これぞ“ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ヴェトナム”!『草原に黄色い花を見つける』

■「キネマニア共和国」

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香港、中国、韓国と、アジア地域の映画の躍進は今に始まったわけではありませんが、ここに来てまた新たにヴェトナムの映画が面白くなってきているようです。

そのことを強く確信させてくれる作品……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.251》

『草原に黄色い花を見つける』!

もうこの邦題だけで素敵な映画であることが予想できてしまいますが、いざ見るとその予想をはるかに超える秀作なのでした!

80年代後半のヴェトナムを背景に
幼い兄弟と少女の交流を描出

『草原に黄色い花を見つける』は、1980年代後半のヴェトナム中南部フーイエン省の美しい自然を背景に、貧しい村に住む兄弟と、幼なじみの少女の幼くも切ない交流を通して、思春期の心の葛藤と成長を描いたものです。

12歳の兄ティエウ(ティン・ヴィン)と弟トゥオン(チョン・カン)は、仲も良ければ喧嘩もする、ごく普通の兄弟です。

ティエウは近所に住む少女ムーン(タイン・ミー)のことが気になって仕方ありません。

そんなある日、ムーンが家の不幸から兄弟の家に身を寄せることになりました。

心穏やかでないティエウですが、ムーンは幼いトゥオンと仲良しになり、次第にティエウはトゥオンに嫉妬するようになっていきます。

そして、ついにとりかえしのつかない事件が……。

かつて戦後昭和の日本でも見られていたであろう、どこかノスタルジックな風景と、その中で織りなす、純粋であるがゆえに残酷な念までも素直にあらわれてしまう子どもたちの想い。

はじめはヴェトナム版『小さな恋のメロディ』か『リトル・ロマンス』か、といった風情で見ていましたが、徐々に独自の世界観を醸し出していき、兄弟愛や異性への愛、大自然がもたらすファンタジックな神話性、貧困の現実、その他もろもろひっくるめた人生そのものの映画として、本作は美しくも切なく屹立していきます。

キャストは、さすがに日本では知られていない子役たちですが、この子たちのその後も追いかけてみたくなるほど魅力的にそれぞれの存在感を披露してくれています。

アジア映画に押し寄せる
ヴェトナム映画の新たな風

監督はアメリカ生まれでハリウッドにて映画製作を学び、自分の原点でもあるヴェトナムにこだわった映画作りを続け、ひいては2009年からヴェトナムに拠点を移して活動するようになったヴィクター・ヴー。

本作はヴェトナム国民に愛され続ける著名な作家グエン・ニャット・アインのベストセラー小説を原作とする映画化で、監督はオリジナル要素として主人公が大人になってのエピソードを入れるかどうか悩んだそうですが、結果としては子ども時代だけで押し通すことにしたそうです。

英断だと思います。

(『ニューシネマパラダイス完全版』にしても『世界の中心で、愛を叫ぶ。』にしても『君の膵臓が食べたい』にしても、大人になってからのシーンって必要かな? と賛否両論になることが多いですしね)

さて、本作の背景となる80年代後半とは、ヴェトナム戦争が終結しておよそ10年後で、どこかしら戦争の傷が残されていた時代のようにも思えますし、一方ではこの時期、アメリカでは『プラトーン』『ハンバーガー・ヒル』『フルメタル・ジャケット』などヴェトナム戦争映画が大ブームになっていたことも思い起こされます。

ただし、その頃本当のヴェトナムとはどういった状況であったのか、本作はそれを郷愁たっぷりに、さりげなくも知らしめることにも成功しています。

まさに“ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ヴェトナム”!

一方ではこの時期、中国や台湾の映画界では新しい世代が勃興し、その中には既に日本が失ったノスタルジックな子供たちの日常を描いたニュー・ウェーブ作品も多く見られたものです。

ヴェトナム映画界といえば、それこそ日本で『ノルウェーの森』を撮ったトラン・アン・ユン監督などが思い浮かばれますが、こういった作品を見るにつけ、ヴェトナム映画界にも新しい波が押し寄せてきていることを実感させられます。

何はともあれ、『草原に黄色い花を見つける』を、ご覧になってみてください。日々の煩わしさの中で忘れてしまっていた、自分にとっての大事な“何か”を思い起こさせてくれること必至。

心の草原の中に咲いているさまざまな色の花を、きっと見つけられるはずです。

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(文:増當竜也)

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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