の一部を、形成しているのかもしれない。
「映画で人生が動いた瞬間」では、そんな誰かの“人生の糧”となった映画を紹介します。それが、明日の誰かの新たな “人生の糧”なるかもしれない。そう思うと、少しわくわくします。

(松竹メディア事業部&シネマズby松竹編集部)

必殺シリーズに感じるリアル

人間がみんな論理的な思考だけで行動するようになったら世の中簡単です。論理が合っている、間違っているという議論があったとしても、突飛な行動を採る人はいなくなるでしょう。

ところが人間は感情で動くことが多いし、考え方には大いに矛盾を孕んでいる生き物です。そういった点を良く描いているなあととても思えるのが必殺シリーズの原点でもある、池波正太郎さんの小説「仕掛人 藤枝梅安」でした。

池波さんは様々な作品で

「人は良いことをしながら悪いことをし、悪いことをしながら良いことをする」

といった内容のことを語っています。そして池波作品では心の内にある矛盾を受け入れ向き合人間の姿がありのままに描かれているんですよね。小説の主人公・藤枝梅安は、ひとごろしでは大金を得ますが、表家業の針医者としては、貧乏人からはお金を無理に取り立てることのない優しさを持っています。

その小説をドラマ化したのが「必殺仕掛人」、そして必殺仕掛人のヒットで映画「必殺シリーズ」が生まれました。

(C)1984 松竹/朝日放送

必殺シリーズは主人公が殺し屋ということもあり「巨悪を倒すのは別の悪」という仕立てになっています。お金を払ってでも殺してしまいたい程の恨みを晴らすシーンは爽快そのもの。

しかし、主人公が「人を殺める仕事の自分たちはいつ誰の恨みを買っているかわからず、どこで死んでも不思議はない」と、決して善人ぶらない覚悟の毎日を送っているところに心の底の闇を感じるし、人間誰しも何かしら持っていそうな闇の部分を増幅させて描いているように感じられました。

主人公を決して美化しないところにリアルを感じるんです。

(C)1985 松竹/朝日放送

思わず泣いた必殺仕業人

テレビの必殺シリーズの方では第7作・必殺仕業人は指折りの好作の一つです。最終回で中村敦夫さん演じる赤井剣之助と中尾ミエさん演じる“お歌”が惨殺されるところに悲しいエンディングの良さと、人生は思い通りにならないという真(まこと)を死という形で描いた中にリアルを感じました。

とらわれた仲間を助けるために隠れていたところから飛び出すお歌と剣之介。

背中からばっさり切られるお歌。

「お歌~っ!!」

と叫んで抵抗するものの、複数人から切られてうつぶせに倒れる剣之介。

敵が去ったあと、二人の手が重なり合ったところで動かなくなるシーンで涙したのが、僕がTVドラマを見て初めて泣いた記憶です。当時の中村敦夫さんといえば別の時代劇・木枯らし紋次郎が大ヒットの、まさにトレンドのスターです。

そのスターを最終回とはいえ犬死に同然に死なせてしまうのですから、なんと悲しい進行でしょう。

予定調和にならない厳しさと、あっさりと大切なものを失ってしまうことが起こりうる悲しさ。それを奥野少年は時代劇から知ることとなったのでした。

(C)1984 松竹/朝日放送/松竹京都映画

矛盾した一面があるのが人間

必殺シリーズの登場人物はみなハードボイルドだし稼業の掟に忠実ですが、最後の最後、どこか仲間に対して優しさが現れます。その優しさが仇になって極悪人にやられてしまうこともあるのですが、完全な悪になりきれないところも魅力の一つ。

また、池波正太郎さんが描く藤枝梅安も、表の顔は貧乏人からは治療費を取らない鍼医者です。裏稼業の仕掛人とはまったく矛盾しているのですが、その矛盾を受け入れて日々暮らしているからこその懐の深さが、梅安、ひいては物語の奥深さにそのままつながっています。

連載中に池波さんが亡くなったため小説は未完の作品となりましたが、

(きっと梅安は畳の上では死なないだろう)

と多くの読者は思っていたでしょう。

「リアル」の根源は人間が抱える悲しさ・矛盾

努力して巨大な敵に打ち勝つ物語には、ポジティブな気持ち・努力・友情があります。なにかのマンガの標語みたいになってしまいましたが、そこに他の人の悲しみ・恨み・嫉み・矛盾が加わることで、物語の深みやリアリティが生まれてきます。

必殺シリーズには少年マンガのような努力と友情のシーンは出てきませんが、それを補ってあまりある負の心の動きがあります。

上澄みの良いところだけをすくい取るばかりがドラマではないですよね。
上澄みがある分、そこには淀んでたまった何かがあるはずで、その掘り起こしがあるからこそ文字通り深みが生まれてくるのだと信じています。

「必殺」には、物語の底にこそ訴えかける何かがあることを教えてもらいました。

http://www.shochiku.co.jp/anokorothebest/

(文:奥野大児)

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