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【第77回カンヌ国際映画祭】映画ライター注目作“11選“


5月14日(火)から開催される第77回カンヌ国際映画祭。



日本からは、スタジオジブリが名誉パルムドールを受賞。『あみこ』『魚座どうし』の山中瑶子監督新作『ナミビアの砂漠』や森山未來が声優を担当し話題となった『化け猫あんずちゃん』が監督週間に選出されている。

ほかにも魅力的な作品が目白押しの第77回カンヌ国際映画祭。今回は筆者が注目する11本の作品について紹介していく。

1.BIRD(コンペティション)

カンヌ国際映画祭の常連であるアンドレア・アーノルドは、長編劇映画4作中3本で審査員賞を受賞しているカンヌキラーな監督である。

8年ぶりの長編劇映画は、不法居住している家族の物語である。息子のひとり、ベイリーが居場所を求めて旅に出る話となっており、『フィッシュタンク〜ミア、15歳の物語』や『アメリカン・ハニー』の延長線にある物語だと思われる。

出演は『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』や『Saltburn』で不気味な演技を魅せ話題となったバリー・コーガン、『水を抱く女』『フリークスアウト 』のフランツ・ロゴフスキだ。

今回のカンヌ国際映画祭審査員には『バービー』のグレタ・ガーウィグや『万引き家族』でパルム・ドールを受賞した是枝裕和、『存在のない子供たち』のナディーン・ラバキがいる。

自分の居場所を模索する物語を描いた監督が審査員になっていることから、パルム・ドール最有力候補なのではと考えられる。

2.THE SHROUDS(コンペティション)



『ヴィデオドローム』『ザ・フライ』の鬼才デヴィッド・クローネンバーグ新作は、埋葬された死体とつながることのできる装置に関する物語である。

本作は監督の実体験がベースとなっている。『マップ・トゥ・ザ・スターズ』を製作した後、クローネンバーグは妻を亡くし、長らく映画を撮ることができなかった。

本作は、その喪失感をバネにしたSFとなっているとのこと。彼の作品は常に未来の価値観を見据えている。近年、生成AIによって死者の画像や声を学習させて対話させる技術が開発されつつある。

今回は、AIによって死者と対話できる世界を見据えた話として興味深い作品に仕上がっているといえよう。

関連記事:<考察>『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』クローネンバーグの世界を読み解く

3.THE APPRENTICE(コンペティション)

『ボーダー 二つの世界』『聖地には蜘蛛が巣を張る』のアリ・アッバシ監督新作は、ドナルド・トランプの伝記映画だ。1970~80年代にかけて弁護士ロイ・コーンと共にニューヨークで不動産業を営む過程が描かれる。

イラン系デンマーク人監督からドナルド・トランプの作品が飛び出すとは驚きである。過去作を踏まえても全く予想もつかない作品となっており、本祭のダークホースといえるのではないだろうか。

4.GRAND TOUR(コンペティション)



『熱波』で日本でも知られるようになったポルトガルの監督ミゲル・ゴメス。コロナ禍で撮影が難航していた『GRAND TOUR』がついに完成した。

本作はミャンマー・シンガポール・タイ・ベトナム・フィリピンそして日本と飛び回りながら撮影した映像と、スタジオで再現された架空の東南アジアをつないでいき、1918年と現在の連続性を見出す作品。

ミゲル・ゴメスはドキュメンタリーと劇映画の垣根を超える作風を得意としている監督。彼が捉える21世紀の東方見聞録はどのようなものか注目である。

5.ALL WE IMAGINE AS LIGHT(コンペティション)



山形国際ドキュメンタリー映画祭2023にてロバート&フランシス・フラハティ賞(大賞)を受賞した、『何も知らない夜』のパヤル・カパーディヤー監督新作がコンペティション部門に登場。

今回は劇映画となっており、ムンバイ出身の看護師プラバが、海外に移住した男性との見合い結婚に巻き込まれるロードムービーとなっている。

『何も知らない夜』では、架空の手紙の文通によってインド映画テレビ学院で2015年に起きた学生デモの空気感を伝えていく幻想的なドキュメンタリーとなっていた。

今回パルム・ドールを受賞すれば、インド映画として1946年以来の栄冠に輝くこととなる。

6.LIMONOV – THE BALLAD(コンペティション)

