『怪物はささやく』が、あなたが抱えた“モヤモヤ”に効く理由

怪物はささやく ポスタービジュアル

(C)2016 APACHES ENTERTAINMENT, SL; TELECINCO CINEMA, SAU; A MONSTER CALLS, AIE; PELICULAS LA TRINI, SLU.All rights reserved.

6月9日より公開の映画『怪物はささやく』は、心の機微を丹念に描いたドラマであり、『パンズ・ラビリンス』にも通ずる“痛み”を伴うダークファンタジーの秀作でした。本作の魅力がどこにあるのか、以下よりたっぷりとお伝えします。

1:話される物語に“モヤモヤ”してしまうことが重要だった

本作『怪物はささやく』の物語は、闘病中の母を持つ孤独な少年が、“怪物”から「わたしが3つの物語を話し終わったら、お前が第4の物語を話せ」と迫られるというものです。

とても奇妙で、かつ現実では起こり得ないファンタジーを描きながらも、実はこの世に普遍的に存在する“不条理”を浮き彫りにする内容になっていました。

何よりも特徴的なのは、怪物が話す物語がちっとも“勧善懲悪”ではないこと。「王子様が魔女を倒して、お姫様と結婚しました。めでたし、めでたし」なんてことはなく、何とも歯切れの悪い、納得できない物語と言い切ってもいいでしょう。

当然ながら、「そんな話のどこが面白いの?」「なんの教訓があるの?」「ちっともいい話なんかじゃないじゃん!」と、物語を聞いた人は思うでしょう。実は、その“モヤモヤする”という感情こそが本作では最も大切なポイントであり、主人公が常に抱えている“矛盾”ともシンクロすることなのです。

本作『怪物はささやく』は、不条理な出来事に翻弄されてしまったり、世の中に欺瞞を感じてしまったり、はたまた“悪意に満ちた感情”を抱いてしまった人にこそ観てほしいです。

怪物の話す物語に納得できなければできないほど、モヤモヤとしてしまうほど、最後に話される“第4の物語”の物語が、胸にストンと落ちるものになっているのですから……。

そして、最終的に提示された、明確な1つの“答え”は、この映画の主人公だけでなく、全ての人の悩みを、本当に解消してくれるほどの可能性を秘めています。その“答え”がわかった瞬間、涙を流してしまうかもしれませんよ。

2:原作小説と監督が抜群の相性の良さ!悲しくも美しい物語だった。

本作『怪物はささやく』の監督であるフアン・アントニオ・バヨナは、2007年に『永遠のこどもたち』というダークファンタジーを手がけており、同作はアカデミー外国語映画賞スペイン代表に選出され、ゴヤ賞では作品賞を含む14部門にノミネートされるなど、高い評価を得ていました。

『怪物はささやく』は英文学最高峰のカーネギー賞/ケイト・グリーナウェイ賞をW受賞したベストセラー小説を原作としており、映画はこの原作にかなり忠実です。そうであるのに、映画『怪物はささやく』と、脚本家も違うはずの『永遠のこどもたち』は、とても似たテーマを扱っていました。

例えば、フアン監督は、『怪物はささやく』の原作者の1人であるパトリック・ネスが担当した脚本について、こう説明をしています。

「この物語は死の暗い側面を描いているけど、最後には希望が見える。彼の脚本は基本的に小説に忠実だが、新たなテーマも与えている。映画でしかできない領域を開拓したんだ」

この、“死の暗い側面を描いているけど、最後には希望が見える”という要素こそが、『永遠のこどもたち』と奇しくも一致しているのです。それでいて、“映画でしかできない領域を開拓した”という言葉通り、原作となる重要なエッセンスを拾いつつも、映像でしか成し得ない表現にも果敢に挑戦しており、フアン監督はその期待に見事に応えていました。

何より、『永遠の子どもたち』の大きな魅力であった、屋内の美しい美術、画づくり、現実離れしたファンタジーの見せ方や演出は、この『怪物はささやく』で存分に発揮されていました。

しかも、“誰かの死を描いた悲しい物語でありながらも、その印象はファンタジックで美しい”という監督の作家性が、これ以上ないほどに『怪物はささやく』の原作小説との相性の良さを見せているのです。

『怪物はささやく』をフアン監督に手がけてもらって、心からよかった、と思うことができました。昨今では『この世界の片隅に』の片渕須直監督や『夜は短し歩けよ乙女』の湯浅政明監督など、原作と監督の相性が抜群の日本のアニメーション映画があり、またしても「最高のマッチングが行われた!」という嬉しさでいっぱいになったのですから!

もちろん、『怪物はささやく』は原作を読んでいなくても、予備知識がまったくなくても楽しむことができますよ。

怪物はささやく サブ1

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3:原作のイメージそのまま!極上のダークファンタジーに浸ろう。

怪物の見事な造形はもちろん、怪物の話す物語が“切り絵”のような美しいアニメーションで表現されていることも特筆に値します。原作の“現実の世界に、急に恐ろしいものが割り込んでくる”という面白さと、物語の“異質さ”を、映像でもこれ以上無く表現できていました。

実は、原作小説を読み進めていると、時々ドキッとする、ホラー風味でありながらも美しい挿絵が目に飛び込んできます。その特徴は、映画でもほぼ“そのまま”でした。というのも、映画版の怪物は200種類ほどのスケッチが描かれたのですが、結果的に原作の絵に近いものが最終的に採用され、原作のイラストレーター本人も制作過程に携わるようになったのですから。

脚本だけでなく、こうしてビジュアルにも原作小説のクリエイターが関わっている、というのも、『怪物はささやく』の大きな魅力です。実写映画化作品において、「原作とイメージが違う!」などといった不満が噴出することはままありますが、本作にはそういった心配はまったくいりません。最高のスタッフによる、原作そのままの極上のダークファンタジーに、最初から最後までどっぷりと浸ることができるでしょう。

ちなみに、映画はかなり原作小説に忠実なつくりになっていますが、ラストシーンだけはハッキリと異なっています。主人公の幼馴染の女の子など、原作にしかない描写もあるので、映画の後でも読んでみるのがいいでしょう。きっと、新たな感動があるはずですよ。

怪物はささやく サブ2

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4:『エイリアン』や『ローグワン』のあの人も!映画ファン必見の豪華キャスト!

