二枚目からアンチヒーロー、ガンコ親父と さまざまな顔を持つ菅原文太

アンチヒーローとしての覚醒と
不条理な社会との対峙

東映での第1作は石井輝男監督・高倉健主演の『網走番外地/吹雪の闘争』(67)。以後、東映の任侠やくざ路線に乗せてさまざまな役をこなしていくうちに注目を集めていき、69年の『現代やくざ・与太者の掟』と『関東テキヤ一家』では堂々主演を務め、どちらもシリーズ化されていきました。

70年代に入ると従来の任侠映画に対するアンチテーゼとしての『懲役太郎・まむしの兄弟』(71)が人気を博してシリーズ化。こうした流れの中、菅原文太のアンチヒーローとしての凄みは徐々に際立っていき、深作欣二監督の『現代やくざ・人斬り与太』(72)『人斬り与太・狂犬三兄弟』(72)でそれは決定的なものとなり、勢いに乗せて翌73年『仁義なき戦い』が世に生まれることになりました。

同年度キネマ旬報ベストテンで菅原文太は主演男優賞を受賞。
この時期になると東映の路線は任侠映画から実録ヤクザ映画へと大きくシフトしており、それをギラギラと象徴する大スターとして彼は君臨するようになります。

もっとも彼自身は75年の『トラック野郎・ご意見無用』に始まるドタバタ人情アクション喜劇『トラック野郎』シリーズに主演し、この年『県警対組織暴力』ともどもブルーリボン賞主演男優賞を受賞し、以後は実録路線のみならず徐々に幅広い役柄へ挑戦するようになっていきます。

79年、長谷川和彦監督の『太陽を盗んだ男』では原爆を作った教師を追い詰めていく刑事を熱演し、80年にはNHK大河ドラマ『獅子の時代』に主演。
81年には加藤泰監督の幕末時代劇『炎のごとく』に主演。
また80年代は『ビルマの竪琴』で市川崑監督と出会って以降、市川作品の常連となり『映画女優』(87)では溝口健二をモデルにした映画監督を演じました。阪本順治監督のシュールなボクシング映画『鉄拳』(90)の凄みも忘れられないものがあります。

また80年代からTVドラマ『中卒・東大一直線/もう高校はいらない!』(84)でタイトル通り我が子を中卒で東大入学させた父親を好演したあたりから教育問題に熱心に取り組むようになり、90年代以降は農業政策などにも深い関心を抱くようになっていき、講演活動も顕著になっていきます。
98年には岐阜県の飛騨に移住。2009年には山梨県で農業を始めるようにもなります。

2001年、実子の俳優・菅原加織を踏切事故で亡くし、その悲しみを乗り越えて石原さとみのデビュー作『わたしのグランパ』(03)で映画復帰を果たしますが、結果としてこれが最後の主演映画となりました。

2012年、山田洋次監督の『東京家族』に出演予定でしたが、クランクイン直前に東日本大震災が起きたことで、「今は映画を撮っているときではない」と出演を固辞(もっとも山田監督自身も同じ考えであり、結果『東京家族』はキャストを総入れ替えし、脚本も手直して13年に完成させました)。

2012年にはアニメ映画『おおかみこどもの雨と雪』に声優として参加。これが彼の遺作となりました。

同年、56年に及ぶ俳優生活にピリオドを打ったことを公言し、12月には有志とともに国民運動グループ「いのちの党」を結成し、活動。

沖縄県知事・翁長雄志を応援しながら基地問題を見据え、安保法制も含めた政治の右傾化に真っ向から反対の声をあげ(晩年、彼は石原慎太郎のことを「ボケ老人」と一蹴しています)、徹底的に反戦平和の主張を訴えるなど、反骨の姿勢を最後の最後まで貫きました。

2014年11月28日、永眠。満81歳でした。

若き日の二枚目からアンチヒーロー、そして社会に対して物おじすることなく対峙し続けたガンコ親父の勇姿は、いわば“仁義ある戦い”を続けてきた男の人生として、大いにリスペクトすべきものがあるかと思われます。

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(文:増當竜也)


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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