四月になれば彼女は…〜映画史に残る真の傑作ラブストーリー〜

旧作を紹介するコラムを始めて今回が3回目。これまではホラー映画とアバンギャルド映画と、比較的偏ったジャンル層の話を書いてきたけれど、もう少し支持の厚そうなタイプの作品を取り上げてみようかと、ラブストーリーに関して書いてみようと思う。

様々あるラブストーリー

ひとくちにラブストーリーと言っても、これがまた様々なタイプがある。ボーイミーツガールに始まり、結ばれて恋愛模様を描く時期を経て、最終的にハッピーエンドかバッドエンドかに終わる。この一連のシンプルな恋愛物語の流れの中で、どこを切り出すかがラブストーリー映画の中で重要な役割を果たす。

最近の少女漫画原作のラブストーリーは基本的に、如何にして交際に漕ぎ付けるかまでの過程を描き、その途中で訪れるライバルの登場や、何やらをドラマ性としてとらえるように構築される。しかし、それではそのドラマ性が脆弱すぎて、メインのラブの要素さえも薄まってしまいかねず、これほどまでにブームとして量産されるに相応しいとは思えない。だからと言って、10年ぐらい前に大ブームを起こして大量生産されたような、最終的にどちらかが死ぬような映画は、さすがにもう食傷気味である。

オタール・イオセリアーニ『四月』

当たり前ではあるが、もっと純然とラブストーリーを描き出すことに注力し、その中に些細な問題提起を加えることでドラマ性を垣間見せる手法を取ることが、一番理想的である。そんな作品があったかなと振り返っていると、ちょうど四月になったということで、オタール・イオセリアーニが1962年に発表した『四月』を例として取り上げるのが相応しいかと。

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二人の男女が逢い引きの場所を探しているカットの連続から映画は始まり、どこに行っても人の目が気になる。彼らはアパートの一室を借りてそこで一緒に住み始めるが、やがて家具が増えていくと同時に二人の心がすれ違い始めるのである。わずか50分ほどの中編映画である本作で、セリフというセリフはほとんど出てこない。ほぼすべてのシークエンスを映像と、登場人物の所作だけで見せるのである。

まずは序盤に機嫌を損ねた女のほうが、男を置いて一人で歩いて行ってしまうのを、男は入り組んだ街の中を先回りして機嫌を取ろうと奔走する。冒頭の時点で、この二人がカップルであるので、本作にボーイミーツガールが存在しないと思えるが、この一連のシークエンスによって、魅力的なボーイミーツガールが繰り返し行われるのである。
さらに、二人が借りた部屋で、二人の愛情の深さを表現するかのように、キスをするたびに電気がついたり、水道が通ったり、コンロから火が出たりというファンタジックな描写を織り交ぜる。さらに、セリフを排する代わりに人物の足音やドアの開閉音などをサイレント映画のサウンド版のような効果音で大きく表現するのもユーモラスな手法である。

舞台となるのは60年代のジョージア(先日までグルジアと表記されていたが)。ソ連の一部であったこの国での当時の文明の進歩がひっそりと描かれているのである。よく言う、「愛はお金では買えない」というような安易なテーマを付けることも可能ではあろう。同じアパートに住む他の登場人物たちの部屋はどれも、ほとんど家具がないなかで、それぞれが楽器を弾いたり筋トレをしたりと自由に暮らしている。クライマックスで窓から家具を次から次へと投げていくシーンの痛快さが、そんな純然とした愛情の表現を際立たせると同時に、自分たちの望みを叶える普遍的な行為は、文明の進歩に左右されないという解放を表しているのである。

言ってしまえば、本作は前述した恋愛物語の流れのすべてを通過させ、当時の経済成長への暗喩的な否定を込めた上で、根源的な愛の物語を主張しているのである。

ジュリアン・デュヴィヴィエ『望郷』

過去2回のコラムと同様に、もう一本紹介するとなると、非常に悩みどころである。同じようにボーイミーツガールと社会的な問題提起を込めたラブストーリーを考えてみると、『四月』の中で見られるジョージアの入り組んだ街の造形と重なる、カスバの街を舞台にした名作『望郷』が思いついた。

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ジュリアン・デュヴィヴィエとジャン・ギャバンがコンビを組んだ本作は、いわゆる指摘リアリズムとして言われる類の作品に当たるのだろう。犯罪者ぺぺ・ル・モコが潜伏しているカスバの街で、パリから訪れたギャビーという女性と出会い恋に落ちる。

一見すると、メロドラマとしての要素はあるが、(ジャン・ギャバンが出てるためもあってか)ハードボイルドな犯罪劇にラブストーリーが加味されているようにも思える。しかし、今にもフランス警察に捕まってもおかしくないぺぺ・ル・モコが、それすら顧みずにギャビーに会おうとするクライマックスの展開はまさに理想的なラブストーリーと呼ぶに相応しく、あの汽笛には心が打たれるものがある。

タイトルの「望郷」というフレーズを、この映画の邦題に採用したセンスもまた素晴らしい。カスバの街を出たらその瞬間に逮捕されることが判っているために、帰りたくても帰れないぺぺが、その故郷から来た女性に恋をするという、どこまでもパリに恋をしているという魅力も映し出されている。

本作もまた、当時フランス領だったアルジェリアの情勢を描いているわけで、それでも、特別にそれをフィーチャーすることはしない。あくまでも、ぺぺ・ル・モコという犯罪者がどうやってこの街で生きてきたかと、ギャビーとの恋模様を真摯に描き切るのである。攻め込んでくる警察から逃れる途中でギャビーと出会うこの映画でのボーイミーツガールは、ラストシーンを見てから改めて見直すと、ジャン・ギャバンの表情に一層切なさが増すのである。

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(文:久保田和馬

    ライタープロフィール

    久保田和馬

    久保田和馬

    久保田 和馬 1989年生まれ。映画評論家/映画ライター/映像作家。フランス映画とアジア圏の映画をこよなく愛する。大学時代からの自主制作の延長で映像制作を行い、2013年から文筆業を開始。「図書新聞」へ映画評の寄稿、「リアルサウンド映画部」への寄稿など。

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