「高倉健と生きた時代」を語る② ~中野良子~

■「キネマニア共和国」

第28回東京国際映画祭では「高倉健と生きた時代」と題して、昨年亡くなった名優・高倉健の主演映画10作品を上映し、偉大なる映画スターを偲ぶ追悼特集を開催。
10月26日、前日の倍賞千恵子に続き、TOHOシネマズ新宿にて『君よ憤怒の河を渉れ』(76)『野性の証明』(78)で高倉健と共演した中野良子が登壇し、彼との共演の思い出などを語ってくれた。
(司会/佐藤利明)
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8億もの中国国民が見た
『君よ憤怒の河を渉れ』

『君よ憤怒の河を渉れ』で、中野良子が高倉健と初めて会ったのは、ロケ地の旅館の大広間であったという。

「そのときお互いに見つめ合って、動けなかったんです。プロデューサーの方が真ん中に立って何度もご紹介してくださるんですけど、何だか現実とは違う空気が充満していたような感じでしたね。今にして思うと、おそらく健さんは私が演じるヒロインとこれから協力関係しあうということで、既に役に入りきっていらしたのでしょう。こういった体験は後にも先にもこのときだけで、今なお私の人生の七不思議のひとつです」
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なお『君よ憤怒の河を渉れ』は文化大革命後の中国で初めて公開された外国映画であり、当時何と8億人もの国民が見たことでも知られている。以後、高倉健は中国で神格化されるほどの国民的人気を博し、中野良子も進歩的かつ躍動的ヒロインとして憧れの的となり、気が付くと日中文化交流のシンボルにもなっていた。

「なぜ中国のみなさんがあの映画をお好きなのか当時はわからなかったんですよ。でも、よくよく調べてみると、現実の中国の社会があの映画とそっくりであったことに気づいたんです。つまり映画と現実が一体化できるほどの社会状況や精神状況の中、自分たちもあの映画の健さんたちのように頑張ろう、助け合おうという気持ちが燃えあがり、活力を与えることにもなったんですね。
 健さんはよく『三船敏郎さんのように、自分も世界へ飛び出していきたい』とおっしゃっていましたが、私も同じ想いでいましたし、そういったものが中国での上映を機に突然ポーン! と飛んだような、そんな感触を受けています」
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私に何かあっても
健さんは必ず助けてくれる

続く『野性の証明』では、高倉健扮する自衛隊特殊工作員にまつわるおぞましき事件に関わるふたりのヒロインを一人二役で演じた。

「このときも健さんは撮影中ずっと役になりきっていらっしゃいました。あの集中力は普通ではないですし、芸能界の中で生きていく上で、決して人に見せない心の奥の深いところでいろんなものを抱えていらっしゃったような気もしています。でも、もっとご自分の気持ちを我慢せずにおっしゃってくださっていたら、楽だったかもしれないのに……」

時折、感極まって涙をこぼしつつ、中野良子はこうも語り続けた。

「『君よ憤怒の河を渉れ』で、健さんと一緒に山奥の狭い道を馬で走るシーンで、私はものすごく緊張していたのですが、後ろに健さんがいらっしゃることで、もし私に何かあっても健さんが必ず助けてくれるという、そんな安心感を抱かせてくれたのですよ。健さんご自身に、そんな優しさや頼もしさが常におありでした。
後に私が結婚することをご報告申し上げたときも、朝の7時ごろ、抱えきれないほどの真っ赤なバラが家に届いたんです。健さんが贈ってくださったんですよ」
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亡くなって1年経つが、高倉健への想いはまったく薄れるところがないという。

「これからも私たちの心を通して、健さんは生き続けていく。私の中で、健さんの想いは広がっていくばかりなんです」

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(文:増當竜也)


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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