“おかえりなさい”と“ただいま”で始まる映画祭、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭レポート

観客、監督、業界関係者などなど、一度は行ったことがある人から、「絶対に一度は行くべき!」だといわれ続けてきたゆうばり国際ファンタスティック映画祭に初参戦。

ゆうばり

DAY1

どんなにいい天気が続いても映画祭になると吹雪くというゆうばりは、案の定吹雪の中で今年も開幕した。

会場は外の吹雪を吹き飛ばすような熱気にあふれていた。道内外からのマスコミも多数集まり注目度の高さを感じさせた。今年からメイン会場が変わったことで初参戦組はもちろん常連組も、そして映画祭スタッフもどこか不慣れな感じで、ウロウロあたふたとしていた中で気が付けばオープニングセレモニーが始まった。

司会者から、名誉大会長の鈴木直道夕張市長、澤田直矢実行委員長まで最初に口にするのが「おかえりなさい!!」の一言。これに観客は「ただいま!」で返す。初日はこのコール&レスポンスが繰り返される風景が続く。

オープニング作品は「エヴェレスト神々の山嶺」(平山秀幸監督)。作品の内容にその都度触れていくと長くなるので一点だけ。山に取り憑かれた男を演じる阿部寛の眼力だけでも一見の価値あり。

また、吹雪の中の会場で見ると妙な臨場感があった。このような環境で、この作品を見ることはまずないでしょう。

その後、会場を移してのオープニングパーティー。こちらもゲスト、関係者、観客分け隔てなく酒を酌み交わし、食事を楽しむ。コンペ部門の監督や出演者はここぞとばかりに売り込み合戦を展開。一方で常連の観客組は同窓会のような趣であれこれとスケジュールを語り合っている。

DAY2

ゆうばり
コンペ部門の開催会場があるのは映画の絵看板があることでも知られるゆうばりキネマ街道の一角。各店舗には映画祭と店舗名が記された提灯が掲げられている。

こちらの会場は前夜のパーティー同様、監督・出演者が手作りのチラシやポストカードを展開してPR合戦。国内組としては、ここが今年の中・短編映画祭が始まることもあって、箔付け、勢い付けに余念がない。

シャトルバスでメイン会場に移動してスカパー!映画部関連企画作品「メイクルーム2」(森川圭監督)の上映。スカパー!はゆうばり映画祭に企画や協賛金などの様々な形で深くかかわっている。この関わりとスカパー!映画部についてはまたまとめたい。

この映画は昨年のコンペでグランプリを獲得した「メイクルーム」の続編で、映画祭から製作援助金が提供されていて、文字通りの凱旋となった。当然森川監督の口からは“ただいま!”の一言が。

かつてクエンティン・タランティーノ監督が「レザボア・ドッグス」(92年)を引っ提げて初来日を果たすなど、海外作品に先見の明があることで知られるゆうばり映画祭は、今でもその神通力が残っていて、かなりの話題作が上映されている。その中、2日目にはブリー・ラーゾンがアカデミー主演女優賞を受賞した「ルーム」(レニー・アブラハムソン監督がジャパンプレミアとして上映。

そして、今年で12回目のゆうばりとなるフジテレビの笠井信輔アナウンサーも登壇。上映の前後に直前に迫ったオスカーの受賞予想や作品の概要を面白おかしく解説。映画ファンとしても知られている笠井アナウンサーの“あれこれ噺”が会場を盛り上げる。

一つ前の上映の「Mr.ホームズ 名探偵最後の事件」の上映前にはアカデミー賞レッドカーペット中継に旅立つ直前の女優の武田梨奈も登壇。アカデミー関連作品で一番は「ルーム」が凄いと絶賛。レッドカーペットではシルヴェスター・スタローンにインタビューしたいと宣言していたが、のちの報道を見ると拳を合わせたとのことだ。

夜が更けてくると上映、イベントがどんどんディープになってくる。この日の夜は人気劇団ヨーロッパ企画の面々が監督した短編集の一挙上映会。「サマータイムマシン・ブルーズ」などで映画化された作品もある劇団だが、今回は監督に回ったという企画。

DAY3

この日は映画祭の中でもハイライトというべき一日。「セーラー服と機関銃」(81年、相米慎二監督)と3月5日公開の「セーラー服と機関銃‐卒業‐」(前田弘二監督)の連続上映。

とくに後者では“天使すぎるアイドル”こと橋本環奈の舞台挨拶があるということで、会場はオープニングセレモニー並みの熱気と動員。公開から35年、半ば神格化された81年の薬師丸ひろ子版を見た直後の上映ということで、なかなか過酷な条件でのお披露目となったものの「-卒業‐」は大健闘の出来としてみることができた。