『LETO レト』にて日本でも注目されるようになった、ロシアの鬼才にしてカンヌ国際映画祭の常連キリル・セレブレンニコフの新作。

詩人にして政治家のエドゥアルド・リモノフの人生を描いたエマニュエル・カレールの小説「リモノフ」を基に、ロシア・アメリカ・ヨーロッパを旅する彼の生き様が描かれる。

脚本には『COLD WAR あの歌、2つの心』でカンヌ国際映画祭監督賞を受賞したパヴェウ・パヴリコフスキが加わっている。

コンペティション部門の常連でありながら無冠が続くキリル・セレブレンニコフ監督、今回で初の受賞となるか期待が高まる。

7.ぼくのお日さま(ある視点)

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『僕はイエス様が嫌い』でサンセバスチャン国際映画祭最優秀新人監督賞を受賞した、奥山大史監督の商業デビュー作が「ある視点」部門に選出された。

本作は群像劇となっており、吃音を持つホッケー少年、フィギュアスケートを学ぶ少女、そしてコーチの視点が編み込まれた作品とのこと。

『僕はイエス様が嫌い』では、祖母と暮らすために地方のキリスト教小学校に転入することとなった少年ユラが、キリスト教学校のムードに強烈な違和感を感じ反発する物語となっていた。

子どもの持つ純粋な反発や葛藤を丁寧に捉えた監督だけあって期待の一本である。

8.C’EST PAS MOI(カンヌ・プレミア)

『アネット』のレオス・カラックス監督新作は中編映画となっている。

『TOKYO!』『ホーリー・モーターズ』で登場したドニ・ラヴァン演じる怪人メルドを通じてレオス・カラックスのフィルモグラフィーを再考した自画像にしあげたとのこと。

9.MISÉRICORDE(カンヌ・プレミア)

『ノーバディーズ・ヒーロー』のアラン・ギロディ監督新作は『湖の見知らぬ男』よりもダークなフィルム・ノワールとのこと。

ジェレミーは元上司の葬儀でサン・マルシャルへ戻り、見冒認であるマルティーヌ家に滞在する。そこで謎の失踪事件が発生するとのこと。

『ノーバディーズ・ヒーロー』では、ヌルっと家庭に侵入するテロリスト疑惑の男が魅力的に描かれていた。今度は修道院長が不気味な立ち回りをしている。

10.RUMOURS(アウト・オブ・コンペティション)

『ミッドサマー』『ボーはおそれている』のアリ・アスター監督は近年、製作総指揮としてユニークな監督の支援を行っている。そんな彼は、ついに敬愛するガイ・マディン監督とのプロジェクトに参加できた。

サイレント映画のような質感で、サイケデリックな画を作ることで知られるガイ・マディン。彼の新作は、G7サミットを舞台に世界的危機に関する声明の草案を作る中で森に迷い込むコメディ映画とのこと。

ケイト・ブランシェットとアリシア・ヴィキャンデルが主演を務めるほか、日本からは『SHOGUN 将軍』で石堂和成役を務めた平岳大が出演する。

ガイ・マディン映画史上最も豪華なキャスティングとなっており、日本公開に期待が高まる。

11.THE HYPERBOREANS(監督週間)

『オオカミの家』で日本でも話題となったクリストバル・レオン&ホアキン・コシーニャコンビ新作が、カンヌ国際映画祭と同時期に開催される監督週間でお披露目となる。

本作は何年も前に撮影が終わっていたものの、素材や機材の盗難に遭い、完成できなかった作品の制作プロセスを再現したものとのこと。

チリの詩人で外交官のミゲル・セラーノからインスピレーションを受け、仮想現実内に隠された世界からナチスに関する記憶を紐解いていく内容になっている。

『オオカミの家』では不気味なストップモーションアニメーションを通じて、ピノチェト軍事政権下のチリに実在した「コロニア・ディグニダ」の凄惨な記憶をたどる物語を紡いだ。今回も独特なアプローチで歴史上の凄惨さを捉えていることだろう。

関連記事:<考察>『オオカミの家』アリ・アスターが惚れ込んだ闇のアニメ

最後に

カンヌ国際映画祭のラインナップは、公式サイトから確認できる。他にもユニークな作品が目白押しとなっているため、要チェックである。


(文:CHE BUNBUN)

参考資料

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