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2018年08月18日

今年『ペンギン・ハイウェイ』以上の傑作アニメ映画は出てこない!?

今年『ペンギン・ハイウェイ』以上の傑作アニメ映画は出てこない!?



© 2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会 


2016年の『君の名は。』や『この世界の片隅に』、2017年の『夜は短し歩けよ乙女』『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』のように、その年を象徴するような珠玉のアニメーション映画が、2018年の今年はなかなか現れないなあと、今一つ寂しい気持ちでいたところ……。
(『未来のミライ』も思ったほどの結果にはなってない様子。個人的には愛してやまない作品ですが、若い世代にはピンとこなかったかな)

ようやく、2018年アニメーション映画暫定ベスト1と声を大にして叫びたい(まあ、あと4カ月ほどありますけど)快作が登場……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街328》

気鋭のアニメーション制作スタジオ、スタジオコロリド制作、若手気鋭の石田祐康監督による、ひと夏の思春期ファンタジー『ペンギン・ハイウェイ』です!
(原作は『夜は短し歩けよ乙女』の森見登美彦!)

ペンギンと球体とお姉さん
謎に満ちた小4のスリリングな夏


『ペンギン・ハイウェイ』の主人公は、ちょっと大人びてクールで論理的、そして学究心旺盛な小学校4年生のアオヤマ君(声/北香那)。

ある日、彼の住む町に突如ペンギンが多数現れ、まもなくしてどこかへ消えていきました。

さらにアオヤマ君は、ひそかに気になっている歯科医院の“お姉さん”(声/蒼井優)がふいに投げたコーラの缶がペンギンに変身してしまうのを目撃!?

明るく気さくで胸が大きく、無邪気で自由奔放、そしてどこかミステリアスなお姉さんは、アオヤマ君に「この謎を解いてごらん。どうだ、君にはできるか?」と挑発します。

一方、アオヤマ君はクラスメイトのハマモトさん(声/藩めぐみ)に誘われ、森の奥の草原に浮かぶ大きな透明の球体を観察することに。

ペンギンと謎の球体、そしてお姉さん。

かくして、アオヤマ君の人生の中で決して忘れられないであろう、スリリングかつ胸をキュンとさせる夏が始まるのでした!



© 2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会 



一見キテレツな世界観を
リアルに活写させるキャラの妙


ペンギンという一見可愛らしい存在をミステリアスなアイテムとして映えさせながら、思春期と呼ぶにはまだ幼すぎる男の子の、年上の女性へのときめきと、イジメも含むクラスメイトたちとの交流をリアルに(しかし決してジメジメさせることなく)活写しつつ、キテレツなまでの怪現象の数々を巧みに同居させながら、色鮮やかなSFファンタジーとして屹立させています。

とにもかくにも理屈では割り切れない事象が次から次へと起きていきますが、それと対峙するのが物事を論理的に解釈したがるアオヤマ君というギャップも楽しいところ。

そのアオヤマ君のお父さん(声/西島秀俊)もどこか優しくもクールで論理的なので、この父にしてこの子ありかと唸らされるものがあります。

アオヤマ君のことが気になっているのだろうハマモトさんや、彼女のことを憎からず思っているガキ大将のスズキ君(声/福井美樹)、アオヤマ君とウマが合う内気なウチダ君(声/釘宮理恵)など、子どもたちのキャラクターが生き生きしていているのも、小学校4年生あたりのリアリティを大人たちにまで体感させてくれるものがあります。

また町の異常現象を調べている浜本さんのお父さん(声/竹中直人)の、良い人なんだけどどこか研究オタクっぽいオーラを発散させているあたりも、逆に大人ならアルアルと納得させられるものがありました。

こうしたキャラの造形に見事なまで命を吹き込んでいる声優陣の好演は、ここ数年のキャスティングの中でもトップクラスではないかと思われるほどで、もう顔出しとかプロ声優とかの枠で語る時代は終わりに来ていることも痛感させられます。

特にすごいのが蒼井優で、これまでも『鉄コン筋クリート』(06)や『キャプテンハーロック』(13)『花とアリス殺人事件』(15)など、これまでアニメーション声優としてもハイレベルの活動を示してきた彼女ですが、今回は少年が憧れるに足るお姉さんの謎めいた明るさとお色気を巧みに発散させています。

彼女の存在なくして、このキテレツで説明するのも困難なさまざまな怪現象のドラマをスムーズに体感することは難しかったことでしょう。

若手気鋭クリエイター集団
スタジオコロリドの台頭

さて、本作を制作したスタジオコロリドは、ショートアニメ『フミコの告白』(09)を自主制作して絶賛された石田祐康やスタジオジブリ出身の新井陽次郎を中心に、2011年に結成された20代の新進気鋭クリエイター集団です。

デジタル作画をメインとしつつ、手描きの温もりを体現し得た表現は、日頃からデジタルに親しんできた若手ならではの才能の賜物かと思われます。

石田祐康の劇場用映画監督デビュー作となった18分の短編『陽なたのアオシグレ』(13)も、引っ越していく少女を追いかけていく少年の純粋さを繊細かつ鮮やかな色彩、そして表現の自由の翼をこれでもかと拡げまくった快作でした。

本作『ペンギン・ハイウェイ』にも、そんな石田監督のセンス・オブ・ワンダーが見事に、そしてさらなる意欲で増幅されています。

石田監督は現在30歳。上は宮崎駿から押井守、庵野秀明、細田守、原恵一、米林宏昌などさまざまな世代が入り乱れ競い合う今のアニメーション映画の中で、またひとり頼もしい若手が台頭してきたことを喜ぶとともに、彼らを凌駕するに足る作品を今後もどんどん作り続けていきたいと願ってやみません。

いずれにしましてもこの『ペンギンハイウェイ』、画と音の融合がもたらす幼い日々のときめきを、まざまざと蘇らせてくれる珠玉の作品であり、今年これを上回る作品が現れるかどうか?
(個人的にはもうないような気もしていますが……)

理屈ではなく感性で、「考えず」に「感じて」いただけたらと思います。

(文:増當竜也)

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