「ジョーのあした」の辰吉丈一郎が「クリード」を見たら、どんな感想をもらすだろう?ー「役に立たない映画の話」2

■「役に立たない映画の話」

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「役に立たない映画の話」

ボクシング映画は名作ぞろい

爺  この間見た「ジョーのあした 辰吉丈一郎との20年」という映画が、とても面白くてね。

若者 「ジョーのあした」って・・・「あしたのジョー」ですか?

爺  ちがーう。「ジョーのあした」は阪本順治監督が、プロボクサーの辰一郎を20年間撮影し続け、それをまとめたドキュメンタリーだよ。

若者 20年も追いかけたんですかあ? そら凄い根性というか、しつこさですねえ。

爺  僕はボクシングというスポーツも好きだし、ボクシング映画も大好き。古くは「チャンピオン」とか「傷だらけの栄光」とか、ボクシング映画には名作が多いよね。

若者 すいません。映画が古すぎて、よく分からないんですが・・。

爺  ああ、もう!!「ロッキー」ぐらいは見ているだろう?

若者 「ロッキー」は、見ました。テレビでですが。




チャンピオンになった男は、その後いかなる人生を送るのか?

爺  まあいいや。ただし「ジョーのあした」という映画は、ボクシング映画とは言えないんだ。辰吉のボクシング・シーンがほとんどないから。でも、常々僕が思っていた疑問に答えてくれた映画なんだよ。

若者 試合に臨むボクサーは、その前日に何を食べるか?といった疑問ですか?

爺  ちがわい。チャンピオンになったボクサーは、その後どういう人生を送るのだろうか?ということさ。

若者 「ロッキー」だと、結局ロッキーはチャンピオンのアポロに負けますよね。

爺  そうそう。「ロッキー2」でのリターンマッチで、晴れてロッキーはアポロに勝つんだけれど、「ジョーのあした」の辰吉は、1991年にWBC世界バンタム級チャンピオンをTKOで破って世界チャンピオンになるものの、翌92年には防衛戦でビクトル・ラバナレスに負けてしまうんだ。ところが93年にこのラバナレスと再戦して勝利。再び世界チャンピオンの座に輝いたにも関わらず、網膜剥離で王座を返上しなくてはならなくなる。そして94年には薬師寺保栄に負け、96年と97年にはダニエル・サルコザに続けて負けている。

若者 単にチャンピオンになって。それを守っているだけの人じゃないんですね。

爺  そう。そして阪本監督が辰吉にカメラを向け始めたのが、95年の8月から。それ以前に阪本監督は辰吉を主演にした「BOXER JOE」というドキュメンタリー・ドラマを監督していて、そこで辰吉という人間を面白いと思ったのがきっかけだと言うんだ。

若者 ドキュメンタリー・ドラマって何ですか?

爺  基本的にドキュメンタリーなんだけど、「BOXER JOE」の場合は、世界チャンピオンに挑戦する辰吉と、彼を応援する家族をドラマとして描写するという手法をとっているんだ。



未だ現役にこだわる辰吉は、「クリード」のロッキーか?

若者 なるほど。ところで、辰吉は「クリード/チャンプを継ぐ男」を見ていますかね?

爺  どうなんだろう?見ていたら、ぜひとも感想を聞きたいね。

若者 「クリード」は、「ロッキー」シリーズに登場したアポロ・クリードの息子が、既にボクサーを引退したロッキーに「オレをチャンプにしてくれ」と言って、彼のトレーニングを受けて成長していく話。

爺  今の辰吉とも、ダブるところはあるね。辰吉の次男・寿以輝くんがプロテストに合格し、プロボクサーになった。だから「クリード」のアポロの息子とロッキーの関係が、辰吉親子と似ている。

若者 でも、辰吉は未だ現役なんでしょう?

