映画コラム

REGULAR

2021年06月30日

この愛をあなたは受け止め切れるか『スーパーノヴァ』

この愛をあなたは受け止め切れるか『スーパーノヴァ』



コリン・ファースとスタンリー・トゥッチ。実際に20年来の友人であり、同い年でもある2人の名優が演じるのは、20年来のパートナーであるピアニスト・サムと作家・タスカー。そんな2人がキャンピングカーに乗って旅に出る本作であるが、タスカーが認知症と診断されており、日に日にその症状が強くなってきている状態であるため、愉快で楽しい旅路を描くロードムービーとは当然訳が違う。基本的には2人の会話劇がメインで、回想などを用いることなく、観客を泣かせにかかってくるような小手先のテクニックも用いることなく、今現在の2人の姿を、その葛藤や心模様を、ただひたすら真摯に映し出していく。



相手を愛しているからこそ、相手がどんな状態になったとしても支え続けようと苦悩する。相手を愛しているからこそ、相手に余計な負担をかけまいと苦悩する。互いに愛を抱いているからこそ苦悩し、望む結末も噛み合わなくなっていく。無論、どちらの考えが正しいかなど決められるはずもなく、当事者間でしか答えを決められないことであるのだが、自分が同じ状況であったのならどのような選択をするのかと、どのような決断へと至るのかを、考えずにはいられない。

良い作品だと思えばこそ、今ここでこうしてあなたに紹介をしているわけだが、正直なところ、今の自分ではまだ味わい尽くせない作品であったとも思っている。それは決してネガティブな意味合いではなく、幸いにも両親やパートナーなど、最も近しく大切な存在に訪れる死や認知症といった類いの経験を、僕自身が一切経験してきていないからである。つまりは、彼らと同質の経験をその身に宿している人であればこそ、より深くこの作品を噛み締めることができるのではないだろうか。



とは言え、僕と近しい感覚の人が今本作を目にしたとしても、何かしら得られるものや響くものはあるはずだし、いずれ訪れるその日に想いを馳せることもできるだろう。出会いがあれば別れが訪れるのが必然で、生きていれば必ず死を迎える時がやってくる。愛と喪失、そのどちらも経験していてこそ、真価を感じ取ることのできる作品だと思います。

(文:ミヤザキタケル)

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