『マチネの終わりに』を見て感じる、福山雅治と7つの“今”

(C)2019 フジテレビジョン アミューズ 東宝 コルク

芥川賞作家・平野啓一郎のベストセラー・ラブストーリー『マチネの終わりに』。この小説に惚れ込んだ西谷弘監督は、福山雅治を主人公の天才クラシックギタリスト蒔野聡史役に、そして蒔野の運命の恋の相手・国際的に活躍するジャーナリスト小峰洋子役に石田ゆり子をキャスティング、海外ロケもふんだんに取り込みながら大人のプラトニックな恋愛映画に仕上げました。

2008年の『容疑者Xの献身』で20年ぶりに映画に主演して以降、コンスタントに新作映画が公開されている福山雅治。50歳になった今、その “今”という言葉で切り取りながら改めて福山雅治と『マチネの終わりに』の魅力に迫ります。

いよいよ、映画俳優として熟成された福山雅治の“今”の新作『マチネの終わりに』

“今“までの福山雅治

福山雅治は1988年に映画『ほんの5g』で俳優として、1990年の「追憶の雨の中」でアーティストとしてデビュー。以降、トレンディドラマから始まり大河ドラマまで常に一線で活躍し続ける唯一無二の存在となっていきます。

そんな福山雅治ですが、20年ぶりの主演作となった『容疑者Xの献身』が2008年のことですので、特に映画に関しては事実上“21世紀の映画の人”と言えます。『容疑者X…』は前年のドラマシリーズ「ガリレオ」を受けて、公開された劇場版の第一作ですが、ここで福山雅治は今回の『マチネの終わりに』の監督でもある西谷弘監督と出会います。

容疑者Xの献身

福山雅治と西谷監督は『アマルフィ女神の報酬』『アンダルシア女神の報復』『真夏の方程式』など、ここまで5本の映画で組んでいる映画においての相棒と言える存在です。

『アマルフィ…』『アンダルシア…』は特別出演枠で(特に『アマルフィ』はトラブル続きの作品なので)参考資料になりにくいのですが、この頃の福山雅治はやはりまだ“トレンディドラマの人”という軽さが映画的ではないように見えていました。『容疑者X…』は堤真一と松雪泰子のパートがシリアスだっただけにその軽さが目につきました。

アンダルシア 女神の報復

“今”につながる転換点

転機になったのは2010年の大河ドラマ「龍馬伝」の前後だと思います。一年かけて主役・座長として前面に出て物語を牽引したり、一歩引いて脇を立てたりと様々な立ち位置で一つの役を演じ続けました。

その後の2013年に立て続けに公開された劇場版ガリレオ第2弾の『真夏の方程式』と是枝裕和監督作品『そして父になる』での福山雅治は、軽さを内包しつつも締めるところは確実に締めてくる抑制された映画的な大人の俳優となっていました。

そして父になる

『そして父になる』はカンヌ国際映画祭審査員賞を受賞するなど高い評価を受け、国内でも30億円を超えるヒットを記録して、是枝監督作品の商業的なグレードアップのきっかけにもなっています。

この重厚さもあってか2014年の『るろうに剣心京都大火編/伝説の最期編』で緋村剣心の師匠・比古清十郎として登場した時には問答無用の説得力を観客に感じさせました(来年公開予定の『るろうに剣心最終章』も基になる原作の内容を考えると再登場の可能性もあります)。

その後、2016年の二階堂ふみ、リリーフランキー共演の大根仁監督作品『SCOOP!』。2017年の是枝監督と再びコンビを組んだ役所広司、広瀬すず共演作『三度目の殺人』。あのジョン・ウー監督と組んだ初の海外進出作品で2018年公開の『マンハント』と年に一本は福山雅治の映画が見ることができる状況が続いています。

