クールで熱く危険な女の子映画、『溺れるナイフ』

■「キネマニア共和国」

溺れるナイフ メイン ネタバレ


(C)ジョージ朝倉/講談社(C)2016「溺れるナイフ」製作委員会


小松菜奈&菅田将暉というこの上ない美女&美男コンビが主演、加えてジャニーズWESTの重岡大毅と『君の名は。』の上白石萌音が共演という若手実力派キャストで贈る『溺れるナイフ』は、2015年の秋を飾るにふさわしい、青春映画の傑作です。

そして、この映画でさらに注目していただきたい優れた才能がいます……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.169》

本作の監督・山戸結希です!

青春群像劇の定石を覆す
ジョージ朝倉の世界が完全映画化!


溺れるナイフ メイン


(C)ジョージ朝倉/講談社(C)2016「溺れるナイフ」製作委員会


映画『溺れるナイフ』のストーリーは、東京でティーンモデルとして絶頂期にあった少女・夏芽(小松菜奈)が親の仕事の都合で田舎に引っ越す羽目になり、しばらく落ち込んでいたところ、クラスメイトで人を寄せ付けない危なさを持つコウ(菅田将暉)と出会い、お互い惹かれあっていきます。

しかし、その夏の火祭りの夜、思いがけない事件が起きてしまい、それ以降夏芽は心を閉ざし、周囲からも疎まれながら高校へ進学。やがて彼女は地元のワルたちとつるむようになっていたコウと再会しますが、彼は冷たく彼女を拒絶し……というもの。

原作はジョージ朝倉の同名コミック。これまでこの人の作品を原作にした映画化作品は『少年ポンチ』(佐藤佐吉監督)『ピース・オブ・ケイク』(田口トモロヲ監督)がありますが、いずれも青春映画の定石を打ち破る秀作です。

本作もまた例外ではなく、まさに一度水の中に落としたら沈んでいくしかない研ぎ澄まされたナイフのような、思春期の少女&少年たちの繊細で傷つきやすい危険なまでの想いをクールに描出していきます。

同世代の少女たちの羨望の的であった夏芽が一気に転落していくきっかけとなる残酷な出来事。

夏芽に自分と同じものを感じながらも、彼女を護りきれなかったことを悔恨し、ぐれていくコウ。

そんなコウを思い続け、一方では転校してきた夏芽に憧れつつ、高校進学後は彼女以上に垢ぬけていく同級生のカナ(上白石萌音)。

持ち前の明るさで夏芽の孤独を救おうとしていくうちに、いつしか想いを寄せるようになる勝利(重岡大毅)。

ドラマは大きくこの4人の赤裸々な感情を露にしながら、単なる青春群像ラブストーリーの粋を超えた、どこかダークなファンタジーのような、それでいてノスタルジックで懐かしい思春期のときにしか醸し出すことのできないような、熱く危険な心と心の衝突をスタイリッシュに描いていきます。

女の子たちの伝説を紡ぎ続ける
山戸監督独自の世界観


溺れるナイフ サブ2


(C)ジョージ朝倉/講談社(C)2016「溺れるナイフ」製作委員会


さて、本作の山戸結希監督は2012年に自主映画『あの娘が海辺で踊ってる』を撮って注目され、2014年、東京女子流を主演にした『5つ数えれば君の夢』と、テアトル新宿レイトショー観客動員数を13年ぶりに更新した『おとぎ話みたい』で大きく飛躍し、第24回日本映画プロフェッショナル大賞新人監督賞を受賞していますが、その実力は賞云々の域に収まり切れないほどの破壊力を備えています。

彼女の作品群は、これまでのところ、徹底して女の子を主体にしており、その可愛らしさも醜さも美しさも愚かさもすべてひっくるめた等身大の姿を、あくまでも自然体の演出で、それでいて驚異的なまでの圧力をもって映像に定着させてゆきます。

私自身、2014年度の邦画ベスト・テンを決めようとしていた〆切ギリギリで、たまたま『おとぎ話みたい』をテアトル新宿で見て以来、毎日劇場に通いつめ、結果、漠然と決めていたベスト・テンの内容をすべて反故にし、全く異なる10本に入れ替えてしまいました(もちろんベスト1は『おとぎ話みたい』です)。なぜだか未だにわかりませんが、一見普通の女の子映画のようでいて、実は見る側に破壊的なまでの衝動を沸きたてさせるパワーがみなぎっているとしか言いようのない、彼女にしか絶対に撮り得ない唯一無二の作品だと確信したのも事実です。

『溺れるナイフ』はそこからさらに飛躍し、その破壊力を内に秘めたまま、狂おしいまでの思春期の揺れをジワジワと描出していきます。

本作の舞台となる和歌山県の海沿いの町の、どこか神がかった空気感の中、決して人が入り込んではいけない禁忌的伝説の場所などを美しくも荘厳に映し出す柴主高秀の映像も圧倒的で、特に長廻し撮影による神の視線めいた効果も、彼女たちの純粋性ゆえの危なさをより一層増幅させていきます。

思うに山戸結希監督は、その映画的活動自体がさまざまな伝説を繰り出してきていますが、その作品群もまた、現代を生きる女の子たちの新たなる伝説こそを紡ぎ出すべく腐心しているようです。

正直、見る前はさすがに『おとぎ話みたい』を凌駕できるだろうかと心配している部分もありましたが、いざ見始めたら前作とはまったく異なる、それでいて山戸映画としか言いようのない、ナイフのように切れやすくも熱い思春期ワールドに、ただただノックアウトされるのみでした。

公開は11月5日。またもやお小遣いが続く限りの映画館通いが再開しそうな気配であります……⁉

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(文:増當竜也)

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