面接室に入ったら、内定を辞退させないと迫られる。
目を覚ましたら、洞窟の中に忍者の死体が転がっている。
どちらも、できれば自分には起きてほしくない。
けれど映画となると、その先が気になってしまう。
どうしてこんな状況になったのか。
相手は何を企んでいるのか。
そして、自分だったらどう切り抜けるだろう。
そんな問いを、忍者映画でも就活映画でも突きつけてくるのが、千葉誠治監督だ。
10月16日公開の最新作『呪区』では、悪霊に襲われる若者たちが、服を脱ぐと相手から認識されなくなるという奇妙な法則に気づく。

追い込まれた人間に、思いもよらない生存条件を課すホラーである。
今回はその公開に合わせ、黒川芽以が出演する『忍者狩り』、横浜流星らが就職試験に挑む『シュウカツ』、そして続編『シュウカツ2』を取り上げたい。
戦う場所は洞窟から会議室へ。手にする武器は刀から言葉へ。
並べてみると、この3作品には、意外なほど近いところにある怖さが見えてくる。
横浜流星の相手は、内定を盾にする面接官――『シュウカツ』

就職面接では、自分が見られていることを嫌でも意識する。
返答の内容はもちろん、声の調子、表情、沈黙の長さまで評価されている気がする。
相手の質問に違和感があっても、その場ですぐに言い返せるとは限らない。
ここで機嫌を損ねたら、不採用になるかもしれないからだ。
2016年公開の『シュウカツ』は、そんな面接の力関係を、4つのサスペンスへと変えたオムニバス映画である。

「見えない相手」に戸谷公人、「拡散」に横浜流星、「生き残り」に廣瀬智紀、「控え室」に桜田通と渡部秀。
各話で異なる若者たちが、内定をめぐる試験や駆け引きに向き合う。
なかでも、横浜流星が主演する第2話「拡散」は、設定だけでも居心地が悪い。
彼が演じる柏原達哉に、面接官が内定辞退を認めないと迫り、誓約書への署名を求める。
就職先を選びに来たはずなのに、選択する自由を奪われかけるのだ。
採用されたいという願いが、相手に握られる弱みになる。
ここに、本作の設定の怖さがある。
もちろん、実際の就職面接をそのまま再現した映画として見る必要はない。
極端な状況だからこそ、普段は飲み込んでしまう疑問がはっきりする。
「選ぶ側」にいるというだけで、人はどこまで相手に要求してよいのか。
横浜の出演作として注目したいのも、この言葉をめぐる対決だ。
相手の要求をどう受け止め、どんな返答を選ぶのか。
アクションとは別の緊張が、面接という場に生まれる。

そして、不穏なのは面接官だけではない。
桜田通と渡部秀が出演する「控え室」では、同じ試験を受ける学生同士の関係が焦点になる。
競争相手が口にする言葉は、親切なのか、それとも揺さぶりなのか。
面接室に入る前から、すでに駆け引きは始まっている。
誰かに評価される不安と、隣にいる人を信じきれない不安。
『シュウカツ』は、その両方を会議室と控え室に持ち込んでいる。
「誰も入れるな」。入社前の留守番が不穏すぎる――『シュウカツ2』

2018年公開の『シュウカツ2』は、その理不尽をさらに広げる。
主演を務めるのは渡部秀、染谷俊之、戸谷公人、溝口琢矢。
物語は「ディベート」「入社前研修」「報復面接」の3話で構成される。
「ディベート」では、最終面接に残った2人の学生が、1つの内定を争う。
ところが面接官たちは部屋から出ていき、学生同士が向き合うことになる。
見ている人がいなくなったとき、人はどんな態度を取るのか。
正々堂々と議論すればよいのか。
相手と協力する余地はあるのか。
それとも、そもそも何を試されているかという前提から疑うべきなのか。
面接官の不在が、かえって試験の輪郭を曖昧にする設定だ。
「入社前研修」では、中途採用を希望する棚瀬が、面接に代わって夜の事務所の留守番を任される。
条件は、誰も中に入れないこと。
採用を目指して訪ねた会社で、いつの間にか奇妙な任務を背負わされる。
留守番自体は、ありふれた行為である。
そこに、理由の見えない命令が一つ加わるだけで、玄関の向こう側が不穏になる。
その指示を守れば、本当に自分は安全なのか。