三度目の殺人

そんな映画の人となった福山雅治の2019年の映画が『マチネの終わりに』です。

“今”までなかったラブストーリー映画

そんな大人の俳優となった福山雅治の最新作『マチネの終わりに』の最大のトピックは映画としては初めてのラブストーリーだということでしょう。劇中でたった三回しか逢うことがない男女の運命的かつプラトニックな恋愛が描かれます。

福山雅治は文句なしのハンサム俳優(イケメンというよりハンサムという表現が近い気がします)でありながら、ドラマも含めて実はラブストーリーが少ない俳優でもあります。

ドラマの代表作「ひとつ屋根の下」シリーズや「ガリレオ」シリーズはもちろん、「美女か野獣」「集団左遷‼」に至るまで恋愛要素はあくまでのサブエッセンスに過ぎません。
映画で言えば『容疑者Xの献身』以降『マチネの終わりに』まで10作品の映画がありますが、恋愛要素のある作品はほとんどありません(あえて挙げるとすれば『SCOOP!』くらいでしょうか?)。

この俳優キャリアの積み重ねてきた中で、福山雅治は映画『マチネの終わりに』で思い切った純愛劇に挑みました。

50歳になった“今”、ラブストーリーが許される唯一無二の存在

今年で50歳になる福山雅治ですが、『真夏の方程式』『そして父になる』の二作品以降『三度目の殺人』そして『マチネの終わりに』では子供と共演するようになり、親子(疑似親子)関係を構築する父親の顔も見せるようになります(実生活でも父親になっています)。

その一方で、明らかに実年齢より若く見えることもありますが、今なお自分の恋心に一喜一憂する無邪気な男の顔の持ち主にもなれるというのも福山雅治ならではです。石田ゆり子演じる洋子との出逢いの後にメールの返事一つにそわそわし、再会の段になるといそいそと手料理を作って出迎えようとする姿はとてもチャーミングです。

これは相手役の石田ゆり子にも言えるとことですね。ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」での新垣結衣の伯母・百合役で何度目かのブレイクを果たした彼女もまた妻や母親の顔を見せながら、恋に生きる女の顔の持ち主にもなれる女優です。劇中で福山雅治演じる蒔野聡史のそばには32歳の桜井ユキがいて、石田ゆり子演じる小峰洋子のそばには44歳の伊勢谷友介がいるのですが、全く違和感がありません。

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“今”の福山雅治の音楽を焼き付ける初のミュージシャン役

もう一つ、『マチネの終わりに』で新鮮なことが、福山雅治が天才的なクラシックギタリストという役を演じていることです。

アーティストでもある福山雅治は自身のドラマの主題歌を担当したりすることはありましたが、ミュージシャンというキャラクターを演じることはなかなかなく、ドラマの「ラブソング」などは珍しい例でした。

この映画でクラシックギタリスト・蒔野聡史を演じた福山雅治は劇中でも吹替なしで演奏も担当しています。

福山はいつものアコースティックギターやエレキギターの瞬間的な演奏と比べてクラシックギターは再現の芸術だと語っていて、1小節ごとに濃密かつ重層的に込められている要素の多さに大きな発見があったとのことです。

物語の中でカギとなる楽曲で、実際に演奏も披露している映画のメインテーマ曲「幸福の金貨」は映画のサウンドトラックに収録されています。
サントラへの参加は「ガリレオ」でもありましたが、演技と演奏をハイレベルでこなせる存在は現時点では福山雅治ぐらいでしょう。少し前までは寺尾聰がそうでしたし、今後で見れば菅田将暉がそうなるかもしれませんね。

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“今”の延長線上としての海外ロケとそれに応えられる福山雅治の存在感

本作の見どころは多いのですが、パリとニューヨークで一ヶ月近くロケを行っていると贅沢な作りになっている点もその一つです。プラトニックな恋愛劇と同様に、海外ロケを取り込んだ物語というのは実は日本映画において、苦手としている部分です。

