原田監督と樹木希林の不思議な関係が見えた、映画『わが母の記』トークイベント

「それは盗作にはならないんですか?」

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「やはり僕はこの作品で、小津監督の偉大な系譜に少しでも近づきたいと思っていて。なおかつ、始めに井上靖邸を見て絶対に使いたいなと思ったのは、小津映画のような奥行きの構図があったんですね。それにプラスして、もっともっと小津美術に近づけたいという思いがあって。それで撮影に入るちょっと前にわかったんですけど、樹木さんは小津さんの最後の『秋刀魚の味』の現場をご覧になってるんですよ」と原田監督が明かすと、樹木さんも「杉村春子さんのが出てらして、研究生が付き人として代わりばんこに現場に行くんですよ」と現場に居たいきさつを話します。
「中華料理店で自分の噂を父親と戦友がしているのを聞いて、ハッと泣くシーンだったんですけど、朝早くからお昼まで何度やってもOKが出ない。それを見てたっていう話を監督にしたら、うらやましそうに聞いて「いいなぁ」って」と樹木さん。
「それで20回くらいやったんでしたっけ? 終わったあとにがっくりとしてるのかと思ったらそんなことなく」と原田監督がその話を続けると、「全然がっくりしてないの。素晴らしいと思った! 私は監督に対しての尊敬という考え方が欠如してるんですよね」と淡々と話し、会場から笑いがこぼれます。
「杉村春子さんは監督さんに対して尊敬してる。でも自分ができないことが悪いと思わないの。終わると「お昼天丼にする? 私はなんでもいいわよ」なんてね」と樹木さんはその時の杉村さんのあっけらかんとした雰囲気を再現しながら、「監督を先生という気持ちでいる人だから、杉村さんは黒澤明さんでも溝口健二さんでも、誰に対しても「はい。はい」って。それは素晴らしいことだと思いました。そういうことをお話しました」と監督のうらやんだエピソードについて披露していました。

その流れから、小津作品に触れて「『東京物語』でも子供が親を捨てるんだっていうセリフかシーンがありましたよね」とMC。
「あれは井上先生の短編小説からも借りたりとか、時代的なところもあって入れてますけど、一番小津オマージュとしては、オープニングショットが『浮草』の中村鴈治郎さんと京マチ子さんのトークバトルから借りてます。あの作品が小津作品で一番好きなんですけど」と原田監督が話すと、「その映画とほとんど同じような映像にしてるんですか?」と樹木さんから質問が。
「フレーム的な、構図的なものは似させました」と答える監督に、樹木さんは「それはあのエンブレムじゃないけど、盗作にはならないんですか?」とたずね、会場を沸かせます。
原田監督も思わず笑いながら「それはならないです(笑)。オマージュといえば盗作にならないことになっています」とウィットに富んだ樹木さんの質問に答えていました。

原田監督と心が通じたと感じたシーン

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井上先生が原田監督の高校の先輩だという話題になると、原田監督は近親憎悪のような感覚があって当時は一切読んでいなかったと明かしますが、40代50代になってから読むとものすごく味があって惹かれるものだったそう。

軽井沢の別荘も井上先生のものを借りて撮影したそうで、樹木さんは「監督のすごいところは、夏のシーンを撮って1日はさんでまた夏のシーンの撮影だったのに、雪が降ってきちゃったから雪のシーンに書き換える。それがすぐできる」と原田監督をほめつつ、「台本ではぶつぶつ言いながら孫が世話をするのをよけて勝手にいるっていうシーンで、本当だったら窓を開けて触りたかったなぁと今反省するんだけど、その時その時を随所で変えていくから、こっちが追いつかない。まだ親しくないときだったから。今も親しくないんですけど」と最後にオチをつけて笑わせます。

一方、監督との信頼感ができたと感じたエピソードとして、三国連太郎さんの演じる夫が亡くなるシーンで「どう動きたいですか?」と聞いてもらったことをあげた樹木さん。

「その時に仲良くなれたというか、信頼してもらえたのかな、と。夫はもう死に際で、本当は台本通りそばにいて洗濯物を静かにたたんでいるのが普通の感覚なんだけど、息子に次の代を譲っているから、自分が大事にする相手は息子なんだという思いと、夫が寝てても自分の身なりを整える芝居をしたいと言ったら、廊下から鏡をずっと引っ張ってくるようにしてくれて、こういう呼吸ができるなら、もっと早くに言っていればよかったなぁと思いました」と若干の後悔を語ると、「あれは樹木さんが打ち合わせでおっしゃってたんじゃなかったでしたっけ? 瞬時には多分できないことなんですよ。その話を樹木さんから聞いたときは、“そうなんだ。やっぱり女性としての残り香みたいなものがあって、って。その八重さんをみたいなぁ”と思って鏡台とかそういうのも考えたような。いろんなものが凝縮して、僕も最近記憶がはっきりしないんですけど(笑)」と返しながら、原田監督は「僕の場合は最初にお会いした時からキャッチボールがうまくいってるなっていう感じで。あうんの呼吸で、もう八重さんになってるんだ。というところから始まってるんで、全部信頼してました」とコメント。
「そうなんだ。そういう風に思ってなかったんですけど、そうですか」とあくまで飄々とした態度の樹木さんでした(笑)。


    ライタープロフィール

    大谷和美

    大谷和美

    高校2年の時に観た「バトルロワイアルⅡ」に衝撃を受け、映画の道を志すも、縁あって雑誌編集者に。特撮誌、若手俳優グラビア誌等の編集・ライター、WEB編集者を経て、現在はフリーランスで活動中。社会の闇を描いた邦画が好きで、気づけばR指定のDVDばかり借りていることも。一方、元々好きだったライダー・戦隊などの特撮作品やコメディ映画も好んで観ます。

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