トラン・アン・ユンが映画と文学の融合で生み出した絵画的世界

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(C)Nord-Ouest

■「〜幻影は映画に乗って旅をする〜」

村上春樹の代表作『ノルウェイの森』を映画化したことでも知られるベトナムの俊英トラン・アン・ユン。フランスで映画を学び、母国ベトナムを舞台にした作品から、日本や香港など、多国籍な作品を創り出してきた彼が、9月30日から公開された新作『エタニティ 永遠の花たちへ』で、ついにフランスを舞台にした、フランス語の映画を手掛けた。

しかも、そのキャスティングは実に豪華で、『アメリ』のオドレイ・トトゥ、『イングロリアス・バスターズ』のメラニー・ロラン、『アーティスト』のベレニス・ベジョという、現在のフランス映画界を代表する3人の女優が共演。彼女たちが紡ぎ出す、優雅で柔らかな空気感によって、不思議な時間へと誘われる作品なのである。

<〜幻影は映画に乗って旅をする〜vol.50:多国籍作家トラン・アン・ユンが映画と文学の融合で生み出した絵画的世界>

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アリス・フェルネの小説「L’Elegance des veuves」を原作にした本作は、19世紀末から物語が始まる。オドレイ・トゥトゥ演じる17歳のヴァランティーヌは、一途で純粋なジュールと結婚。6人の子供達に恵まれるが、生まれて間もなく亡くなる赤ん坊、結婚20年目にして急逝するジュール、そして徴兵されていく息子たち、と悲劇が続く。そんな中、息子が幼馴染のマチルドと結婚し、孫が誕生。ヴァランティーヌの一族は、大所帯となり、激動の時代の中で出会いと別れを繰り返していくのだ。

ひとりの母を軸にして、一族の歴史という最も普遍的なドラマ性を綴っていく本作。ルキーノ・ヴィスコンティやフランシス・F・コッポラのような巨匠がかつて作り出した、壮大な叙事詩とはまた違うテイストで、シンプルかつ淡々と流れる時間を掬い上げていく。映画の中心にあることは、物語の重厚さや、発生する〝できごと〟ではなく、その血脈として生きた人間を描くという崇高なビジョンに他ならない。

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また、物語を進めていくナレーションが、劇中に登場しない第三者で行われているという点に、まるで文学を読み聞かせるような客観視したスタンスが窺えるのだ。永遠と続いていく、この一族の歴史の一部を、たった2時間で100年近く切り取っているものだと感じさせることで、彼らの紡いできた歴史が紛れもなく現代に通じていると伝えようとしているのではないだろうか。

とりわけ目を引くのは、トラン・アン・ユン監督と相性のいいカメラマン、マーク・リー・ビンビンの構築した画面の主張の強さである。絵画のような美しさを携え、草木の緑は紛うことなく緑に色づき、水や空は果てしなく青い。そこに映る人物、ことさら主人公である女性たちは、夕陽の橙を帯びるまでもなく輝く。

それでありながら、徐々に増えていく人物たちが、ひとつの節目に突然フレームの中に現れてくる画面の異色さ。欧米の作品では少し浮いた表現にも思える、人口密度の高い世界で育まれてきた才能にしか作り出すことのできない人物の映し方で、端的にいえば〝かったるい〟印象を出しかねない絵画的映像にメリハリを与えているのだ。

アジア映画らしい美学というべきだろうか。このようなフレームを観ていると、トラン・アン・ユンとマーク・リー・ビンビンが最初にタッグを組んだ2000年の作品『夏至』を思い出さずにはいられない。

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『エタニティ 永遠の花たちへ』とは対照的に、夏の暑さが画面全体から伝わってくる同作もまた、ハイコントラストで印象的な映像が魅力の美しい作品であった。母親の命日に集まった仲の良い3姉妹はそれぞれに恋愛に関する悩みを抱えていた。そんな折、母が父以外の男性を愛していたという秘密を知り、戸惑いを抱えながら家族の絆を深めていくのである。

女性たちの群像劇を中心に文学的な語り口をしている点に『エタニティ 永遠の花たちへ』と共通している部分を感じ、また他のトラン・アン・ユン作品(『ノルウェイの森』は別にして、『シクロ』や『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』のような都会的なタイプの作品)にはない、自然の匂いを感じ取れる空気感もよく似ている。

トラン・アン・ユンという作家の作品は、国籍も時代も選ぶことなく、ただ自然の流れに身を任せる人々を描いたときに、その生命力を最大限に見せつけるのではないだろうか。

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(文:久保田和馬)

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