やはり日本人が海外にいることに馴染まないというのものありますし、海外であることをアピールしようとするあまりに観光映画的な見え方になってしまうこともあります。結果として日本のパートとの落差が極端に出てしまい、物語の中のテンションがバラバラに見えてしまうことがとても多いのが実情です。

ところが、『マチネの終わりに』はこの部分で大健闘していると言っていいでしょう。この辺りは西谷監督の映画的な絵作りの巧さもあると思いますが、福山雅治と石田ゆり子の説得力のある存在感がパリやニューヨークの街並みにあっても違和感を感じさせないということもあります。

映画の中で”海外だから“という変な力みがなく、あくまでも物語の中の“今の延長線上の舞台”としてパリやニューヨークの風景が切り取られています。

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出逢いの大切さを描く“今”見られるべき映画『マチネの終わりに』

海外ロケをふんだんに盛り込んだプラトニックな恋愛劇・メロドラマであり、音楽劇でもある『マチネの終わりに』。日本映画としてはとても難しいハードルが幾重にも重なった映画でありますが、今回は非常に高いレベルで映画的にしっかりとまとめ上げています。

人が人と出逢うことの歓びと苦悩という人が生きることでものすごく基本的であり、重要なテーマを時にじっくりと時に軽やかでチャーミングな映画に仕上がっていました。

原作の力、監督の采配、何より石田ゆり子演じる女性ジャーナリスト洋子に恋焦がれる、福山雅治のチャーミングな大人の男・蒔野の姿はとても魅力的に描かれています。福山雅治の新たな代表作になるかもしれないキャラクターです。

映画『マチネの終わりに』は大人の恋の物語ではありますが、その恋は運命的な出逢いから、たった三回の邂逅で互いに深い愛情に昇華されていくものです。
“人とが人と出逢いうことの大切さ”というテーマは世代を超えて共有できるテーマであり、この映画はそのことを静かにそして確実に伝え、見た人の心を掴んでくる作品となっています。

個人同士の繋がりの希薄さが語られることも少なくない“今”こそ見られるべき映画なのではないでしょうか?

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プラスα “今”から次へ、次回作『ラストレター』も待機中

意図的なことなのか、時間的な制約があるからまとめるのか分かりませんが、福山雅治が俳優として活動する時は作品が立て続くことが多く、この秋冬も『マチネの終わりに』の次の映画がすでに待機中です。それが、来年2020年1月17日公開予定の岩井俊二監督作品の『ラストレター』です。

ⓒ2020「ラストレター」製作委員会

松たか子、広瀬すず、庵野秀明、森七菜、神木隆之介という幅広い年代の豪華キャストがそろった作品です。

先行して発売されている岩井監督自身による小説版を読む限り、手紙が鍵になり、二つの年代を行き来する構造などなど、岩井監督のブレイク作19977年の“『Love Letter』への監督自身による返歌”のような作品になっています。

松たか子とは初共演となる一方で、広瀬すずや神木隆之介とは再共演となります。解禁された予告編を見ると、どうやら福山雅治の青春時代を神木隆之介が演じるようです。新海誠監督作品『天気の子』でヒロインのボイスキャストを担当した森七菜が出演しているところも楽しみです。

岩井俊二監督の独特のロマンティック世界観で福山雅治が躍動する。個人的には両者のファンであることもあり、今から期待が高まります。

(文:村松健太郎)

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    ライタープロフィール

    村松健太郎

    村松健太郎

    村松健太郎 脳梗塞と付き合いも10年目に入った映画文筆家。横浜出身。02年ニューシネマワークショップ(NCW)にて映画ビジネスを学び、同年よりチネチッタ㈱に入社し翌春より06年まで番組編成部門のアシスタント。07年から11年までにTOHOシネマズ㈱に勤務。沖縄国際映画祭、東京国際映画祭、PFFぴあフィルムフェスティバル、日本アカデミー賞の民間参加枠で審査員・選考員として参加。現在NCW配給部にて同制作部作品の配給・宣伝、イベント運営に携わる一方で各種記事を執筆。

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