森田芳光監督の遺志を受け継いだ快作 『の・ようなもの のようなもの』

■「キネマニア共和国」

の・ようなもの のようなもの ポスター

1981年、ひとりの自主映画作家がプロの映画監督として商業映画デビューを果たしました。

落語の世界で生きる若者たちをオシャレに描いたその作品は、従来の日本映画の枠を優に超えた快作として大いに話題を集めました。

監督の名は森田芳光。

作品名は『の・ようなもの』

そして2016年……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街~》

何と35年の月日を経ての続編映画『の・ようなもの のようなもの』が完成しました!

落語界を舞台にした天才監督の
商業映画デビュー作から35年後……

森田芳光監督といえば『家族ゲーム』(83)『それから』(85)『キッチン』(89)『(ハル)』(96)『失楽園』(97)『39 刑法第三十九条』(99)『間宮兄弟』(06)『武士の家計簿』(10)などなど、常に斬新な感覚で日本映画界に風穴を開け続け、“天才監督”とも称された名監督ですが、惜しくも『僕達急行 A列車で行こう』(12)を遺作に、2011年12月20日、まだ61歳の若さで惜しくも亡くなりました。

そんな彼の遺志を受け継いで、これからも映画を作り続けていこうと誓った森田映画スタッフが選んだのが、何と『の・ようなもの』の35年後を描いてみようというものでした。

森田監督自身、生前「あの映画の続編だけは作れない」とまで言わしめた伝説的傑作に挑んだのが、『の・ようなもの』から森田映画の助監督として活躍し続けてきた杉山泰一監督で、これが彼の映画監督デビュー作となりますが、森田映画の原点ともいえる『の・ようなもの』をもう一度見つめ直すことで、その中から人間に対する面白くも優しい眼差しを日本映画に復活させたいという願いは、本作から軽やかに伝わってきます。

お話は、脱サラして落語家になった出船亭志ん田(松山ケンイチ)が、師匠(尾藤イサオ)から命じられて、前作の主人公で今は行方不明になっている志ん魚(伊藤克信)を探しあて、落語界に復帰させようとするもの。

続編とはいえ、さすがに前作から35年も経っていますので、今では見ていない若い映画ファンのことなどもちゃんと踏まえ、本作単体で楽しめるような作りになっています。
(もちろんDVDなどで前作をチェックしてから本作をご覧になると、より楽しめますし、逆に本作を見たら、前作はどういうものだったのかと、必ずや見たくなってしまうことでしょう)

森田映画を愛してやまない
豪華キャストが勢揃い!

キャストも森田映画の出演者がずらり勢揃い。主演の松山ケンイチは『椿三十郎』(07)や『僕達急行』など森田映画の晩年を支えた松山ケンイチ。師匠の娘役で今回のヒロインを務める北川景子(祝、結婚!)は『間宮兄弟』夕美役で演技開眼しており、今回の役名も夕美(ちなみに『の・ようなもの』の志ん魚の彼女の名前は由美でした)。

もちろん前作の出演陣もそのまま35年後の姿を披露。既に俳優を引退した人までも、この映画のために馳せ参じています。

また『おいしい結婚』(91)などのベテラン三田佳子をはじめ『メイン・テーマ』(84)の野村宏伸など、これまで森田映画に出演してきた面々も多数登場。
『家族ゲーム』の宮川一朗太、『39』の鈴木京香、『悲しい色やねん』(88)の仲村トオル、『間宮兄弟』の佐々木蔵之介&塚地武雅などなどのワンポイント出演も、わかる人にはわかる森田映画のパロディになっているのも楽しいところです。

このように森田監督を愛してやまないキャストが多数登場しながら、映画そのもののバランスを崩すことなく、適材適所の配置で好演しているのも、やはり森田映画を熟知しているキャスト&スタッフのチームワークのよさゆえでしょう。

単体でも十分に楽しめる
今の時代に見合う心地よさ

『の・ようなもの』と『の・ようなもの のようなもの』をあえて比較しますと、さすがに当時流行していたVANのファッションと落語家を組み合わせるといった森田監督ならではのおしゃれなセンスこそ陰を潜めていますが、その分ユーモアを交えたヒューマニスティックな情緒は心地よく見る者の胸に響く、まさに今の時代に見合った優しい作品となっています。また前作に倣ったオマージュ的なシーンもいくつか散りばめられており、このあたりは前作のファンにはたまらないものがあります。

秀逸なのは落語シーンの数々で、特にクライマックスの展開は見てのお楽しみとしても、そこでの松山ケンイチの芸達者ぶりには舌を巻きますし、また伊藤克信が披露する落語は、35年前より確実に上手くなっています⁉

正直に申しますと、いくら森田監督へのオマージュといっても、今さら『の・ようなもの』の続編なんて……などと見る前は思っていたのですが、いざ鑑賞してびっくり、ここまで今の時代に見合った1本の映画として屹立させながら、見事にオマージュまで捧げ得ていたことに対し、こちらの思慮の足りなさを反省すると同時に、前作と同じく尾藤イサオが歌うエンディング・テーマ『シー・ユー・アゲイン雰囲気』を聴きながら、もっと広くこの快作をアピールしたくなった次第です。

ここまで気持ちのいい日本映画は久しくなかった。新年早々、いいことがあった人も嫌なことがあった人も、等しくこの作品でひととき、「それでも人間って面白いよなあ」と感じていただけること間違いありません。

最後に、ニュースのようなもの。

『の・ようなもの』が角川シネマ新宿(シネマ2)にて1月23日(土)から29日(金)まで一週間限定上映されます。東京近郊にお住いのかたは、貴重な機会でもありますので、ぜひご覧になってください。

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(文:増當竜也)


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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