「海賊とよばれた男」は見る者すべてを熱くする、山崎貴監督の最高傑作

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(C)2016「海賊とよばれた男」製作委員会 (C)百田尚樹/講談社

豪快な剛速球を、体の真ん中に食らった感じ。

先輩 いやあ、熱い映画だったなあ。

後輩 まったくです。見た後元気が出る映画ですね。

先輩 ド直球、それも剛速球を体の真ん中に食らった感じ。

後輩 あれ?でも先輩、山崎監督の「永遠の0」には不満だったじゃないですか?

先輩 うーん・・・あれはねえ、それぞれのパーツは良かったんだよ。岡田准一の芝居、ベテラン俳優陣の演技、VFX、サザンオールスターズの主題歌。それぞれの完成度は高いのに、作品として一緒になると、どーもちぐはぐな感じがしてねえ。

後輩 でも大ヒット作ですよ。映画館ではご婦人たちがサザンの主題歌をバックに号泣してました。

先輩 VFXは迫力があるんだけれど、あれとドラマが交互に画面に現れて、そこにサザンの主題歌が流れると、なんか3本の映画を一食に見ているようで。ベテラン俳優さんは、素晴らしい演技を見せているんだけどね。だから同じ原作者、同じ監督、同じ主演俳優でが再び組んだと聞いて、正直、期待半分、不安半分の精神状態で見たんだけれど、今回はひとりの男の一生を描くという作品だからか、1本筋が通っている気がしたね。それぞれのパートが違う方向を向いている感じはしなかった。

岡田准一の「どっしり感」が観る者を巧みにリードする。

後輩 特に今回、岡田准一の芝居と存在感が素晴らしいですね。

先輩 そうなんだ。1912年の時点で日本のエネルギーの将来を見越して石油ビジネスに乗り出す國岡鐵蔵という男を、毅然とした姿勢で演じている。その抜群のどっしり感、存在感が安定感と安心感を与えて、彼と彼の周囲の人たちとのドラマ、彼が遭遇する事態にどう対処したかがきっちりと描かれているから、見ている人が置いてけぼりにならない。今風な言い方をすれば、主人公の視点を共有出来る。だからドラマに没頭出来るわけだ。

後輩 この間ご隠居がぽやいてましたが、「最近の日本映画の主役は細すぎる」って。

先輩 細いって、体が?それは日本人の体型がスマートになったからだろ。

後輩 「昔の日本映画の主役は、短足でちょっと腹が出ていて、それがすごく安定感と頼りがいがありそうに見えた」って。「ところが今は、ひょろひょろした若い男が出てきて、何もしない。周囲が適当に騒いでくれて、それを見ているだけ。なんでそんな傍観者が主人公なんだ?」とも言ってました。

先輩 まあ確かに、最近「主人公がことの成り行きを見ているだけ」の受動的な映画は目につくけどね。

後輩 その点「海賊とよばれた男」の國岡は、自ら進んで騒動を起こすようなことをしたり、騒動の渦中に飛び込んでいく。

先輩 それを支える吉岡秀隆、染谷将太、鈴木亮平ら「山崎組アベンジャーズ」の面々が、適材適所。それぞれの位置で良い芝居を見せてくれるのも、この映画の力強さに貢献しているね。

「僕としては、ずっと『ジュブナイル』みたいなSF映画を撮って欲しかったけど・・」

後輩 山崎貴監督の「ジュブナイル」「リターナー」といった初期作品は、SF映画ですよね。

先輩 そうそう。「僕を監督にすれば、最新のVFXがついてきますよ」って、当時言ってた(笑)。「ジュブナイル」も「リターナー」も、最初に見た時は「こういうSF映画を日本で作れる人が出てきた!!」と感激したんだけれど、その後やるはずだった「ジュブナイル・ネクスト」という映画の企画が通らない。というのは、当時ROBOTの社長だった阿部秀司さんが「SFばかりやっていると、それしか出来ないと思われる」と言って「ALWAYS 三丁目の夕日」をやらせたんだよ。このあたり、監督があちこちのインタビューで話しているけどね。僕としては、ずっと彼にはSF映画を撮って欲しかった。でも、「海賊とよばれた男」を見る限り、阿部さんの判断は正しかった。SF映画だけ作っていたら、こんなに力強い作品を作ることは出来なかったと思う。

後輩 なるほど。

先輩 VFX出身だからというわけじゃないけれど、例えば「SPACE BATTLESHIP ヤマト」みたいな映画だったら、VFXが突出しても問題ないし、むしろ観客はそれを楽しみにしている。だけど「-三丁目の夕日」シリーズでは、「VFXを使って日常を描く」。つまりVFXを使っていると分からないことが、最大の効果なんだよ。

後輩 だから先輩が「永遠の0」に不満なのは、VFXシーンだけが突出してしまって、VFXにしか見えないってことですか?

