映画音楽界に異変? 続々とJ-POPアーティストが映画音楽に参加する理由とは。

■「映画音楽の世界」

みなさん、こんにちは。

長年映画音楽好きをしていると常に最新映画の音楽担当者の名前をチェックするようになるのですが、近年、特に邦画界の映画音楽でちょっとした変化を感じるようになりました。

それは、いわゆる劇伴を専門とする作曲家以外に、J-POPの分野で活躍するアーティストの名前を作曲クレジットによく見かけるようになったこと。もちろん、過去に例がなかったわけではありませんが最近ではその数が顕著に増えてきたような気がします。

果たして、その理由・意図とは。その効果とは。

今回の「映画音楽の世界」では、そんなJ-POPアーティストが参加した映画音楽作品を幾つか紹介したいと思います。

『君の名は。』×RADWIMPS


君の名は。007


(C)2016「君の名は。」製作委員会



もはや説明不要の、2016年を代表する映画となった新海誠監督作品。現在興行収入は130億円を突破し、観客動員数も1000万人突破、原作小説も100万部超えという、もはや社会現象という言葉が相応しい本作。

以前このコラムでも紹介しましたが、音楽を担当したRADWIMPSはボーカルの野田洋次郎が主演した映画『トイレのピエタ』に主題歌を提供していますが、映画音楽自体は初挑戦。新海誠監督がもともとRADWIMPSのファンということもあり音楽制作を依頼したという流れがありますが、その楽曲制作期間は一年半にも及び、そのことからも映画製作のわりと初期の段階でRADWIMPSの担当が決まったことが解ります。この一年半という時間は映画音楽制作の期間としてはかなり長い方であり、その間、いかに監督とRADWIMPSのメンバーが緊密に連携を取りながら楽曲作成に挑んだということが作品の出来栄えからも窺えます。

結果、皆さんもご存知のようにRADWIMPSのニューアルバムという立ち位置ながらサントラ盤はオリコンランキングで二週連続トップを獲得、現在累計20万枚を超える大ヒットとなり、今まで映画音楽に興味を持っていなかった方もサントラ盤を購入したり、逆に本作でRADWIMPSを初めて知ったという方もいるのではないでしょうか。

『バクマン。』×サカナクション


バクマン。DVD 通常版



少年ジャンプ掲載の同名タイトルを、佐藤健&神木隆之介のコンビで『モテキ』の大根仁監督が実写映画化。2015年の作品。

大根監督は撮影が始まる前、脚本脱稿段階からサカナクションに楽曲制作依頼をしていたということで、その理由に「人気にあやかりたかった」と語っています(笑)。もちろんそれは監督らしいユーモア発言で、実際は自分の作品には通常の劇伴は合わないとイメージした上で、ライブなどを通じて自身と同じセンスを感じたというサカナクションを指名したと言います。

同じく大根監督とのコラボレーションを期待していたというサカナクション、しかし楽曲制作は簡単には進まず、手塚治虫作品からもインスピレーションを受けたという主題歌[新宝島]の制作に半年の時間を費やし、また、大根監督との共同作業で劇伴の方も試行錯誤が繰り返されたそう。

結果的に本編に負けじとノスタルジーと先鋭的なサウンドデザインが絶妙にマッチした唯一無二の音楽が出来上がっています。描線の音が取り入れられたり、CGも加わって表現されたバトルシーンではビートを効かせたリズムを駆使し、サカナクションらしさを残しつつまた新しいサカナクションサウンドを展開するサウンドトラックも、劇伴は組曲として1トラックに収められて実に聴き応えがありました。

『海月姫』×前山田健一(ヒャダイン)


海月姫



東村アキコ原作の少女漫画『海月姫』を、能年玲奈、菅田将暉、長谷川博己ら豪華出演陣で2014年に実写映画化した本作。さまざまなジャンルのオタクが集うアパート天水館を舞台に繰り広げられるコメディ作品に、なるほど多くのジャンルで才気を奮うヒャダインこと前山田健一の登板は面白そうだと発表当時わくわくしたものです。

アニメやゲーム音楽を手掛けたことはあるものの実写映画の劇伴を手掛けるのは初ということもあり、一層登場人物の心情に寄り添う音楽を心掛けたという前山田健一の音楽はバラエティに富んだ作曲スタイルになっていました。特に能年玲奈演じる月海の愛らしさの表現は、現代特有の「若さ」を持ち味とする前山田健一の感性が色濃く反映されて月海の性格付けに大きく役立っています。

