『それだけが、僕の世界』は、『スター誕生』に負けない号泣映画の傑作!

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韓国の名優、イ・ビョンホンと若手演技派のパク・ジョンミンが、兄弟役で共演することでも話題の韓国映画『それだけが、僕の世界』が、12月28日から全国公開された。

ポスターや予告編からは、どうしても『レインマン』の様な泣ける兄弟愛物を連想してしまう本作。果たして、その内容と出来はどうだったのか?

ストーリー

かつて、WBC東洋ウェルター級チャンピオンだった元プロボクサーのジョハ(イ・ビョンホン)は、40歳を過ぎた今は定職も住む場所もない生活を送っていた。
そんなある日、偶然17年前に別れた母親インスク(ユン・ヨジョン)と再会し、今まで会ったことも聞いたこともない、弟ジンテ(パク・ジョンミン)と一つ屋根の下で暮らすことになる。
サヴァン症候群だというジンテにジョハは戸惑い、時には激しく苛立ちながらも、3人のいびつでどこか微笑ましい“家族”の時間が過ぎていくはずだったが…。

予告編

パク・ジョンミンの驚異の演技力に注目!

奇妙な髪型や服装で普段のオーラを完全に消して、本作では人生に挫折した元ボクサーを見事に演じている韓国の名優、イ・ビョンホン。

少ないセリフで、その複雑な内面を表現する彼の演技も素晴らしいが、何といっても本作の見所は、サヴァン症候群でありながら、ピアノの演奏には天才的な能力を発揮する弟ジンテ役の、パク・ジョンミンの脅威の演技力に尽きる!

実際に自身が演奏している、ピアノ演奏シーンの指の動きはもちろん、サヴァン症候群の患者になりきったかのような、その演技が余りに凄すぎて、もはや彼の素の顔が想像できないほどにハマっているのだ。

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特に素晴らしかったのが、弟の扱いに手を焼いていたジョハが、町の公園に置いてあるピアノで見事な演奏を披露するジンテの姿を観て、弟への認識を改めるシーンだった。

誰でも使えるピアノが公園に設置してあるという、韓国の開かれた文化状況にも驚かされるが、普段は自分の部屋や母親の通う日曜礼拝で演奏しているジンテが、公園で好きなピアノを自由に弾くその幸せそうな表情と、自然に多くの人々が彼の周りに集まるその光景は、音楽が障がいという垣根を越えて人々の心を繋ぐものであることを、我々に教えてくれるもの。

更に、決して余裕のある生活ではないが、ピアノ好きなジンテのために部屋にピアノを置いている母親インスクの愛情の深さが、昔捨てた息子ジョハへの想いや、償いのためでもあると気が付いた時、実は本作が兄弟の物語ではなく、母親と子供の関係性を描く作品であることに気が付いて頂けるはずだ。

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情けない男役でも、イ・ビョンホンはやっぱり凄かった!

前述した通り、どうしてもジンテ役、パク・ジョンミンの素晴らしい演技に目を奪われてしまいがちな本作。

だが、今回40過ぎて定職に就けない男を演じるイ・ビョンホンも、ちゃんと要所で素晴らしい演技を見せてくれるのだ。

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中でも特に印象に残ったのは、母親の苦悩と深い愛情を知ってしまったジョハが、刑務所に収監されている父親を訪ねるシーンだった。

実はジョハが長年許せなかったのが、自分を捨てて家を出た母親ではなく、暴力を振るう父親から母親を守れなかった自分自身であることが、このシーンで観客に提示されるからだ。

このジョハの心の動きが分かれば、なぜジョハがボクシングの道に入ったのか? その理由にも、きっと気が付いて頂けると思う。

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刑務所の中にいてもまだ昔のままで、一切反省も改心もしていない父親に対して、ついにジョハが男として対決するこのシーンが観客の心に響くのも、やはりイ・ビョンホンの演技力があればこそ! それまで自分の過去から逃げてきたジョハが、守るべき家族を得て、母と自分の過去に向き合おうとするまでに成長したことを示すこのシーン、必見です!

実は母親の愛と、女性の自立を描く物語だった!

