哀しみの描き方〜本当に泣けるハリウッド黄金期のメロドラマ〜

何か良いタイトルはないかと思って、去年の映画のタイトルを捩ってみたが、どうやら「悲」と「哀」では少しニュアンスが違うようだ。「哀」のほうがより感傷的なものであるらしい。とりわけ、これから紹介する映画は「哀」のほうがかなり相応しいので、タイトルも「哀」のほうを取り入れてみたのである。

前置きはともかく、前回のコラムで、「最終的にどちらかが死ぬ映画は食傷気味」と言ったものの、何だかんだ言ってもそういう映画で泣いてしまうというのが人間である。所謂お涙頂戴モノというのだろうか。映画としては極めて古典的なやり口ではあるが、大方の観客が映画に対して感情移入を求めている以上は、「泣かせる」という、感情が具体的に表出する部分に依拠することは間違ってはいない。

最近は「涙活」と銘打って、泣くという活動を推進させるムードが満遍なくあるし、映画においては「全米が泣いた」ような触れ込みはもう何十年も使い古されているわけだ。某大手レンタルショップが、2009年頃だろうか、「本当に泣ける映画100選」として全店舗に大々的にコーナー展開したことをふと思い出した。当時そのチェーン店で働いていた筆者は、そのラインナップを週4回眺めるたびに、自分が一番泣いた映画が選出されていないことに疑問を抱いたわけである。

マーヴィン・ルロイ『哀愁』

マーヴィン・ルロイが1940年に撮った『哀愁』は、タイトルの時点ですでに哀しい映画であると目に見えているわけだ。人を泣かせることが罪であったとしたら、この映画は他のどの映画よりも最も重い罪を背負うべきであろう。

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舞台は第一次大戦下のロンドン。本作の原題でもある「ウォータールー橋(Waterloo Bridge)」の上で陸軍中尉のロバート・テイラーと、踊り子のヴィヴィアン・リーが出会う。運命的な出会いをした二人はすぐさま惹かれあい、出会いからわずか二日で結婚の約束をするのである。しかしそこからは悲劇の連続が待っている。中尉は召集され、見送りに行った踊り子はバレエ団をクビになり、職探しはうまくいかない。その挙句、中尉の母親と初めて会う日に新聞の訃報欄で彼の名前を見つけてしまい、自暴自棄になった踊り子は母親に対して酷く粗暴な態度を取ってしまう。

ヒロインが幸せの絶頂から突然突き落とされる前半は実に判りやすく不幸が続くわけだが、後半にはそれ以上の映画らしい不幸が襲いかかってくるのだ。友人とともに兵隊相手の娼婦として毎日駅に出向き、客を取るようになった彼女は、そこで死んだはずの中尉と再会するのである。

映画の冒頭で、橋の上に佇む中尉の姿が映し出され、そこから回想が始まる形式の映画なので、観客にとって、このサプライズは充分に機能しないのであるが、それでも自分を待ち続けていてくれたと思い続け、純粋にヒロインを愛する中尉の姿と、大きな秘密を抱えながらそれに葛藤するヒロインの姿の齟齬が、メロドラマとしては充分すぎるほどに機能しているのである。実に歯痒い展開がくりひろげられるというわけだ。

もちろん、男の観客としては、そこまでのヒロインの真実を知っているからこそに、中尉の立場に立ってこの映画を観ることになるので、ヴァージニア・フィールド演じる友人のキティと共に、ヒロインを探して歩くシーンで一気に胸が締め付けられていくのである。実家に挨拶に連れて行ったヒロインが突然いなくなった。彼女を探すためにキティを頼った中尉は、自分がイメージしている彼女が決して出入りしないような酒場や、関わることのないような人々を訪ねて歩く。やがて、自分が離れている間の彼女の生活を察したときの中尉の表情は忘れがたいものである。

キング・ヴィダー『結婚の夜』

同じように3〜40年代のメロドラマの傑作で、キング・ヴィダーの『結婚の夜』という作品がある。

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田舎に越してきたスランプの作家が、妻が都会に帰ってしまった途端に隣人であるポーランド移民の女性と恋に落ちる。しかし彼女は、許嫁との結婚を控えているというものである。映画の大まかな帰結点が『哀愁』と共通しているのだが、それ以外にも男性の無邪気な愚かさを描き、一方で女性の理性的な側面をきちんと描き、世間の波をきちんと理解しているように描く点でも似ている。

ここで描かれる「世間の波」は、戦禍での生活ではない。移民大国であるアメリカにやってきたポーランド移民が、いかにしてアメリカという国の風習に染まっていくかということである。ヒロインが許嫁との結婚を余儀なくされた状況で、母親が彼女をアメリカの慣習に従って生きていくように促す場面があり、そのシーンに涙するのである。そういえば『哀愁』でも、中尉の母親の存在が二度に渡り物語の大きな転機となるわけだから、「母親」というキャラクターの存在はこの種の作品にはとても大きなものであると判るのだ。

単純なメロドラマでありながら、移民が祖国の古い伝統から脱却して、新天地アメリカを志す自立心を描き出しており、それまで数多くの名作を生み出してきたキング・ヴィダーの映画の中でも最も素晴らしい作品に仕上がっている。個人的には『群衆』か、本作か、といったところだ。そんな希望的な一面があるからこそ、ラストの哀しさはピークに達するのであり、窓越しに見える幻影の美しさと儚さに再び涙する。

単純に「泣く」という所作が伴う映画でも、そのニュアンスは度々異なる。哀しいことと、感動は違うわけだし、素晴らしすぎる映画を観れば自然と涙が出てくる。それに、昔は上映中に寝てしまったり、あまりにも酷い映画を観れば時間を無駄にしたと悔しくて泣いたものである。

『哀愁』を観たときには、見終わった劇場から最寄りの駅までの間しばらく何も考えられないほどの哀しみを味わい、『結婚の夜』はVHSで観た作品ではあるが、哀しみと映画の素晴らしさ両方で涙できたのである。どうせ涙を流すことだけが目的だったら、さわやかに感動する映画を選んだほうがいいのかもしれないが、ここまで突き詰めて哀しい映画というのも、たまには観たくなるものだ。

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(文:久保田和馬

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    久保田和馬

    久保田和馬

    久保田 和馬 1989年生まれ。映画評論家/映画ライター/映像作家。フランス映画とアジア圏の映画をこよなく愛する。大学時代からの自主制作の延長で映像制作を行い、2013年から文筆業を開始。「図書新聞」へ映画評の寄稿、「リアルサウンド映画部」への寄稿など。

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