フランス在住ライターが語る!“セーヌ川と映画の関係”

パリという舞台地は、フランス人監督のみならず、外国人監督をも惹きつける、美しい芸術の都です。多くの映画監督は、この街にインスピレーションを受け、パリを舞台にした映画を制作しました。『ミッドナイト・イン・パリ』を撮ったウディ・アレンはかつてパリをこのよう形容しました。「ロマンチック」。そう。パリといえば、誰もが連想するのがロマンチックな街ということ。

そして、パリの中心部を流れるのが、セーヌ川です。セーヌ川はうっとりとするほど美しく、パリで一番ロマンチックな場所。『シャレード』や『パリの恋人』の中ででオードリー・ヘプバーンが、ドラマ『セックス・アンド・シティ』では、キャリー・ブラッドショーがセーヌ川沿を歩きました。セーヌ川はパリの舞台地の中でも、特別な場所。セーヌ川と映画についてお話したいと思います。

セーヌ川の似合うオードリー・ヘプバーン


フランス人ではありませんが、セーヌ川が似合う女性と言えば、オードリー・ヘプバーンを挙げたくなります。映画『パリの恋人』では、セーヌ川沿いで踊り、『シャレード』では、ケイリー・グランドと一緒にセーヌ川沿いを歩きます。そして、豪華なセーヌ川クルーズも。特に『シャレード』では、ジバンシィの衣装を身にまとった気品たっぷりのオードリーが、美しいセーヌ川で一際映えるように映し出されています。それは、ため息もの。美しい女性は本当にセーヌ川がよく似合います。

セーヌ川沿いを歩く恋人たち


セーヌ川沿いを歩く度に、ときめきに似たような感情がふっと浮かび上がります。セーヌ川沿いを、これまでに数え切れないほどの恋人たちが歩いたからでしょうか。そんな恋人たちの想いがセーヌ川には投影されているようです。

映画の中でも、セーヌ川沿いを恋人たちはよく歩きました。印象に残っている映画といえば、『ミッドナイト・イン・パリ』です。『ミッドナイト・イン・パリ』の中のパリはどこをとっても絵になる程、美しく、まさにウディ・アレンはロマンチックなパリを撮影しました。映画の中で、最もロマンチックなシーンといえば、主人公ギルとアドリアナが、パリの街を歩くシーンです。二人は霧がかる夜のセーヌ川沿いも歩いています。魔法がかかったようにロマンチックで、ギルとアドリアナの恋心が淡い光と共に幻想的に揺らめきます。

映画のラストでは、セーヌ川にかかるアレクサンドル3世橋で、パリに残ることを決めたギルはアンティークショップで働くパリジェンヌのガブリエルと再会します。そして、雨が降り始めます。雨が美しくセーヌ川を彩り、新たなロマンスを暗示して映画は幕を閉じます。

また、ドラマ『セックス・アンド・シティ』の中で、キャリー・ブラッドショーはセーヌ川を歩いています。印象に残っているのは、ミスター・ビックが長年振り回し続けたキャリーへの愛に気づき、パリまでその想いを伝えにいき、二人が結ばれたシーンです。少しベタでもありますが、セーヌ川にかかる橋の上で、二人はキスをして、ニューヨークへ戻ることを決めます。

セーヌ川は恋人たちが愛を確かめ合う場所。映画やドラマの中でも、セーヌ川はワンシーンの中で美しく彩られ、時には主役になっているのではないかと思うほどです。セーヌ川には不思議なマジックがあるようです。

ロマンチックだけではいられない、セーヌ川に住む悲しい恋人たち


映画の中でセーヌ川が単に恋人たちにとってロマンチックな場所というには、少し簡略化しすぎているかもしれません。セーヌ川には深くて重い恋の物語があります。セーヌ川を舞台にした『ポンヌフの恋人』は、ただ単に美しい恋物語ではありません。

閉鎖中のセーヌ川にかかるポンヌフ橋に住むホームレスの青年アレックスと失恋の痛手と失明の危機に失望する裕福な娘ミッシェルと出会い、一緒にポンヌフ橋で暮らすようになります。そして、目の手術を受けるためにミッシェルはポンヌフから去ります。そして…。

『ポンヌフの恋人』は、不器用にしか人を愛せないアレックスと結局は住む世界の違うミッシェルの苦しい恋物語。二人が再会するラストでさえも、ハッピーエンドに見えて、実はその先には二人の美しい未来が待っているようには思えません。

この映画の中で、アレックスの内面をえぐられるようなむき出しの感情が淡々と流れるセーヌ川に対照的に映るように思いました。そして、どんな悲哀がそこにあったとしても、セーヌ川は全てを呑み込み流れるのみ。ただその役割を果たしているように感じられます。

セーヌ川クルーズで再び距離が近くなるかつて愛し合った二人


セーヌ川が印象的な映画といえば、『ビフォア・サンセット』を挙げないわけにはいかないでしょう。『ビフォア・サンセット』は『恋人までの距離』の続編にあたり、ジェシーとセリーヌのウィーンでの一夜から9年後、二人のことを小説にしたジェシーがプロモーションでパリの書店を訪れたところから始まります。セリーヌが本屋を訪れ、二人は再会します。今日アメリカに飛び立たなければならないジェシーは時間が限られていて、カフェを後にし、二人はパリの街を歩きます。そして、セーヌ川クルーズへ。

セーヌ川クルーズというのは、船の上というオープンな空間。二人の本心がセーヌ川の上で徐々に吐露し始め、二人の距離感がどんどん近いものになってきます。緊張感がはりつめるようになってきました。セーヌ川の水面が、美しくセリーヌを映し出します。揺れ動く二人の心とセーヌ川の水の揺らめきが一体化されているよう。思わず息を飲み込むシーンでありました。

寂しさを投影させるセーヌ川


フランス人にとって、セーヌ川はただ単にロマンチックな場所なのでしょうか。答えはNon/ノン。

映画『モンテーニュ通りのカフェ』では、パリの高級ブティックが立ち並ぶモンテーニュ通りの人間模様を描いています。モンテーニュ通りの先には、セーヌ川があります。映画の登場人物たちは度々セーヌ川を通ったり、眺めたりしています。ここで描かれるセーヌ川は世界中の人々が憧れるロマンチックな川ではありません。モンテーニュ通りの登場人物たちは、上辺だけの上流階級で苦悩を抱えています。そんな登場人物たちを通して見るセーヌ川はどこか重く感じられます。

主人公である田舎娘ジェシカもまた、シャンゼリゼ劇場の上から雨のパリを眺めるシーンでは、都会で感じる孤独や寂しさが投影され、美しいはずのセーヌ川も、ただの冷たい川と言わんばかりに、無機質にただただ流れています。

映画のラストでは、登場人物たちの苦悩も解き離れ、セーヌ川、そして目の前にそびえ立つエッフェル塔も美しく映し出されます。セーヌ川というのは、見る人の心境によって、表情を変える不思議な場所のように思います。

さいごに

映画の中のセーヌ川には、様々な物語があります。ロマンチックであったり、悲哀であったり。セーヌ川に投影された色々な想いを、映画を通して、触れることができます。

(取材・文:北川菜々子)

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    ライタープロフィール

    北川菜々子

    北川菜々子

    パリ在住のフリーランス・ライター。大阪出身。大学卒業後、2007年に渡仏。パリの大学院では映画を社会学と記号学的アプローチから研究する。好きな映画「浮雲」(成瀬巳喜男)「「レディ・イブ」「赤ちゃん教育」「天井桟敷の人々」など、クラシック映画を愛する。その他に、読書や写真、カフェ巡り、街歩きなどが趣味。

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