前述した、ジョハとジンテの素晴らしい兄弟愛に加えて、ジョハの母親の悲しい過去に代表される様に、本作には過酷な運命にも負けず、強く生きる女性が次々に登場する。

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なぜかジンテに優しい、ジョハ親子が住む家の大家の娘の存在など、予想外に女性を中心に物語が描かれていく本作。中でも、本作で重要な役割を果たす三人の母親たちが、実は全員シングルマザー! という点は、女性の自立と強さを描く上で、実に効果的だと言えるだろう。

実際、この大家の女性もシングルマザーであり、娘を育てながらホストクラブを経営して、立派に自立しているのだ。

一見派手な外見で、いかにも水商売風に見える彼女だが、娘が偏見無くジンテと仲良くゲームをしたり、一緒に食事をとる描写が入ることで、この女性が実は多様性に理解のある、良い人であると観客にも分かるのが上手い!

実は映画の後半で、彼女がジョハを自分の店のホストにスカウトする描写があるのだが、それはインスクの事情を知っている彼女が、将来的に弟の面倒を見なければならないジョハに、今から定職を与えようとする思いやりだったと、やがて観客にも分かることになる。

更にもう一人、ジンテが参加するピアノコンクールを主催する、音楽院の会長でもある、ガユルの母親の存在も大きいものがある。

一見冷淡で、感情よりもビジネス優先に見える彼女だが、実はその内面では、過去の壮絶な出来事が原因で、二度とピアノを弾こうとしなくなった娘のことを、誰よりも心配し愛していることが、最終的に観客にも示されるからだ。

こうして、ジョハとジンテとの出会いによって、ガユル母娘の人生も、また輝きを取り戻していくことになるのだ。

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この様に、一見兄弟愛の物語と思わせて、後半から意外な展開を見せることになる本作だが、こうした細かな表現や感情の動きが描かれることによって、観客側も完全に映画に引き込まれていくのは見事!

過去の償いのため、全てを自分で背負おうとする母と、頭では分かっていながらどうしても許せない息子。お互いの思いと愛情が交差するラストの展開は、是非劇場で!

最後に

ポスターや予告編、そして前半の展開から、泣ける難病物や兄弟愛物を連想して鑑賞に臨んだ本作。だが、実はそれだけではなく、女性の自立や母親の愛を描いた作品だと、次第に気付かされることになった。

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実際、本作に登場する男性たちは、どこかコミカルに描かれていて、むしろ女性の方がより強く活動的に描かれているのだ。

ラストでしっかりと互いの手を握り合い、二人で明日へ歩き始めた、ジョハとジンテの兄弟。決して平坦ではない、彼らのこれからの道のりに観客が希望を持てるのも、彼らの周囲の女性たちが、きっとサポートしてくれるはず! そんな確信が持てるからに他ならない。

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ジョハが母親と断絶した過去の裏に隠された秘密。そして、偶然の出会いからジンテのピアノに多大な影響を与えることになる、ガユルの過去の壮絶な体験など、決して単なる甘い感動作には終わらせていない本作。

過去の辛い体験を乗り越えて、明日への新しい一歩を踏み出そうとする女性たちの姿と、この兄弟を温かく見守り励ましてくれる周囲の人々の姿に、女性への敬意と感謝の気持ちを抱かずにはいられない本作こそ、正に全男性必見の作品! そう思わずにはいられなかった。

母の願いが見事に実を結んだラストに流れる、主題歌の歌詞が更に観客の涙を誘うのは確実なので、全力でオススメします!

(文:滝口アキラ)

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    滝口アキラ

    滝口アキラ

    滝口アキラ 映画ライターにしてブルース・リー研究家。主な著書に、「ブルースリー超全集」「俺たちのジャッキーチェン」「俺たちの007」などがある。映画のコミカライズや、日本オリジナル映画主題歌などの、「失われた映画カルチャー」にも造詣が深く、TBSラジオ「ウイークエンドシャッフル」へのゲスト出演、今関あきよし監督作品への声優出演、更には「実際に映画に出演する映画ライター」として、現在「毎月1本必ず映画に出る」をノルマに活動中。その抜群の企画力と、交友関係の広さには定評がある。

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