「続・深夜食堂」は、さながら腹持ちの良い幕の内弁当のようだ。
(C)2016安倍夜郎・小学館/「続・深夜食堂」製作委員会
80スクリーンで興収2.5億円をあげた、前作「深夜食堂」
先輩 昨年1月に公開された「深夜食堂」は、わずか80スクリーンでの上映にも関わらず、入場者数20万名、興行収入2.5億円を記録しました。これは大した成績です。公開時期が1月の正月明けということもあって、じっくりとロングラン興行が出来たのではないかと思います。
女の後輩 なんかねえ、この映画の内容と似てるのよ。全国300スクリーン以上で公開なんて大げさじゃなくて、80スクリーン程度で派手じゃないけれど、地道に上映していますという佇まいというか。
先輩 さすがに深夜興行だけで上映とは行かなかったようだけど(笑)。
爺 こういう作品が、昔はいっぱいあった。俗に言うプログラム・ピクチャーだな。そういう映画が毎週のように映画館にかかっていた。
先輩 確かに今、こういう人情の機微を描くような作品って少ないですよね。
後輩 少女漫画の映画化やイベント・ムービーもけっこうですが、確かにこういう小粒ながら、見ていて安心する映画は僕も見たいと思いましたもん。
女の後輩 そうは言うけど、「深夜食堂」だってコミックの映画化で、今度の「続・深夜食堂」に先駆けて、Netfrixで新シリーズが始まったんだけど、これが全世界190ヶ国で一斉配信だと言うから驚いちゃう。
爺 そういう、日本ならではのドラマに、海外でもニーズがあると考えているんだろうなあ。
先輩 確かに、「深夜食堂」はTVシリーズも映画も、日本ならではの世界観があり、それが海外でも注目されているのだと思います。松竹が、ずっと小津安二郎の映画を海外で公開しなかったでしょ。「ここまで日本的なものを、海外の人が分かるわけがない」という理由で。ところがそれは逆だった。日本的だからこそ、海外の観客を惹きつけた。それと同じような現象が起こっているんじゃないでしょうか?。
(C)2016安倍夜郎・小学館/「続・深夜食堂」製作委員会
3つのエピソードが醸し出す、ほっこり感。
先輩 で、そのヒットを引き継いだ「続・深夜食堂」なんだけど、主人公のマスターに小林
薫、警官にオダギリジョーら、レギュラーメンバーはそのまま。しかも前作と同様、今回も3つのエピソードで全体を構成するという、いわばオムニバスに近いスタイルだ。
女の後輩 TVシリーズを3本続けて見たような感じで、「焼肉定食」「焼うどん」「豚汁定食」と、それぞれ登場する料理がタイトルになっているあたりも、このシリーズらしいですよね。
爺 主役は小林薫のマスターなんじゃが、彼が何をするというわけではないんだよな。ただひたすら、注文に応じて料理を作っている。
女の後輩 その「色々分かっているけど、余計なことを言わないで自分の仕事に徹する」感じ。気の利いたバーみたいで好きです。「あえて放っておいてくれる」、あの感触に近いかな。
先輩 ひとつひとつのエピソードに触れると、「焼肉定食」編では、河井青葉の喪服姿がたっぷりと見られます。喪服女子フェチは眼福必須。
後輩 そ、それが見どころなんですか?
先輩 いや、似合うんだよ喪服が。河井青葉。しかも編集者という設定だし。別に身内に不幸があったわけではないのに、喪服を着たくなる女ごころ、若い君にはまだ分からないだろうがな。
後輩 分かりたくありませんよ。単なる喪服フェチじゃないですか。
(C)2016安倍夜郎・小学館/「続・深夜食堂」製作委員会
キムラ緑子、渡辺美佐子の圧巻な演技に舌を巻く。
先輩 「焼きうどん」編は、今回の3本の中で僕は一番好きだな。そば屋の息子である池松壮亮と、彼の母親であるキムラ緑子、年上の恋人・小島聖の3人のお話なんだけど、特筆すべきは銀幕のおねーさまキラー・池松君と女優のベッドシーンがない。これだけでも貴重かと(笑)。
爺 それってうらやましいのか?
先輩 はい(笑)。とか言ってますけど、このエピソードの見どころは、キムラ緑子の圧巻な演技。子離れできない母親の、複雑な心境を見事に見せきっています。
爺 ほお。それは楽しみだ。もう1本の「豚汁定食」は?
先輩 九州からやってきた老女が、息子の同僚だという男に大金を渡してしまう話です。
後輩 オレオレ詐欺ですか?
先輩 導入部としてはそうなんだけど、これがもうちょっとややこしい話になっていく。それでも「深夜食堂」らしいというか、ほっこりした幕切れになるんだけど。
女の後輩 ゲストに渡辺美佐子と井川比佐志。シブいところですね。
先輩 ところが渡辺美佐子の老女が、とても良いんだよ。それと、このエピソードは映画版の前作「深夜食堂」の後日談でもあり、余貴美子と多部未華子のふたりが登場する。これが顔見せ程度のゲストかと思いきや、多部未華子はけっこう重要な役割を果たすんだ。
爺 いずれにせよ、この映画は派手さこそないものの、じっくりと俳優たちの芝居を楽しむことが出来る。それってマスターが作ってくれた料理を味わうことと同じだな。
先輩 何の変哲もない家庭料理の数々なんですが、今、こういうせわしない世の中で、しかも新宿の路地裏の古びた店で食べると、何とも言えない味わいがあるわけですね。
爺 料理で言うとフルコース、いやアラカルトを楽しんだ感覚かな。日本料理に例えるならば、幕の内弁当だ。色々な食材を楽しめて、しかも腹持ちが良く、時々思い返してはまた楽しむことが出来る。
女の後輩 「深夜食堂」シリーズは原作もTVも映画も、「地道に」「じっくり」「コツコツと」作り続けて来て、それが今、改めて注目されています。これはどんな仕事にも言える、大切なことですよね。
先輩 そうだな。「地道に」「じっくり」「コツコツと」か・・・なんか、しんみりしちゃいましたね。
爺 いいんじゃないか、たまには。
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(企画・文:斉藤守彦)
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