映画コラム

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2016年03月09日

『マジカル・ガール』レビュー、タイトルからは想像もできない、観客の予想を裏切りまくる傑作!

『マジカル・ガール』レビュー、タイトルからは想像もできない、観客の予想を裏切りまくる傑作!

3月12日(土)公開の映画『マジカル・ガール』を紹介します。



Una produccion de Aqui y Alli Films, Espana. Todos los derechos reservados (C)


これがもう、タイトルからは想像もできない、観客の予想を裏切りまくる傑作でした。ひとまず、あらすじを読んでみてください。
白血病で余命わずかな少女アリシアは、日本のアニメ『魔法少女ユキコ』の大ファンだった。父のルイスは、失業中であるのにもかかわらず、アリシアに高額な1点もののコスチュームを購入することを決意する。そのルイスの行為は、やがて心に闇を抱える女性バルバラと、訳ありの元教師ダミアンを巻き込んでいく……。

これだけだと、父親が溺愛する娘のために、夢を叶えててあげようとするやさしい物語かと思うかもしれませんが……実際に映画を観てみると、ぜんぜん違いました。端的に言えば、ものすごくエグい話なのです。

1.タイトルは魔法少女が「なんでも叶えてくれること」を皮肉っている?


世間的な魔法少女のイメージといえば、『ひみつのアッコちゃん』のように誰にでも変身ができたり、『魔女の宅急便』のように空を飛べたりと、女の子の願いを叶えてくれる、というものであると思います。

しかし、本作『マジカル・ガール』は現代劇であり実写映画であり非ファンタジー作品。“本物の魔法”なんてちっとも登場しません。それどころか、“残酷な現実”をこれでもかと見せつけてくれる作品になっています。

その残酷な現実とは、ヒロインである娘が白血病で余命いくばくもない、ということだけではありません。その娘の願いを発端としてつぎつぎと悲劇が起こるという、夢いっぱいな魔法少女ものの反対方向を突っ走っているのです。

2.『魔法少女まどか☆マギカ』っぽい作品?


『魔法少女まどか☆マギカ』という作品をご存知でしょうか。これはかわいい絵柄にもかかわらず、魔法少女が死ぬ、血まみれになる、残酷な運命に巻き込まれていくというエグめの作風になっており、アニメファンから絶大な人気を得ていました。

この作品には“キュゥべえ”というマスコットキャラが登場するのですが、コイツはかわいい見た目に反して、“なんでも願いを叶えてくれるが、それが裏目や惨劇になる”という悪魔のような存在になっています。

『マジカル・ガール』には、そんなキュゥべえにも似た“少女が魔法少女になったことをきっかけにして悲劇を起こす”キャラが3人も登場しています。

父のルイスは高額な魔法少女の衣装を買うために◯◯をして、人妻のバルバラは◯◯のために◯◯をせざるを得なくなって、元教師ダミアンはせっかく◯◯だったのに、ある事件のせいで◯◯を余儀なくされてと……。誰かが願いを叶えるために、誰かが不幸になっていくのです。

「◯◯」の部分はネタバレになるので書けませんが、ぜひ観てみて確認してください。人によっては、『魔法少女まどか☆マギカ』以上に気分が落ち込んでしまうかもしれません。

3.愛情はときには怖い


本作を象徴するようなシーンをひとつあげます。12歳のアリシアは、父のルイスに「タバコが吸いたい」、「お酒が飲みたい」と頼むのですが、ルイスは困った顔をしながらも、あっさりと彼女にタバコとお酒を与えてしまうのです。親としては間違っていますが、アリシアはもうすぐ死んでしまうのですから、その頼みは残らず聞いてやりたい、というルイスの気持ちもわかります。

ここでは、ルイスが“娘のためにならなんでもしてしまう”こともわかります。それは、アリシアが書いたノートにあった「魔法少女の衣装を着たい」という願いを、たとえ失業中でお金がなくても叶えようとするという、強い想いへと繋がっていきます。

本来、“大切な人の願いを叶えてあげたい”という愛情は誰かを幸せにするものです。だけど、本作『マジカル・ガール』で一貫して描かれたのは「ただひとりの幸せが何よりも大事であれば、そのためにほかの人が不幸になってもいい」という間違った愛情です。それは愛情というよりも、ただのえこひいきと言ってもいいのかもしれません。

4.逆説的に幸せを教えてくれる作品


本作は好き嫌いが分かれる映画だと思います。“間”を長く取って登場人物の内面を描く作風であるため、人によってはテンポが悪いと感じるかもしれません。直接的なエログロ描写はほぼありませんが、PG12(12歳未満の方は保護者の助言・指導が必要)指定が納得できる残酷性を持っています。

しかし、それらは作品に必要なものです。“間”の長さからはさまざまな葛藤と苦しみがみえますし、残酷性は逆説的に“幸せなこと”を教えてくれるのですから。連鎖的に悲劇が起き、みんなが苦しむというエグい物語なのですが、それを反面教師として正しい愛情の与えかたや、多くの人を幸せにするにはどうすればいいか、ということも考えられるのです。

ぜひ、鑑賞する際は、細かなセリフや出来事にも注目してください。とくに、オープニングでの少女と教師のやりとりをじっくりと観察して、覚えておくといいでしょう。

『マジカル・ガール』はヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAで3月12日(土)より公開、その後も全国で上映されます。

 



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(文:ヒナタカ)

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