爺  そうなんだ。45歳になった今でも、毎日トレーニングを欠かさないし、「ジョーのあした」でも、しつこく阪本監督が「引退しないの?」と聞くんだけれど、彼の答えは一貫してノー。「当分しない。根拠が見つからない。人から奪い取られるものではない」というのが辰吉の主張で、実際に97年には3度目のチャンピオン返り咲きを実現しているし、まだまだやる気満々だよ。

若者 「クリード」のロッキーのようには、ならないみたいですね。

爺  だから「クリード」を見たら、「オレはこんな風に隠居したりしない!!」と言うかもしれないね。



今の辰吉は、ロッキーではなくスタローンを思わせる。

若者 ところで「クリード」ってとても良い映画だったんですが、正月公開でヒットしたんですか?

爺  まあ正直なところ、今ひとつでね。良い作品なのに残念だよ。
若者 なんかもう一度見たくなっちゃったなあ。どこかのシネコンで、まだやってますかねえ?

爺  ネットで探してご覧。確かに「ジョーのあした」の辰吉と「クリード」のロッキーは、チャンピオンになったという共通点はあるものの、それからの人生は違う。むしろ「クリード」のロッキーではなく、ロッキーを演じたシルベスター・スタローンのほうが、現在の辰吉と似ているように感じるね。
若者 あ、なるほど。スタローンも未だアクション俳優として現役を貫いているし。「エクスペンタブルス」シリーズとかで。

爺  スタローンが「クリード」の演技でゴールデン・グローブ賞を取った時の、あのスピーチには感動したね。「僕のイマジナリー・フレンドであるロッキー・バルボアに感謝します」という。スタローンがロッキーを生み出し、そして演じた。一方ロッキーがスタローンという俳優を支えたことも事実なんだし。

若者 「クリード」は、若いライアン・クーグラー監督の着想に対して、スタローンが「ロッキー」シリーズのキャラクターを預けたことで、映画化出来たわけですから、いわばバトンを渡したわけですね、若手に。

爺  「ジョーのあした」を見る限り、辰吉はまだまだバトンを渡しそうにないけれど、渡すとすれば実際の息子さんにかな。

若者 なんか、「ジョーのあした」と「クリード」って、パラレル的な関係にありますね。辰吉はこの後、「クリード」のロッキーみたいに若いボクサーのトレーナーになるかもしれないし、スタローンのように現役のアクションスターを続けるかもしれない。

爺  そんな感じもするね。ボクシングという共通項を意識すると。

若者 で、あなたの引退はいつなんですか(笑)?

爺  辰吉よりもだいぶ年上だけど、わしもまだまだ現役!!引退なんかせんわいっ!!

若者 いいかげんに、バトンを渡しましょうよ・・・・。

爺  やだ。

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(企画・文:斉藤守彦)


    ライタープロフィール

    斉藤守彦

    斉藤守彦

    斉藤守彦(さいとうもりひこ) Morihiko Saitoh 静岡県浜松市出身。映画館、ビデオ会社でのアルバイトを経て、映画業界紙「東京通信」記者 (後に編集長)に。1996年からフリーの映画ジャーナリスト/アナリストとなり、以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「HiVi」「ザテレビジョン」「日経エンタテインメント!」「宇宙船」「スターログ日本版」「INVITATION」「東京カレンダー」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」「Pen」などの雑誌・ウェブメディアに寄稿。2007年秋に「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」を、08 年「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」、09 年「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」、 10 年に「『踊る大捜査線』は日本映画の何を変えたのか」(共著) を上梓。 他の著書に「図解でわかるコンテンツ・ビジネス」1〜4(共著)、「ソノラマ MOOK/ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」(構成・執筆) 、電子書籍「日本映画、飛躍と困惑の過去・現在・未来」等があり、ここ数年は「映画宣伝ミラクルワールド」「80年代映画館物語」と、独自の視点による書籍を執筆。2016年3月には新作「映画を知るための教科書 1912−1979」が世に出る。現在、水道橋博士編集長のメールマガジン「メルマ旬報」で「2016年映画館物語」を連載中。また「BOOKSTAND映画部!」で、「映画を待つ間に読んだ、映画の本」と「映画惹句は、言葉のサラダ」の2つの連載を行っている。

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