『TENET テネット』8つの視点で徹底考察!!

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新型コロナウィルスの感染拡大の影響もあり、事実上の停止状態にあったアメリカ映画界が動き始め、全米興行収入トップ10の集計も約5カ月ぶりに再開されました。

そんな、アメリカ、そして世界の映画業界が復活の望みを託しているのがクリストファー・ノーラン監督の『TENET テネット』です。

日本では、ややマニアックな映画ファン受けの強い存在のクリストファー・ノーランですが、世界的に見ればオリジナルの脚本作品&ノンスタ―作品に最大級の予算を投下できる数少ないトップ監督とされていいて、新作ごとに事件となりつつある存在です。

任される金額と製作規模で言えばスティーブン・スピルバーグやジェームズ・キャメロンといった巨匠と同格で、しかもノーランの場合大半が原作のないオリジナル脚本作品であるというから驚くしかありません。

『TENET テネット』のストーリーは・・・

満席の観客で賑わうオペラハウスでテロ事件が勃発。多数の人質を救出するために特殊部隊が館内に突入します。突入部隊に紛れ込んだ“名もなき男(ジョン・デヴィッド・ワシントン)”は混乱の中で、オペラ会場にいた仲間の救出に動きます。

仲間の救出を果たした男ですが、その後、身代わりとなって捕まってしまいます。自決用の毒薬を飲んだ男ですが、薬は鎮痛剤にすり替えらえていました。

昏睡状態から目覚めた男は、そこであるミッションを命じられます。

それは未来からやって来た脅威と戦い、世界を救うというモノでした。“時間の逆行”を可能とする装置が極秘に現代に送られてきたことを男は知らされます。人や物が過去に移動できるようになっていたこの技術は“第三次世界大戦”を引き起こしかねない危険性をはらんでいました。

大きな謎をはらんだ、この任務に挑むことになった男にすべてのカギを握る存在として“TENET(テネット)”という言葉が伝えられます。

男は情報収集のため、相棒のニールと共にムンバイやロンドンなど世界各地を転々とし、アンドレイ・セイターというロシアの新興財閥の長に行き当たります。

セイターは表向きは天然ガスで巨万の富を築いたことになっていますが、裏では武器商人として暗躍していました。男はセイターを未来と現在を繋ぐキーパーソンであると睨み、彼に近づくためにセイターの妻のキャットに接近します。

『TENET テネット』から読み解けること

『TENET テネット』考察その1
劇場第一主義

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映画館は闇に包まれてしまった。だが、決して映画がその価値を失うことはない。この危機を乗り越えたとき、人々の集まりたいという想いや、共に生き、愛し、笑い、泣きたいという願いは、かつてないほど強くなるだろう。映画館はそのすべてを、私たちにもたらしてくれる。だから、私たちには映画が必要なのだ。

新型コロナウィルスの感染拡大による映画館の閉鎖を受けて、クリストファー・ノーラン監督はこのような声明を出しています。

ノーランは劇場第一主義の人で、新作ごとに新しい映画体験、映像体験を観客に与えようとしてきた人です。

デジタル撮影が浸透する中でフィルムにこだわり、CGを極力控えて実物を利用、時には丸々実物を作りこむなど古典的な志向の持ち主でありますが、その一方で、超解像度のIMAXカメラを始めて一般映画の撮影に採用するなど革新的な部分も多く持っている監督です。

初めて、取り入れた『ダ―クナイト』ではIMAXカメラでの撮影は30分弱でしたが、それ以降『インセプション』を除くすべての作品で一時間以上、作品の半分に渡ってIMAXカメラを採用。『ダンケルク』、そして『TENET テネット』ではIMAXカメラ以外の部分も65㎜フィルムを使用して、徹底した映像美を追求しました。

観客がIMAXシアターなどの大画面の劇場で見ることを前提にして、その環境で魅力が最も堪能できる作品を作ってくるところも、劇場第一主義であることを証明しています。

『TENET テネット』考察その2
スパイ映画(=007)へのあこがれ

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英国出身でアメリカの二重国籍を持つクリストファー・ノーラン。