先輩 そういうこと。そうでなくても今、画面上に夥しい量の情報を無秩序にばらまいたような映画が多いじゃないか。そうなると、本当に見せるべき情報は何なのか。俳優の芝居なのか、VFXなのか?と目移りしちゃうんだよ。ところが山崎監督の「寄生獣」前後編を見ると、情報を加えるのではなく引いている。VFXも見せるべきところでドカーンと見せて観客を脅かして、あとは静かに・・というコントラストがとても良かった。あの2部作も僕は好きだよ。

「なんなの!?この綾瀬はるかの可愛さは!!!」

後輩 山崎組アベンジャーズの活躍もさることながら、紅一点の綾瀬はるかが・・・。

先輩 そう!!! なんなのあの可愛さは!!?? まさか和服があんなに似合うとは!!

後輩 やっぱりそう思いましたか。途中で消えちゃうのが惜しいですよねえ。

先輩 オレ、まさかこの年齢で31才になった綾瀬はるかを見初めようとは思わなかった(笑)。

後輩 威勢の良い男たちばかりの中で、ひとりだけふんわかした女性の役なので目立つことは確かですけど、これでファンが激増するかもしれませんね。

今、日本人に一番欠けている「自信」を与えてくれる。

先輩 しかしこの映画を正月に見るというのは良いね。もう全国民にそうしてもらいたい。

後輩 そこまで言いますか?

先輩 今、一番日本人に欠けているのは「自信」だよ。この映画を見ると、「おっしゃあ!! オレも今年はやったるでえ!!」という前向きな気持ちになるじゃないか。

後輩 それは言えますね。体中から力が湧いてくる感じ。映画を見てこういう気分になるのは、久しぶりです。

先輩 山崎貴監督の最高傑作だと思うよ、僕は。ずっと彼の映画を見てきたけれど。

後輩 異議なし!

先輩 山崎監督は「ジュブナイル」以来、色々なタイプの映画を撮ってきて、たくさんのものを吸収したと思う。だからこれからも貪欲に作品を作っていくだろうから、「最高傑作」との評価も、「とりあえず、現段階で」ということにしておこう。またこれから、我々を楽しませてくれて、なおかつ力が湧き出るような作品を作ってくれることだろう・・と、さりげなくプレッシャーをかけておこう(笑)。

(企画・文:斉藤守彦)

    ライタープロフィール

    斉藤守彦

    斉藤守彦

    斉藤守彦(さいとうもりひこ) Morihiko Saitoh 静岡県浜松市出身。映画館、ビデオ会社でのアルバイトを経て、映画業界紙「東京通信」記者 (後に編集長)に。1996年からフリーの映画ジャーナリスト/アナリストとなり、以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「HiVi」「ザテレビジョン」「日経エンタテインメント!」「宇宙船」「スターログ日本版」「INVITATION」「東京カレンダー」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」「Pen」などの雑誌・ウェブメディアに寄稿。2007年秋に「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」を、08 年「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」、09 年「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」、 10 年に「『踊る大捜査線』は日本映画の何を変えたのか」(共著) を上梓。 他の著書に「図解でわかるコンテンツ・ビジネス」1〜4(共著)、「ソノラマ MOOK/ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」(構成・執筆) 、電子書籍「日本映画、飛躍と困惑の過去・現在・未来」等があり、ここ数年は「映画宣伝ミラクルワールド」「80年代映画館物語」と、独自の視点による書籍を執筆。2016年3月には新作「映画を知るための教科書 1912−1979」が世に出る。現在、水道橋博士編集長のメールマガジン「メルマ旬報」で「2016年映画館物語」を連載中。また「BOOKSTAND映画部!」で、「映画を待つ間に読んだ、映画の本」と「映画惹句は、言葉のサラダ」の2つの連載を行っている。

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