映画コラム

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2016年02月13日

男に嫌われるために女が太る⁉ 『マンガ肉と僕』に挑んだ杉野希妃監督

男に嫌われるために女が太る⁉ 『マンガ肉と僕』に挑んだ杉野希妃監督

■「キネマニア共和国」

女優として、プロデューサーとして、そして映画監督としてボーダレスな活躍を続けている才人・杉野希妃。そんな彼女の映画監督デビュー作がいよいよ公開されます……


《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街~vol.108》


『マンガ肉と僕』、男に抗する女たちによる強く切ない映画です!


マンガ肉と僕


(C)吉本興業



マンガ肉とは
男女の関係性のシニカルな象徴


思えば第5回沖縄国際映画祭より設置された《クリエイターズ・ファクトリー》に製作&主演映画『おだやかな日常』(12)を出品し、最優秀クリエイター賞&女優賞を受賞した杉野希妃が、これを機に監督デビューを果たすことになり、そこで選んだ題材が「女による女のためのR-18文学賞」大賞受賞作である朝香式の短編小説「マンガ肉と僕」でした。

これはひとりの青年ワタベと3人の女との8年におよぶ愛の遍歴を描いたものですが、杉野監督はこれを京都を舞台に据えた3部構成のラブ・ストーリーとして構築していきました。

その中で、「男に嫌われるために、女が太る」というモチーフを体現し、マンガ肉に食らいつきながら男に抗する女サトミが登場しますが、これを杉野自身が特殊メイクを駆使して演じています。

マンガ肉とは、TVアニメ『はじめ人間ギャートルズ』よろしく、原始人が食べているような特大の骨付き肉のことですが、ここでのマンガ肉は女と男の関係性をシニカルに象徴した塊であり、ひいては今なお女性差別が横行する現代日本の象徴のようにも思えます。

サトミはワタベに寄生し、奴隷のように彼を支配していきます。

やがてサトミの支配から逃れたワタベは、二番目の女・菜子(徳永えり)と、後に三番目の女さやか(ちすん)と付き合いますが、それぞれの過程は見てのお楽しみということで……。

そしてクライマックスにはあっと驚く仕掛けも……。


溝口健二監督へのリスペクトから
もたらされる女の情念


三人三様の女と対峙していくワタベには、三浦貴大が扮しています。男の立場から見ていると情けなくも傲慢でイライラしてくるほどなのですが、その実自分の奥底を見透かされているような恐怖にも囚われていきます。

一方、女たちはそんな情けない彼との関係性を通して、男そのものを嘲笑っているかのようにも映ります。

面白いことに、本作を見た女性の多くは、これを「ブラックコメディのように思える!」と捉えているようで、逆に男性からは「コメディにしてはブラックすぎる!」脅威と恐怖を訴える者が続出しています⁉

まるで男たちに対する女たちの宣戦布告のような、しかし男もそれを甘んじて受けることで、お互い被虐的なカタルシスを味わえる、そんな不可思議な魅力を備えた作品です。

常々、溝口健二監督へのリスペクトを公言している杉野監督ですが、溝口作品こそは女の情念を描き続けてきた名匠で、そんな彼に本作が捧げられていることは、日本映画ファンなら一目瞭然でしょう。

(なお本作の英語タイトルは“KYOTO ELEGY”。これは溝口監督の1936年の名作『浪花悲歌』の英語タイトル“OSAKA ELGY”に倣ったものでもあります)

この作品は、可能ならば女性が男性を誘ってご覧になるのをオススメします(もちろん逆もありだし、独りでもOKですが)。
そして鑑賞後、どういった会話がなされるか、こちらは聞き耳を立ててみたい欲求にも刈られます。

おそらく女性はどこかニマニマし、男性はどこか苦虫を噛み潰したような、そんな光景になるのではないかと、今は勝手に想像してしまいます。

諸事情で監督第2作『欲動』(14)のほうが先に劇場公開された杉野希妃監督ではありますが、監督デビュー作『マンガ肉と僕』には彼女独自の資質が、より初々しく、はちきれんばかりに開花していることを体感できることでしょう。

■「キネマニア共和国」の連載をもっと読みたい方は、こちら

 (文:増當竜也)

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