ベン・アフレックはいずれ〝巨匠〟と呼ばれるのか?

■「〜幻影は映画に乗って旅をする〜」

2012年に『アルゴ』でオスカー作品賞を受賞したベン・アフレック。当時は史上3本目となる、監督賞にノミネートされなかった作品賞受賞作として大きな話題となった。そんな彼の、オスカー受賞後最初の監督作となる『夜に生きる』が5月20日から公開となる。

<〜幻影は映画に乗って旅をする〜vol.31:『夜に生きる』オスカーウィナー、ベン・アフレックはいずれ〝巨匠〟と呼ばれるのか>

夜に生きる サブ1

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禁酒法の時代、警察幹部の父を持ちながら、仲間たちと強盗を繰り返していたジョーは、ボストンの街に君臨する二つの組織から目をつけられる。アイルランド系のギャングのボス・ホワイトの愛人、エマと恋に落ちたジョーは、彼女と逃亡を図ろうとするが、ホワイトにバレて刑務所に入れられてしまう。さらに、エマがホワイトに殺されたことを知ったジョーは、服役を終え、ホワイトと敵対していたイタリア系マフィアのペスカトーレの元を訪ねる。そしてホワイトへの復讐のために動き始めるのだった。

マフィアの抗争に巻き込まれる孤高の男と、彼を巡る美しいファミ・ファタールの存在、そこに銃撃戦とカーチェイスとアメリカン・ドリームの要素を加えるなど、いかにもハリウッド黄金期のハードボイルド映画の様相を呈しているのは、映画ファンとして知られるベン・アフレックらしい作り込みだ。

そんなベン・アフレックは前作、前々作に続き、今回も自ら主演を兼任している。クリント・イーストウッドやウォーレン・ベイティなど、これまで俳優業から監督業を兼任してきた大御所たちに肖るように、自分の世界を着実に確立してきているのだ。

90年代から俳優として活躍してきた彼は、親友のマット・デイモンと組んで執筆した『グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち』の脚本でオスカーに輝き、一躍時の人となったが、一方で本業である俳優業は受難の連続。『パール・ハーバー』以降は興行的成功に恵まれず、挙句2003年には出演した3作品全てで不名誉なラジー賞最低主演男優賞を受賞してしまうのである。

そんな彼が、俳優として培ってきた経験を活かし、監督業に初めて挑んだのが2007年の『ゴーン・ベイビー・ゴーン』だ。

ゴーン・ベイビー・ゴーン (字幕版)

今回の『夜に生きる』と同様、デニス・ルヘインの小説を原作にした本作は、ボストンの街を騒然とさせた誘拐事件に挑む私立探偵の物語。もともとルヘインの代表的なシリーズである、「私立探偵パトリック&アンジー」シリーズから一編だけを選び抜いて映画化したあたり、アフレックの選定眼の高さを窺い知ることができよう。
これまでにも、クリント・イーストウッドが『ミスティック・リバー』で、マーティン・スコセッシが『シャッター・アイランド』と、巨匠たちがこぞって映画化してきたルヘイン小説に、最も密接に関わっているあたり、アフレックもいずれは彼らと並ぶ巨匠へと上りつめる予感が漂う。

ところで、この『ゴーン・ベイビー・ゴーン』では、ベンの代わりに弟のケイシーが主演を務め、豪華キャストの群像劇の中心として注目を集めた。そんなケイシーは、ちょうど今週から公開された『マンチェスター・バイ・ザ・シー』でついにオスカー俳優の仲間入りを果たした。静かに流れる重厚なドラマを演じきって評価を集めたケイシーは、俳優としてすでに兄を超えたと言っても過言ではない。

マンチェスター・バイ・ザ・シー サブ2

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さて、オスカー受賞作品の監督による次回作というのは、傾向が様々。例えば近年で言えば、『バードマン』で作品賞を受賞したアレハンドロ・G.イニャリトゥは続く『レヴェナント』でもオスカー候補に上がり、『英国王のスピーチ』のトム・フーパーは『レ・ミゼラブル』、『スラムドッグ$ミリオネア』のダニー・ボイルは『127時間』と、いずれも高評価を獲得している。

一方で、『ノーカントリー』で受賞したコーエン兄弟は、サスペンスとコメディを交互に打ち出す作風に順じて『バーン・アフター・リーディング』を発表し、酷評に包まれた。『アーティスト』のミシェル・アザナヴィシウスも同様で、オムニバスで参加した『プレイヤー』が酷評を集め、単独監督作となった『あの日の声を探して』も、なかなか厳しい評価となったわけだ。

そのどちらにも当てはまらない『夜に生きる』は、いわばポール・ハギスとサム・メンデスの流れに似ている。前者は『クラッシュ』の後の『告発のとき』、後者は『アメリカン・ビューティー』の後の『ロード・トゥ・パーディション』と、大きく評価を上げなかったものの、堅実な演出力が際立った佳作ということだ。

残念ながらアフレックは今作で賞レースに絡むことはなかったわけだが、次回作にはアガサ・クリスティの「検察側の証人」、つまりビリー・ワイルダーの『情婦』のリメイクが企画されている。これはどんな仕上がりになるか、早くも期待がふくらむ。

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(文:久保田和馬)

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