また、それぞれの個性が炸裂する天水館のキャラクターも、そのはちゃめちゃとも思える台詞や行動(池脇千鶴や太田莉菜の演技の突き破りは本当に凄い)にコミカルな音楽も加わることでますますパワーアップを見せているので、やはり前山田健一の力添えは大きなものだったと言えます。実はそんなコメディパートだけでなく、各キャラがオタクだからこそ抱える負の思いや、取り壊しの迫る天水館の運命を懸けたドラマパートもしっかりと作曲に落とし込んでいるので、サウンドメーカーとしてのその才気にはやはり唸らされました。

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ちなみに主題歌[マーメイドラプソディー]を書き下ろしで担当したのは人気グループSEKAI NO OWARI。共同生活の中で生まれる音楽の世界、グループの雰囲気を、そのまま天水館に暮らす面々とその日々に重ね合わせることが出来、映画『海月姫』の持つ煌びやかさとセカオワの持つ独特の世界観が居心地の良さすら感じさせる一曲になっていました。

『何者』×中田ヤスタカ


最後に新作からも一本ご紹介。直木賞作家、朝井リョウの原作小説を映画化した三浦大輔監督の『何者』。本作の音楽を担当したのはPerfumeやきゃりーぱみゅぱみゅなどのプロデューサーとして活躍する中田ヤスタカで、先ごろ米津玄師をフィーチャリングして主題歌を担当したことも発表されました。中田ヤスタカの音楽はその主題歌や今までのプロデュース作品からも解るとおり、立体音響的なデジタルサウンドが持ち味であり強みでもあります。

https://m.youtube.com/watch?v=Ti0TMOtvUYI&ebc=ANyPxKpY6x2tDyUaeTu8wpQav676eSXr1lFV8UMLUkMYQT0txkm2SJ9sdVFHLDaNRiH-Jq5CCOpSzS59l4byYKUyF981YOBmvQ

予告編にてその主題歌も聴けるようになり、中田ヤスタカらしいデジタルサウンドと翳りを帯びた米津玄師の歌声をもってその音楽性の一端が窺えましたが、果たして劇伴では中田サウンドがどう展開するのか、どう映像とフィットを見せるのかは公開を待つしかありません。中田ヤスタカは既に『ライアー・ゲーム』シリーズ等で映画音楽にも登場しその持ち味を活かした劇伴で作品を盛り上げていますが、『愛の渦』で性の快楽に耽る男女の群像劇を描いた三浦大輔監督が本作では就活生を基軸にSNS世代の若者の群像劇へとスライドし、キャラクターの心情を掬い上げた「痛み」を伴うようなその映像に、中田ヤスタカがどうチューニングを見せるのかも本作の「聴きどころ」になると思います。公開は10月15日より。

まとめ


劇伴を専門に手掛ける作曲家ではなくJ-POPアーティストに音楽を依頼する場合、監督やプロデューサー側の「このアーティストなら作品の世界観に合っている」という意思が強く反映されているように思えます。作詞や作曲を手掛けた作品を通してそのアーティストの音楽性、歌詞の持つ世界観を熟知してイメージすることになるので、映画の作り手側としても完成した本編の青写真が描きやすくなるという効果があります。

また、今回紹介しました『君の名は。』と『バクマン。』、『何者』に関しては川村元気氏がプロデューサーを務めていて、「劇伴と主題歌を同じアーティストが担当している」という共通項があります。近作だと『おおかみこどもの雨と雪』や『世界から猫が消えたなら』も主題歌の作曲という形で劇伴作曲家が担当していますが、その利点はやはり本編で流れる劇伴と主題歌が音楽面で地続きになることが挙げられます。そうすることで世界観のブレを最小限に抑えて、また主題歌はエンドロールで流れることが多く、アーティスト本人としても劇伴と同じテーマ性を持ったままエンディングを迎えられる、自分で広げた風呂敷を自分で畳むことが出来るという理想の形が描けることになります。

依頼をする監督や制作側にとっても、作曲するアーティストにとってもウィン・ウィンの関係性。全ては映画をより一層良くするために。作品の世界観を確固たるものにするために。そういったメリットを考えると、今後も日本の音楽界を牽引するアーティストが続々と映画音楽界に参加するのではないでしょうか。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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(文:葦見川和哉)

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