その二作品の間にはこれも恒例となったメイン会場前でのフォトセッション。前日までの吹雪が嘘のように天候に恵まれ、野外フォトセッションも明るい雰囲気の中で行われた。

ゆうばり

陽が沈み始めるとまたディープな顔を見せ始める。この夜は、地元の方々が材料を持ち寄り、お代は“お気持ち次第”という名物ストーブパーティー。勿論、夕張なので石炭ストーブ。

ここでも映画のPR合戦。そして映画ファン同士の映画談議に花が咲く。極寒の中楽しい夜となる。ちなみに、今回は宿泊の関係で参加できなかったものの、ゆうばり駅前の屋台村では追い出されるまで毎夜毎夜酒宴が繰り広げられている。

最後は、恒例企画となってきた「鉄ドンへの道」。若手監督による約3分のギャグ映画の連続上映。一作一作ごとに監督名が出ると拍手・“しょーもなー”・“金返せ”コールが出る参加型上映。実際の支持とは裏腹に会場が縮小されたために、結果的に椅子に座れる観客はごくわずかであとは床にじかに座るか、立ち見という状態。酸欠予防のためにドアが開けたままになってしまっていた。

ゆうばり

DAY FINAL

この日も好天に恵まれた。クロージング作品は今年のアカデミー賞最多ノミネートの「レヴェナント:蘇えりし者」。こちらも極寒の大自然が舞台の映画ということで、臨場感抜群。

上映前の前説をもって東京に戻る笠井アナウンサーが最後のアカデミー予想。そして登壇した20世紀FOXジャパンの代表とともにレオナルド・ディカプリオは時間がかかりながらもオスカーを獲得したアル・パチーノになるのか?最後まで演技部門では受賞がならなかったピーター・オトゥールになるのか?で盛り上がった。

そして、その流れのままクロージングセレモニーに。コンペ部門の各賞が発表され、ファンタスティック・オフ・シアター部門は本物の不良が大挙して登場する「孤高の遠吠」(小林勇貴監督)。

インターナショナル・ショートフィルム部門はアニメーション作品「片隅の鱗」がグランプリを受賞。あぶない刑事シリーズの脚本などでも知られる柏原寛司審査員長からは映像面でのクオリティの高さに比べて、脚本の弱さを感じるという総評が出た。これはデジタル撮影が定着して、長編作品がどんどん作られているものの、クオリティや発表場の数が追い付いていないという現在の邦画の現状を端的に表した一言だった。

そして、最後は最終日まで残っていたゲスト陣が全員壇上に上がってのフォトセッション。

舞台に乗れるだけ乗せるという趣旨のもと、ちょっと他では見ない風景の中で映画祭は終幕となった。

ゆうばり

ボーナストラック

一応クロージングセレモニーで終幕した映画祭だが、そのあとにキム・ギドク監督作品「STOP」のジャパンプレミアが行われた。監督が11年ぶりに、監督としては初めてゆうばりに登場。そのインパクトと福島原発事故をダイレクトに描いた作品ということで、会場残留組も多数。人の“危険な忘却”に警鐘を鳴らした。

最後に。最終日クロージング前に時間的に余裕があったので会場周辺の一帯を散策。老朽化のために閉鎖された昨年までのメイン会場前にいると地元のご婦人と立ち話ができた。まったくの初対面にもかかわらずこの心の敷居の低さはとても心地が良いものだった。

そして、映画祭期間中は賑やかであるものの、やはりゆうばりは往時に比べると、とても寂しくなってしまったという話が出た。人口も減り、若い人も外に出て何をするにも大変だということをしみじみと語ってくれた。

ただ、映画祭の準備期間に入るとそれでも何とか頑張っていこうという思いになるということだった。

今年で夕張市は財政破綻から10年。まだまだ苦境から脱するというところには至ってない状況ではあるものの、映画祭はまた来年への準備入っていった。

(取材・文:村松健太郎)


    ライタープロフィール

    村松健太郎

    村松健太郎

    村松健太郎 脳梗塞と付き合いも10年目に入った映画文筆家。横浜出身。02年ニューシネマワークショップ(NCW)にて映画ビジネスを学び、同年よりチネチッタ㈱に入社し翌春より06年まで番組編成部門のアシスタント。07年から11年までにTOHOシネマズ㈱に勤務。沖縄国際映画祭、東京国際映画祭、PFFぴあフィルムフェスティバル、日本アカデミー賞の民間参加枠で審査員・選考員として参加。現在NCW配給部にて同制作部作品の配給・宣伝、イベント運営に携わる一方で各種記事を執筆。

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