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僕は〝寅さん〟を撮る前、ハナ肇主演の喜劇のシリーズをコンスタントに撮っていたんだけど、だんだん客が入らなくなって。
あるとき、松竹の会長だった城戸四郎さんに呼ばれて次は何を撮るんだと聞かれたから、「どうも近頃、僕の作品は客が入らなくて」と弱音を口にしたら、「客を入れるのは営業部の仕事だ。君はそんなこと心配しなくていい」と言われてホッとしたことがある。
その言葉でどんなに救われたことか。
ちなみに〝寅さん〟が当たったとき、城戸さんにすぐ呼ばれて行ったら、本当にうれしそうに「よかった、よかった。スタッフとおでんでも食ってこい」って自分の財布からお金を引っぱり出して渡してくれてね。
30代の頃は、アルバイトでテレビドラマの脚本をよく書いていたんだよ。
『男はつらいよ』シリーズはフジテレビだったんだけど、最終回で渥美清さん演じる寅さんを奄美大島でハブに噛まれて死なせたら視聴者からものすごい抗議がきてね。
だから映画で生き返らせれば観客に申し開きが立つだろうと思って上に企画を出したら、今とはまったく逆で「テレビでやったものを映画でやったってしょうがない」って、けんもほろろ。
しかも提出した台本の裏に「頭の悪い醜男が美女に恋をして失恋するストーリーは、平凡極まる」って書かれて、突き返されたね。
「そうだよ、平凡なんだよ。俺はそれがやりたいんだよ!」って。
川村 小津監督の作品のほうがもっと平凡なドラマだよって(笑)。
山田 そうそう(笑)。
〝すごくやりたい一人〟がいる企画が化ける
決定権をもっている城戸さんを説得しようとして、会長の部屋の前をウロウロしたこともあったよ。反対したという部長さんにも会いに行って、「あんたが反対したの?」って噛みついたりもしたね。
向こうは「いやぁ、私はまぁ、なんとかかんとか…」って言い訳するんだけど、反対するほうが無責任だと思っていた。映画は失敗することのほうがはるかに多いんだから。
「これだけあいつがやりたいと言うなら、ひょっとして、ひょっとするのかも」というか、みんなが反対したけどものすごくやりたい人が一人いた案件のほうが、成功する確率があるんじゃないかな。
僕のときは最終的に映画化を決めたのは会長の城戸さんだったけど、彼だって『男はつらいよ』の企画を買ってたわけではないんだよ。
僕がやりたがってることが大事だと思ったんじゃないかな。