この問いは、就職活動の外にもつながっている。
仕事だから、決まりだから、上から言われたから。
そう説明されると、納得できていなくても従ってしまうことはないだろうか。
「報復面接」では、別の会社が立てた悪評によって採用が難しいと告げられた人物に、予想外の提案が持ちかけられる。
ここでも、仕事を得たいという切実な願いが、相手の要求と結びつく。
前作が気になった人はもちろん、「就活はもう昔の話」という人にも引っかかる設定だ。
評価する側とされる側、命じる側と従う側。
その力関係は、入社後もなくならないのだから。
黒川芽以が担う“謎の軸”。刀だけでは生き残れない『忍者狩り』

面接室の駆け引きから、一気に戦国時代へ。
2015年公開の『忍者狩り』は、記憶を失った忍者を主人公に据えたアクション・サスペンスだ。
天正6年、伊賀。下忍の突悪は洞窟で意識を取り戻す。
目の前には、同じ伊賀の忍者だという邪気。
そして、周囲には多数の忍者の惨殺死体がある。
誰が殺したのか。
自分はなぜ、ここにいるのか。
突悪には、その答えとなる記憶がない。
この出発点が実に不穏だ。
敵が強いという以前に、状況を判断する材料が欠けている。
目の前の人間を信用してよいのかさえ、わからない。
主演は三元雅芸。
黒川芽以、虎牙光揮らが共演する本作では、アクションの制作にも明確な狙いがあった。

公開当時の舞台挨拶で三元は、約2週間の撮影中、アクションがなかった日は1日だけだったと説明。
海外の観客を意識し、古武術を取り入れた刀の扱い方や足運びに挑戦したことも明かしている。
一方、くノ一・楓衣を演じる黒川芽以は、アクションとは異なる役割を担う。
当時の報道で千葉監督が説明しているのは、黒川がドラマ部分を担当しているということ。
黒川自身も、謎解きのある物語の軸を大切にして演じたと語っている。
だからこそ、彼女の出演場面では、くノ一という外見だけでなく、主人公の記憶や人物関係にどう関わるかに注目したい。

刀を振るう身体と、過去をたどる頭脳。
『忍者狩り』は、この二つを同時に働かせる映画として捉えると面白い。
本作は2015年のシッチェス・カタロニア国際映画祭にも正式出品されている。
忍者という海外にも伝わる題材に、記憶をめぐる謎を組み合わせた一本だ。

日本のロジャー・コーマン? 奇抜な設定の奥にあるサービス精神
忍者の記憶喪失。
面接室の心理戦。
そして最新作では、脱衣が生存条件になるホラー。
この振り幅に、ロジャー・コーマンを思い浮かべる映画ファンもいるだろう。
コーマンは、多様なジャンル映画を送り出し、多くの映画人の才能を育てた監督・プロデューサーだ。
千葉監督をその日本版と位置づけるなら、まず注目したいのは、観客が思わず続きを知りたくなる企画の発想である。
これは単なる連想でもない。
千葉監督は『AVN エイリアンVSニンジャ』についてのインタビューで、米国留学中に接したコーマン系映画やコメディの観客について語っている。
さらに、海外の観客を意識し、アクションに笑いを組み込んだことを説明していた。
まず設定で興味をつかむ。
そこから、闘い、恐怖、駆け引きへと連れていく。
その作り手の姿勢には、ジャンル映画ならではのサービス精神を感じる。
今回の3作品をつなぐのも、登場人物を平穏な場所に置いておかない発想だ。
記憶がない。
相手の意図がわからない。従うべきルールの理由もわからない。
それでも、その場で答えを出さなければならない。
『シュウカツ』の面接室がどこか他人事に思えないのは、私たちも日々、十分な情報がないまま判断を求められているからかもしれない。
横浜流星の出演作をたどるところからでも、黒川芽以のくノ一役への興味からでもいい。
気になった一本を入口にすると、忍者映画と就活映画の距離は、思っていたよりも近い。
もし自分が、その部屋に入ってしまったら。
千葉誠治の仕掛けるサスペンスは、そんな想像から始まる。
あわせて読みたい:『シュウカツ』シリーズ出演・渡部秀に「秀活」インタビュー
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