今年で50歳となるのですが、自らの映画原体験に『スター・ウォーズ』『ブレードランナー』を挙げています。年齢からみれば、10歳前後のことですね。
そして、これらの作品と並んで自身への大きな影響を与えた作品として“007”シリーズを挙げています(特にお気に入りは『女王陛下の007』)。

2010年の『インセプション』を発表したときには「いつか、ボンド映画を監督したい!」と語っており、実際に007の製作陣にコンタクトを取ったこともあるそうです。

『TENET テネット』はそんな007愛、スパイ映画愛が今までの作品の中で最も濃い作品と言えます。

主人公の“名もなき男は特殊工作員であり、世界各国をまたにかけるスパイでもあります。世界各国でロケが行われ、風光明媚なリゾート地や各国の都市の様子が描かれます。

予告でも使われたボートのシーンなどそのままボンド映画に転用できそうな映像です。

エリザベス・デビッキ演じるヒロインの立ち位置も、今までのノーランの映画のヒロインというよりは歴代の“ボンドガール”を想起させるキャラクターになっています。

また、どれがとは言いませんが“マクガフィン”(ミステリーにおけるキーアイテムであると一方で、そのものについて明確なことが説明がすくないモノ)的な存在のアイテムが登場する部分もあります。

ノーランはこれまでも自分の監督作品に過去の同ジャンルの映画のエッセンスをコラージュしてきましたが、この辺のノーランらしさは『TENET テネット』でも健在です。

『TENET テネット』考察その3
ブロックバスター映画の再構築

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クリストファー・ノーランはかつて自分を育ててくれたSF映画、スパイ映画などのブロックバスター大作への思いが強い監督でもあり、消費される大衆娯楽の一環で終わらせたくないという使命感を持っています。

“ダークナイト3部作”でも、かつて、ティム・バートンとジョエル・シュマッカーが作り上げたゴシックとビザールなセンスに溢れた世界感のシリーズをリアルな犯罪映画として一新させました。

『インセプション』も古典的な泥棒モノを舞台を“人の夢の中”に設定したことで、斬新な映像作品に生まれ変わらせることに成功しました。
『インターステラー』でも曖昧になりがちな宇宙の仕組みを現役の物理学者を監修に招いて特殊相対性理論やワームホール理論を組み込み“リアル”を創り上げました。

『ダンケルク』では戦争映画を陸の一ヶ月、海の一日、空の一時間という風に場面ごとに時間の大枠を変えて描いて見せることで、今までになかった臨場感を与えてくれました。

そして『TENET テネット』王道のスパイ映画的な展開に時間の逆行という能力を持ち込んで、またもや“見たことのない映画”を創り上げました。

『TENET テネット』考察その4
時間とは何なのか?

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『TENET テネット』を見終わって、思ったことはクリストファー・ノーラン監督はやはり時間というものをテーマにすることを好んでいるのだなと言うことです。

デビュー作の『フォロウィング』とブレイク作となった『メメント』ではエピソードの時勢を意図的に入れ替えました。

『インセプション』では夢の階層ごとに時間の流れを変えて描きましたし、『インターステラー』でも地球と宇宙空間、ワームホールの先の星では時間の流れが大きく変わります。

『ダンケルク』では戦場の情勢を陸の一週間、海の一日、空の一時間という風に場面ごとに時間の大枠を変えてきました。

これまで、『フォロウィング』と『メメント』では”物語”(記憶と記録)を挟み『インセプション』は”夢”を、『インターステラー』では宇宙探検というモノをクッションにして“時間”を描いてきたノーランですが、今作の『TENET テネット』間に何も挟まず直に“時間”を描いてきました。

自身が常に突き詰めてきた“時間”の在り方をダイレクトに描くという意味では、『TENET テネット』はクリストファー・ノーラン史上もっと挑戦的で野心的な作品といっていいと思います。

『TENET テネット』考察その5
独自の理論の在り方

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クリストファー・ノーラン監督の作品の中には映画の仲だけで成り立っている特殊な事象を、リアルに成り立たせるための独自の理論が登場します。これらは現実世界では成り立たないものであるものの、映画中では力強く語り切ることで一定の説得力を発揮しています。

