『愚行録』中村倫也インタビュー。尾形は一番毒が少なく感情移入しやすい?

テレビドラマや映画、舞台に多数出演する演技派俳優の中村倫也さん。SNSなどで多くのファンとも交流することでも話題となっていらっしゃいます。『愚行録』では、一筋縄ではいかない登場人物が多いなか、より等身大に近い尾形というキャラクターを演じられました。中村さん自身、「一番共感できた」とのこと。今回は役どころや演出、撮影秘話などお尋ねしました。

ー台本を読んだ感想を教えて下さい。

中村 ミステリーを軸に、出てくる人物の人柄や裏にあるものを想像しながら台本を読んで、この無自覚ながら懸命に生きている人間たちをカメラで切り取った時、一体どうなるんだろう、と興味を持ちました。原作をあえて読まずに、台本だけ読んで、人間たちをどう切り取っていくのだろうと興味が湧きました。タイトル通り様々な愚行があるわけで、人間皆愚かな部分があるよねと感じながら、そうした要素が絡みあってミステリーを紡いでいく。自分の演じる尾形は罪のないやつですが、持っている雰囲気が若い男あるあるだなと思いました。若い女性に対しての対応とか、波風を避けるようなところ、そういう生っぽい雰囲気をどう出していけるかなと。割と尾形のキャラクターがポンと浮かんだ印象があります。

ー『愚行録』の魅力は何でしょうか。

色々な人の見栄や嘘をバカだなと思わせながらも、それらをまとめ上げ実感した作品は愛おしかったですね。でも共感できたのは自分の演じる尾形くらいで、他の登場人物は業が深いなあと思いました。そういう意味では演じるのが尾形で良かったです。キャストの中でも比較的和やかな芝居になっていたんじゃないかな。毒がないというか、そんな感じがありました。

ー等身大で演じやすかったのかもしれませんね。

中村 若い頃のパートは本当に何も考えず楽しく、男あるあるを演じました。年取ってからのパートでは、大学以降に何があって、何が刻まれて、どのように変化していったのか想像して演じています。妻夫木さん演じる田中とのシーンは、妻夫木さんが頷く芝居が多く、自分がずっと喋っているので、どうやって熱を持続させるか、過去の美化されてるかもしれない思い想いの根源がどこにあるのか注意しながらやりました。

ー撮影監督はポーランド人のピオトル・ニエミイスキという方でしたが新鮮なところはありましたか。

中村 ピオトル・ニエミイスキは可愛い方で自分の都合の悪いことは聞こえないフリをするんですよ(笑)何年か前に『王妃の館』を撮影しているときに、現地の方々と日本人が半々くらいで撮影していましたが、その時を思い出しました。日本は島国ですから独自文化があるなかで、ある種、今までなかった風が国籍の違う人がいるだけで吹くな、という感じで、毎回現場でワクワクしました。あのポーランド人を笑わせてやるって思ってました。

ー撮影前の役作りと撮影後の役作りで変わったことはありましたか。

中村 概ね変わっていないです。僕の中にあった尾形の人物像は一言でいえば「ライト」。こういう物語にあってはあまのじゃくでふざけてしまう。石川監督は一番感情移入できる、自分の若い頃を見ているようだと言って、そこからイメージをすり合わせていって、共演の方々と掛け合いや呼吸の調整をしていきました。試写を観たとき最初に本を読んだイメージとそう変わらず芝居ができたかなと思いました。
もし原作ファンから「尾形ってもっとこう」と言われても、僕の尾形はまったくブレず、誇れる尾形を作れたかなと思う部分があります。

ー役に対するスタンスや心がけはありますか。

中村 役には役割って言葉が半分以上含まれていると思います。役割を把握することが役作りの95%。土台に自分の中の感覚だったり、ここを突いたら作品が広がるのではないかとか、クスっとできるんじゃないかとか考えながら、本番はその上でフリーにしてやる。まず作家性や役割を押さえた上で準備をして、本番は楽しく遊ぶというようにしています。

ー現時点でご自身の強みと感じる部分は何でしょうか。

中村 大学生の役は大丈夫ですが、20歳以前の役はどれだけ若く見えたとしても無理かなと。軸が不確かな人物が繊細に揺れたり、傷ついたりというのは無理だなと思います。
どこかしらで役者という生き方の、その人が歩んできた足跡みたいなものがスクリーンににじみ出ると思うので、上手く役と混ぜ合わせていくのが役者の仕事。
今回は37歳の役のパートもあったので、年の足りない部分はいろいろ想像して演じました。今回尾形は責任感のないやつだったのでフラフラできて楽しかったです。

ー撮影時の面白かったエピソードを教えてください。

中村 花束でしばかれるシーンがあるんですけど、なんのリアクションもしない尾形が情けなくて楽しかったです。それと花束でしばかれたら痛いということは分かりました。
ラクロスのシーンも本当にやりました。メットを被ると誰が誰だか分からないというのも面白かったです。初体験だったので楽しみました。

ー石川監督の印象を教えてください。

中村 とても丁寧で繊細な方です。長編初監督ということもあり、そこにご自身のセンスなどを総動員して成しとげたんだと思います。ちょっとしたニュアンスの空気の変化を察知できる方です。細かいディテールに力を注ぐことが職人だと思うので、一緒にやっていてものづくりしている感覚が心地よかったです。贅沢な環境でした。制作やスタッフも石川監督をバックアップしていて、それが見えたので幸せな気持ちになりました。健康的で健全で、自由に遊べている感じの現場ってなかなか他にはないんですよ。

ー妻夫木さんの印象を教えてください。

中村 常々、妻夫木さんの出演作を見るたび稀有な存在だと思いました。しっかり真ん中に立つ。人としても役者としても。作品を背負っている人だから出せる雰囲気というか。いい背中を見せてもらったなと思いました。

ー何か変わった演出や演技指導とかありましたか。

中村 自分は関係ないシーンですが、ベッドで寝ている満島さんが演じる光子が文字どおり闇に捕われてしまうシーンがあるんですが、どんな世界観になるのかと楽しみにしていました。試写を観たとき、心象風景といいますか、その映像センスがすごかった。聞いた話だと満島さんご自身でアイデアを出されたりもしたそうです。あれは映像になるとどうなってしまうんだろうと思ってワクワクしました。

ー作品を期待している方、中村さんのファンの方に一言お願いします。

中村 大きい事件が真ん中にあるけど、小難しい話ではないので気楽な気持ちで映画館に来てもらえたら嬉しいです。男、女、友達同士や同僚、いろいろな人がでてくるので、観終わった後共感したシーンなどについて話し合ってもらえるような映画かなと思います。

同作は、エリート会社員の家族が殺害された。事件から1年、真相を追う週刊誌記者は一家の関係者に取材し、殺害された一家の意外な一面を知る……。気小説家、貫井徳郎の直木賞候補作を実写化したミステリー。

(取材・文:波江智)

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    ライタープロフィール

    波江智

    1978年生まれ。映画ライター。シネマトゥデイややcinema Ala Carteなどに寄稿。ジョージ・ルーカスとガイ・リッチーを敬愛。ベストムービーは『ロックストック&トゥースモーキングバレルズ」。

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