『キネマの天地』と『ハチ公物語』 1980年代を代表する2作品がBD化!

■「キネマニア共和国」

好評! 松竹ブルーレイ“あの頃映画the BEST”の11月発売作品は……。

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街~ vol.60》

山田洋次監督の『キネマの天地』(86)と、神山征二郎監督の『ハチ公物語』(87)です!
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『キネマの天地』は松竹カツドウヤによる
本当の“蒲田行進曲”

今回リリースされた2作品は、ともに1980年代の半ばから後半にかけて大ヒットした話題作です。

まず『キネマの天地』ですが、本作が企画されるきっかけになったのが、つかこうへいの戯曲を角川春樹製作、深作欣二監督で映画化した『蒲田行進曲』(82)でした。
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映画撮影所を舞台にしたこの作品、配給した松竹が戦前の無声映画時代に建立していた蒲田撮影所の所歌からそのタイトルをいただきつつ、その中で描かれていたのは何と東映京都撮影所だったのです。

これを見て忸怩たる想いにとらわれた野村芳太郎監督ら松竹のベテラン映画人たちは、「ならば自分たち松竹カツドウヤたちの手で、本当の“蒲田行進曲”を作ってやろうではないか!」といった気概をもって、蒲田から移設された松竹大船撮影所の50周年記念映画として製作したのが、この『キネマの天地』なのでした。

山田洋次監督は86年夏の『男はつらいよ』シリーズの製作を返上して、本作に臨みました。脚本も山田、朝間義隆の名コンビと、松竹助監督出身の名脚本家・山田太一、さらには井上ひさしも加わっての豪華な布陣となりました。

ここでは無声映画時代の松竹蒲田撮影所を舞台に、大部屋女優の田中小春が大スターの栄光をつかむまでを、叙情豊かに描いていきます。

小春のモデルは昭和を代表する名優・田中絹代で、これを演じたのは有森成実。当時、小中和哉監督のインディーズ映画『星空のむこうの国』(86)ヒロインで若い日本映画ファンの注目を浴びていた彼女にとって、さながら劇中の小春同様の大抜擢でもありました。

その他、実名ではありませんが当時カツドウヤと呼ばれていた松竹の映画人が多数登場。小津安二郎をモデルにした緒方監督(岸部一徳)や、斎藤寅次郎をモデルにした内藤監督(堺正章)などなど、映画ファンとしてはあの役のモデルは…などと推理してみるのも一興でしょう。

当時世間を騒がせた岡田嘉子と杉本良吉の駆け落ち事件も、松坂慶子&津嘉山正種で再現されています。

さらには、小春の父親・喜八を演じる渥美清の名演! 80年代に入って『男はつらいよ』シリーズ以外の出演を控えてきていた彼ではありましたが、ここでは久しぶりに寅さんとは一味違った人情味豊かな味わいを披露し、彼もまたキネマの天地の中で生き続けてきた偉大なる映画スターであったことを再認識させてくれます。

当時の蒲田撮影所を再現したセットなども大きな見どころですが、その蒲田から大船へと撮影所が移転することを宣言して映画は終わります。
やがて松竹はその地で、庶民による庶民のための涙と笑いの“大船調”を確立させていくのでした。

今はその大船撮影所もなくなって久しいものがありますが、そのスピリットは山田監督の最新作『母と暮らせば』(15)や、朝原雄三監督の『愛を積む人』(15)、本木克英監督『超高速!参勤交代』(14)などから、きちんと受け継がれていることが再確認できます。

いずれにしましても、『キネマの天地』を見ながら、今から80年ほど前のカツドウヤさんたちの凱歌を堪能していただければと思います。

忠犬ハチの実話を基にした
大ヒット作『ハチ公物語』

『ハチ公物語』は、亡くなった主人をそれとは知らずに渋谷駅前でずっと待ち続けた忠犬ハチの実話を基に、原作&脚本・新藤兼人と神山征二郎監督の師弟コンビで映画化し、大ヒットを記録した作品です。

大正から昭和にかけての風景を見事に再現したセットの数々が素晴らしく、特に渋谷駅のセットは、今もハチ公像がそびえる渋谷の街を闊歩する今の若い世代にも興味深いところがあるのではないでしょうか。

新藤&神山コンビは、いわゆる美談をそのまま美しく仕上げるのではなく、人間と動物の優しくも残酷な運命の絆などをあますところなく描出しています。仲代達矢をはじめとする豪華キャストも見どころの一つではありますが、『南極物語』で話題となったドッグトレーナー宮忠臣の指導による犬の演技も必見でしょう。
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なお新藤&神山コンビは続けて、野口英世の生涯を描いた『遠き落日』(92)、そのものずばり『宮澤賢治―その愛―』(96)を発表し、本作と併せて3部作としていますが、これらのブルーレイ化も強く望みたいところです。
また、この実話は後に名匠ラッセ・ハルストレム監督、リチャード・ギア主演『HACHI 約束の犬』(09)としてハリウッド・リメイクもなされています。
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『キネマの天地』も『ハチ公物語』も、ハリウッド系を中心とする洋画勢に日本映画が押されまくっていた80年代バブルの時代、その状況を打破すべく作られた挑戦的な大作でもあり、特に『ハチ公物語』は一般企業に出資を募って作られた作品で、今でいう製作委員会方式の走りともいえます。

一方ではフジテレビなどテレビ局が映画製作に参戦するなど、従来の撮影所システムによる映画制作から大きな変換を余儀なくされていくバブルの時代に抗おうとしたのが『キネマの天地』だったのかもしれません。

いずれにしましても、2作品とも当時の日本映画界を象徴する作品であることに間違いはないでしょう。

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(文:増當竜也)


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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