“ダークナイト3部作”の影に隠れがちの作品ですが、二人のマジシャンのトリック合戦を描いた『プレステージ』ではエジソンと並ぶ天才科学者であり、オカルトネタの定番キャラクターでもあるニコラス・テスラが登場(演じたのはイギリスが誇るロックミュージシャンのデヴィッド・ボウイでした)。彼の発明が瞬間移動トリックの大きなカギとなります。

『インセプション』では人の夢の中に入り込むという技術を持った“特殊な犯罪者集団”が登場。ここでは夢の中での世界の構築方法・偽装方法、さらには、夢の中で夢を見る方法まで描きます。ここでも方法論と夢の中で自由自在に動く仕組みが語られます。

インターステラーの5次元宇宙空間・ワームホールの理論も同じです。

『TENET テネット』での映画の中の事象はなんといっても時間の逆行です。

しかも今回は時間の逆行のシステムについて“未来からテクノロジー由来というかなり強引な力業”の設定を持ち込んできました。全てを整理して語り切ることを止め、わからないことが多い物事のままで物語を推し進めています。ここが少し乱暴というか強引な印象を受ける人もいるかもしれません。今まで多くの作品で共同脚本として作品に参加してきた弟のジョナサン・ノーランが不在ということも影響しているかもしれません。

『TENET テネット』考察その6
ノンスター&オリジナルで行ける強み

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クリストファー・ノーラン監督作品の特徴の一つにノンスター作品であるということです。

複雑で哲学的とも評される内容、しかも原作のないオリジナル作品で、しかも出演者のネームバリューに頼らずに超大作を作り続ける。普通に考えてもまず無理のあることをし続けているのがノーランという人です。

“ノ―ラン作品の出演者はネームバリューで勝負していない”と書くと批判を受けそうです。

確かに“ダークナイト3部作”はクリスチャ・ベイル、モーガン・フリーマン、マイケル・ケイン、ヒース・レジャー、リーアム・ニーソンなど。『プレステージ』にもクリスチャ・ベイルとヒュー・ジャックマン、『インターステラー』にはマシュー・マコノヒーとアン・ハサウェウイと賞レースの勝者や常連がそろっています。

しかし、いわゆる“マネーメイキングスター”という点で見ると実は、それに該当するのは『インセプション』のレオナルド・ディカプリオだけです。
『ダンケルク』にいたってはメインキャラクターにはフィオン・ホワイトヘッド、トム・グリン=カーニー、ジャック・ロウデンと言った無名な若手を起用しています。

『TENET テネット』でも、デンゼル・ワシントンの息子で『ブラック・クランズマン』の主演で知られるようになったジョン・デヴィッド・ワシントンや『トワイライト』シリーズや新たにバットマンを演じることになったロバート・パティンソン、常連のケネス・ブラナーやマイケル・ケインなどが名前を連ねていますが、彼らが名前だけで問答無用に客を引っ張って来れるほどのマネーメイキングスターであるかどうかは微妙なところです。

しかし、近年の(日本を含む世界的な市場で)や『ジョーカー』が成功した例を見てみると、必ずしもスターパワーと結果がつながるわけでもないこともわかり、ノーランの選択が極端に挑戦的なわけでもないことがわかります。

むしろ演技力とキャラクターとの相性を重視することで、劇中の特異な状況に説得力を与えることになっています。

『TENET テネット』考察その7
世界のノーラン、日本のノーラン

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クリストファー・ノーラン監督の作品は98年のデビュー作『フォロウィング』、ブレイクした『メメント』、初メジャー作品『インソムニア』、“ダークナイト3部作”とその間に発表された『プレステージ』『インセプション』『インターステラー』、アカデミー監督賞に初めてノミネートされた『ダンケルク』。そして『TENET テネット』の全部11作品。決して多作な監督ではないことがわかります。

