「世界は今日から君のもの」尾崎将也監督インタビュー・前編
「門脇麦さん演じる真実は、自分自身とフィクションが混在」

7月15日から渋谷シネパレス他で公開される「世界は今日から君のもの」(アークエンタテインメント配給)は、引きこもりのおたく女子・真実が殻を破り、自身の才能を発見し、覚醒していくプロセスを丁寧に描いた作品だ。

おそらく現在活躍しているクリエイターの多くがこの作品にリアルな共感を寄せ、苦しみながらも少しずつ前進していく真実の姿に自身を投影することだろう。

この作品を監督したのが尾崎将也。映画監督としてはこれが2作目だが、テレビドラマの脚本家としては錚々たるキャリアを持つ。「梅ちゃん先生」「結婚できない男」「オトナ女子」等々。

その尾崎監督に「世界は今日から君のもの」について、インタビューを試みた。



「風変わりな女の子の映画を撮りたかったんです」

(C)クエールフィルム

−そもそも、なぜ尾崎さんがご自身で脚本を書いて、監督をしたいと思ったのですか?


尾崎 風変わりな女の子が主人公の映画が好きなんです。「アメリ」とか、「恋する惑星」後半のフェイ・ウォンのパートとか。

自分が映画を作るときは、そういうのを作りたい。門脇麦さんとはドラマ「ブラック・プレジデント」で仕事をして、彼女だったらそれが出来るんじゃないかと思いました。

お話の大元のアイディアは、もっと前からありました。その話を門脇さん主演で考えてみようと思ったのがスタートです。

−その最初のアイディアも、映画として考えたものですか?


尾崎 そうですね。

−「ブラック・プレシデント」を通じて、門脇さんの演技に惹かれたということでしょうか?

尾崎 このドラマで彼女は脇役でしたが、最初に会った時、「よくある可愛い女の子が脇役で出ているのではなく、ちょっと面白いキャラにしたい」と言ったら、彼女が「分かりました」って、一言で。実際に演じてもらったら面白いキャラになりました。

後で聞いたら、演出家の人がお芝居に関しては任せてくれたらしく、かなり彼女が自分で考えて演じたらしいです。だからこの人は、僕が「こんなのやって」と言ったらやってくれそうな感じがして。

−シナリオの読解力がとても高い方なのですね。


尾崎 だと思います。自分なりに考えているということでしょうね。

主人公・真実は監督自身の体験+フィクション。

(C)クエールフィルム

「世界は今日から君のもの」という作品の魅力を挙げるならば、まず主役・真実を演じる門脇麦の抜群の演技がある。そしてそのキャラクターには、尾崎監督自身の経験も少なからず反映されているようだ。

−真実が自分の才能に目覚めていくプロセスを検証していくと、これはあらゆるクリエイターに共通することですね。

尾崎 そこは計算したわけではなく、門脇さん主演で風変わりな女性の映画を作ろうとした時、どんな物語にするか考えました。真実は引きこもっていた。僕は引きこもりになったことはありませんが、「引きこもり系」の人間なので、かなり自分自身が投影されています。

問題は引きこもっている間、何をしていたかということで、真実はイラストの模写をしていましたが、僕の青春時代はひたすら映画を見ていました。そして「将来、映画監督か脚本家になりたい」と思うようになりました。

−この真実ちゃんは、監督ご自身ですか?

尾崎 ほぼそうですね。ただし映画には自分の経験だけではなく、フィクションの部分もプラスしています。僕は母親に宝物を捨てられた経験はありませんし、家出をしたこともありません。

僕はシナリオ教室で講師をしていて、そこで、なぜ自分は書けるようになったかとか、何をインプットしたのかということをよく考えます。それを時系列に沿って整理するという作業をしました。

 −ただ、それを映画という創作物に反映されることに、恥ずかしさはないですか?

尾崎 全然ないです。さっき「自分を投影している」と言いましたが、それとは別に普遍的な物語ってありますから、その両方が混ざっているわけです。自分のこととフィクションが。

−一番物語として肉付けしたのは、どのあたりですか?


尾崎 人物の大きな動きを106分の中に配置していくのは、普遍的な物語。真実が家出するのは、ちょうど映画の真ん中。ここが脚本の専門用語で言うとミッドポイントで、ここは別に体験しているのではなく、お話として作っています。

−それぞれのキャラクターにモデルというか、イメージされている方はいますか?

尾崎 両親に関しては、うちの親はもっとずっとマトモです(笑)。ただ僕の才能を、そんなに信じてなかったです。僕が「映画監督か脚本家になりたい」と言ったら「そういうのは趣味でやりなさい。普通の会社に就職しなさい。私にそんな遺伝子はない」と、母親から言われまして、この台詞は「世界は今日から君のもの」でデフォルメして使っています。

−監督にも、劇中の遼太郎のように、自分の才能を気づかせてくれる方がいらっしゃったのですか?


尾崎 この人の存在が大きかったというよりは、節々でそういう人はいたかな。

−そういう人たちをひとりにすると、遼太郎のような存在になる。


尾崎 はい。

(後編に続く!)

(企画・文:斉藤守彦)

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    ライタープロフィール

    斉藤守彦

    斉藤守彦

    斉藤守彦(さいとうもりひこ) Morihiko Saitoh 静岡県浜松市出身。映画館、ビデオ会社でのアルバイトを経て、映画業界紙「東京通信」記者 (後に編集長)に。1996年からフリーの映画ジャーナリスト/アナリストとなり、以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「HiVi」「ザテレビジョン」「日経エンタテインメント!」「宇宙船」「スターログ日本版」「INVITATION」「東京カレンダー」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」「Pen」などの雑誌・ウェブメディアに寄稿。2007年秋に「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」を、08 年「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」、09 年「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」、 10 年に「『踊る大捜査線』は日本映画の何を変えたのか」(共著) を上梓。 他の著書に「図解でわかるコンテンツ・ビジネス」1〜4(共著)、「ソノラマ MOOK/ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」(構成・執筆) 、電子書籍「日本映画、飛躍と困惑の過去・現在・未来」等があり、ここ数年は「映画宣伝ミラクルワールド」「80年代映画館物語」と、独自の視点による書籍を執筆。2016年3月には新作「映画を知るための教科書 1912−1979」が世に出る。現在、水道橋博士編集長のメールマガジン「メルマ旬報」で「2016年映画館物語」を連載中。また「BOOKSTAND映画部!」で、「映画を待つ間に読んだ、映画の本」と「映画惹句は、言葉のサラダ」の2つの連載を行っている。

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