本作のさらなる魅力は、“超”がつくほどの豪華キャストにもあります。『エイリアン』シリーズのシガニー・ウィーバーが孫と不仲なおばあちゃんを、『ローグワン/スターウォーズ・ストーリー』のフェリシティ・ジョーンズが闘病中の母を、『96時間』や『沈黙 -サイレンス-』のリーアム・ニーソンが何と怪物の声およびモーションキャプチャーを担当しています。

シガニー・ウィーバーは自身初となる祖母の役を演じるにおいて、“祖母役に不慣れな自分”をむしろ上手く利用したのだとか。というのも、原作でも映画の脚本でも、主人公の少年は祖母を「ぜんぜんおばあちゃんらしくない」と思っているので、その“不慣れ”な印象がそのまま役にぴったり合っているのです。彼女がどのように心変わりをして、孫と打ち解けていくのかも、本作の見どころになっています。

怪物の見た目が恐ろしく、その行動もやや勝手なところがあるのに、どことなく親しみやすさがあるのは、リーアムの演技によるところが大きそうですね。

個人的には、特に『ローグワン』が好きだった方に本作を観て欲しいです。同作で孤高の女戦士であったフェリシティ・ジョーンズ が一転してやせ細り、弱々しい母親を見事に演じているのですから。ネタバレになるから詳しくは書けませんが、テーマとしても『ローグワン』に通じるところがありますよ。

1000人のオーディションから選ばれた、子役のルイス・マクドゥーガルの存在感にもぜひ注目して欲しいところ。主人公の心の中での葛藤を、彼は撮影時12歳ながら表情の機微で見事に表現しています。しかも、ラストシーンは監督の意向で、ルイスに台本を渡さずに撮ることにしたのだとか。ラストのあの反応は、演技を超えた“本物”なのです。

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おまけ:合わせて観て欲しい映画はこれだ!

最後に、『怪物はささやく』が気に入った人に観て欲しい、またはこの作品が好きな人に『怪物はささやく』をおすすめしたい、という3つの映画をご紹介します。

1:『BFG ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』

BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント (字幕版)

少女のところに巨人のおじいちゃんがやってきて冒険を繰り広げる、という夢いっぱいのファンタジー映画です。物語運びやアクションの見せ方に、スティーブン・スピルバーグ監督の“らしさ”が満載で、童心に返って楽しむことができました。

『BFG』と『怪物はささやく』は、孤独な子どもと人外の者の交流という大きな共通点があり、ビジュアルもけっこう似ています。さらに、どちらも物語にも根底に“深刻な悩み”があり、そこからの“癒やし”が描かれていました。

『BFG』は子どもにもわかりやすい内容でしたが、『怪物はささやく』は幾分オトナ向けで、哲学的な思想を含んでいます。物語のアプローチが似ていながら、それぞれ方向性の違う尊いメッセージがある、というのも面白いです。

2:『ビッグ・フィッシュ』

ビッグ・フィッシュ (字幕版)

『ビッグ・フィッシュ』で描かれているのは、ホラばかり吹いている変人の父親と、その息子の交流。ファンタジックな映像美が魅力的なのはもちろん、「なぜ人は物語を語るのか」という、おとぎ話や創作の根源に関わるテーマを内包した名作でした。

『怪物はささやく』も同様に、「なぜ人は物語を語るのか」というテーマについて、ユニークかつ、誠実な“答え”を用意しています。その答えは(ネタバレになるので詳しくは書けませんが)ある意味では『ビッグ・フィッシュ』とは正反対で、ある意味では表裏一体のもの、と言えるでしょう。

3:『インポッシブル』

インポッシブル(字幕版)

『怪物はささやく』と『永遠のこどもたち』と同じく、フアン・アントニオ・バヨナ監督による作品で、実際に起こった津波による災害を“これでもか”とリアルに描いた作品です。

津波の大迫力かつ凄惨な映像は、日本人であれば間違いなく3.11の東北大震災を思い起こすでしょう。必死になって離れ離れになった家族を探すシーンは、物理的に受けた傷も相まって、強烈な“痛み”を観客に与え続けます。心の底から辛いと感じるシーンの連続ですが、それこそが作品にとって必要なものでした。

主演のナオミ・ワッツとユアン・マクレガーの演技もさることながら、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』や『スパイダーマン:ホームカミング』でスパイダーマンを演じるトム・ホランドが素晴らしいです。今よりも少し幼く見える彼が、誰よりも家族を大切に思って奔走する少年を熱演しており、その切実さに胸が締め付けられました。

『インポッシブル』はファンタジー色がいっさいない作品ですが、“理不尽な出来事にどう対処するか”という要素において、『怪物はささやく』と『永遠のこどもたち』にも通じています。やはり、監督の作家性は一貫して保たれているのですね。

なお、フアン監督は、2018年公開予定の『ジュラシック・ワールド2』でもメガホンを撮ることが報じられています。ハリウッド大作に見合うだけのスケール感のある作品を監督が作れるのは、この『インポッシブル』でもう証明済みというわけ。今から公開が楽しみです!

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(文:ヒナタカ)

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