全米歴代12位の大ヒットを記録した『ダ―クナイト』を筆頭に、テーマやキャスティングに左右されずに大ヒットを記録し続けるマネーメイキング監督です。

しかし、日本では残念ながら大ヒットメーカーというわけではなく、どちらかというと映画ファン受けする存在です。

日本で一番ヒットした作品は『インセプション』で、興行集35億円です。要因は明らかに主演がレオナルド・ディカプリオであること、そして二番手に渡辺謙がいるという日本受けしやすいシフトが組まれたことでしょう。

世界規模、全米規模で見たときの最大のヒット作『ダ―クナイト』が16億円ほどで、『インセプション』の半分以下の数字にとどまっていることからもノーラン自身の名前や各作品の認知度・浸透度ほど日本ではヒットしていないことがわかります。

年齢で言うと少し上の存在ですが、クエンティン・タランティーノ監督と近い立ち位置の存在かもしれません。ちなみに日本におけるタランティーノ作品の最大のヒット作は『キル・ビル』2部作でした。

『TENET テネット』考察その8
絶妙な日本国内の宣伝手法~映画復活への思い

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クリストファー・ノーランは日本においてはまだ映画ファン受けがメインの監督である。

そういう点から見るとIMAXシアター・4DXシアターを使った過去作のリバイバル上映は見事な宣伝手法でした。『TENET テネット』の冒頭6分間(厳密には違うのですが…)とセットで『ダークナイト』『ダンケルク』『インセプション』『インターステラー』の4作品を上映。

前述のとおり『インセプション』以外はIMAXカメラを大胆に取り入れた作品でしたが、公開当時は今ほど日本国内にIMAX・4DXシアターが充実していなかったこともあって、今回のリバイバル上映は『TENET テネット』の日本での宣伝において、確実に捕まえておきたい映画ファンの心をがっちりと掴むモノでした。

不幸中の幸いと言いますか、禍を転じて福と為すと言いますかコロナ渦によって浮いてしまったIMAXシアター・4DXシアターの活用法を見出したものでしたが、その週の国内興行収入にランクインするほどの成功をおさめました。

現在の状況から見てキャスト・スタッフの来日キャンペーンも行い得ない中で『TENET テネット』の大きなPRとなりました。

特にIMAXカメラを使用していない『インセプション』を公開10周年と銘打ってラインナップに入れたのは面白いですね。実際に『TENET テネット』を見て一番近い映画は何かといわれると『インセプション』だと思います。

『インセプション』の面白さを再認識させたうえで『TENET テネット』に繋げる手法にはちょっと唸らせられました。

海外の様に何も語らず監督名とタイトルだけで押し通す宣伝ができない中で、日本の今回の『TENET テネット』の宣伝手法は『TENET テネット』単体のターゲットのすそ野を拡げるだけでなく、映画館で映画を見ること再定着させるいい機会になると思います。

最後に

海外でも”まずアメリカ本国の公開を待ってから”という状況もあり、世界各国への拡大が遅れ、結果ハリウッドメジャー大作がことごとく公開延期になっています。

ディズニーの話題作の一つだった『ムーラン』は結局ディズニープラスでの配信作品となってしまいました。そんな中で“公開できる国から公開する”という選択をした『TENET テネット』とクリストファー・ノーランの英断には素直に拍手を贈りたいと思います。

まだまだ、先行きが不透明なコロナ渦において『TENET テネット』にかかる期待はとても大きく、責任もあるところです。

日本でもファン受け監督という壁を打ち破って、停滞中のエンターテイメント界の復活の担い手になってくれることを切に願います。

(文:村松健太郎)


    ライタープロフィール

    村松健太郎

    村松健太郎

    村松健太郎 脳梗塞と付き合いも10年目に入った映画文筆家。横浜出身。02年ニューシネマワークショップ(NCW)にて映画ビジネスを学び、同年よりチネチッタ㈱に入社し翌春より06年まで番組編成部門のアシスタント。07年から11年までにTOHOシネマズ㈱に勤務。沖縄国際映画祭、東京国際映画祭、PFFぴあフィルムフェスティバル、日本アカデミー賞の民間参加枠で審査員・選考員として参加。現在NCW配給部にて同制作部作品の配給・宣伝、イベント運営に携わる一方で各種記事を執筆。

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