漫画原作もののお手本となる映画『暗殺教室 卒業編』
最近の日本映画界はマンガ原作ものの作品がブームになって久しいものがありますが、特にこの春は多数の漫画原作ものが発表されています。
その中には出来のいいものもあればそうでないものもあれば、また人によっても感想はそれぞれではあるでしょうが、昨年の春公開されて話題を集めた『暗殺教室』の続きを描いた完結編『暗殺教室 卒業編』は……
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街~vol.119》
(C)2016 フジテレビジョン 集英社 ジェイ・ストーム 東宝 ROBOT (C)松井優征/集英社
私の中では先に紹介した『ちはやふる』と並ぶ、漫画を原作にした映画のお手本のように思えます!
連載中の漫画を原作に映画化する際の
さまざまな課題を見事にクリア
『暗殺教室』は松井優征の人気同名コミックを原作に、1年後の春に地球を破壊するとされる謎の脅威的生命体が、何と自らの希望で中学校3年生の教師殺(ころ)せんせーとなり、落ちこぼれ教室E組の生徒たちに暗殺をうながすという、何とも奇想天外かつ物騒な設定の中から、不思議なまでに学園ものならではの師弟関係の絆などを醸し出していく快作でしたが、今回の『卒業編』は文字通り、3年E組の生徒たちと殺せんせーとのその後の顛末が描かれます。
週刊少年ジャンプに連載されていた本作の原作は、ちょうど今週発売された16号で完結したばかりで、今回の映画化はコミック15巻のあたりからその最終回までを基に構成されています。
漫画原作を映画化する場合、膨大な長さのものをどこまで描くか、既に画として提示されている二次元のキャラクターをどう3次元の生身の人間に演じさせるか、また連載中のものはどのように結末をつけるかなど、さまざまな課題が山積ではありますが、『暗殺教室 卒業編』の場合、原作者が早々と漫画最終回までのプロットを映画製作サイドに提出し、原作終了と映画の公開のタイミングを合わせつつ(さらには現在放送中のTVアニメ・シリーズの構成なども考慮しながら)、その上で原作の諸要素を取捨選択していきながら、およそ2時間の映画版を構築していったことが、原作ファンならすこぶる理解できることでしょう。
かつての日本映画界では、漫画原作ものはどちらかというと作る側からも見る側からも見下される傾向があり、中には「漫画が映画よりも面白いなんてことがあってたまるか」と豪語し、とある漫画を原作にしつつ、その中身をまったく無視したオリジナルとして作り上げた巨匠監督もいました。
また、やはり40年以上前に漫画原作ものを手掛けた巨匠監督に当時のことを聞いたら「二次元の漫画を三次元の映画に変換させるセンスが、当時の映画人にはなかった。でも生まれたときから漫画やアニメに親しんできた今の若い映画人たちには、そのセンスがちゃんと備わっているから、面白いものが作れている」と語ってくれたことがあります。
本作の監督・羽住英一郎は『海猿』シリーズなど漫画原作ものを多く手掛けてきていますが、確かに二次元を三次元に変換させる作業に秀でた監督ではあるのでしょう。
また彼の本質は『おっぱいバレー』のように少し捻った学園集団劇で発揮されているような気がしていましたが、『暗殺教室』2部作はその証左となっているようにも思えます。
それぞれの役を自分のものにし得た
キャストの魅力
漫画原作ものの場合、漫画のイメージに即したキャスティングがなされないとファンからのバッシングを受けやすいというリスクがあり、実際『暗殺教室』でも前作は「誰々のイメージが違う」という声も多々ありました。しかし今回は演じる側それぞれが自分の役をきちんと把握し、取り込みながら臨んでいることで違和感のないものになっているのも良き特徴ではあります。
今回はまず生徒のひとり茅野カエデが突然殺せんせーに襲い掛かりますが、演じる山本舞香は昨年『Zアイランド』でもゾンビ相手にハード・アクションを披露しているだけあって、今回もワイヤーワークも果敢にこなしながらのダイナミックなアクション演技を披露してくれています。
この後、ついに殺せんせーの正体が明かされますが、そこで繰り広げられる殺せんせーの声を担う二宮和也と、彼の恩人でもある豊村あぐり役の桐谷美玲の悲恋劇(?)は、原作とイメージがかなり違うにも拘らず、そのスピリットを見事に受け継いだものになっていることに感心しました(説明台詞などが過多なのは、映画としてちょっと残念ではありましたが)。
以後も山田涼介ら菅田将暉ら生徒役の若手俳優たちの魅力も前作より巧みに引き出されていき、クライマックスのバトル・シーンはそのスペキタクル性も加味されながら、子どもたちの大人への反抗といったテイストが実によく描出されています。
また、今回はビッチ先生役の知英が儲け役で、前作では正直原作とかなりイメージが違うかなと思っていたのですが、彼女こそ今回は役を自分のものとし、そのクライマックスでは見事なまでにビッチなお色気と存在感を披露してくれていました。
やはりシリーズというものは、役者をキャラクターに成長させてくれる利点があるようです。
こういった流れの中、殺せんせーと生徒たちの関係性が、うるわしいまでの師弟関係の絆として感動的に昇華されていきます。
“暗殺”という言葉の響きには一見物騒極まりないものがありますが、その実こういったエキセントリックな要素を用いつつも人生の王道的感動をもたらす少年ジャンプ・スピリットは実写映画化されても俄然健在なのでした。
正直、これで終わってしまうのが惜しい。まだ描かれていない原作ネタを基にして、スピンオフ的なものを作ってもらいたいくらい、実に心地よい感動をもたらしてくれる作品であり、今後の漫画原作ものの一つのお手本となるであろう快作です。
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(文:増當竜也)
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