映画コラム

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2016年04月04日

君は知っているか?幻の映画『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』

君は知っているか?幻の映画『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』

4月からTOKYO MXなどにて放送が開始されるTVアニメ新シリーズ「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない」。2014年~2015年にかけて放送された「スターダストクルセイダース」に続いて、ファンからの人気が高い第4部「ダイヤモンドは砕けない」が初めてアニメ化されることに!前シリーズとはうって変わって、日本を舞台にありふれた日常の中で描かれるサスペンスとスタンドバトルが、どのように映像化されるか今期注目の1作。


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画像は「ジョジョの奇妙な冒険スターダストクルセイダース」

 

この「ジョジョ」TVアニメシリーズの放送が開始されたのは2012年。

では、その5年前の2007年に「ジョジョの奇妙な冒険」20周年を記念してアニメ映画が公開されたことはご存じだろうか?タイトルは、『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』。

今では見られない、唯一の劇場版「ジョジョ」


実はこの映画『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』は、2016年の現在に至るまでDVD/ブルーレイなどのパッケージソフト化がされていない。今見ようと思ってももう見ることが出来ない、幻の作品と化しているのである。

私は2007年2月17日の公開初日に劇場でこの作品を見た。初日ということもあって、結構劇場も賑わっていたのを記憶している。まさか、この時の劇場体験がここまで貴重なものになるとは当時は思いもしなかったが、本稿ではこの映画『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』がどのような作品だったか、振り返ってみたいと思う。

映画『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』あらすじ


「ジョジョ」といえばスタンドバトルが有名だが、『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』はその名の通り、全ての始まりとなる第1部「ファントムブラッド」を劇場アニメ化した作品だ。シリーズ全編に渡って続く、ジョースター家=ジョジョとディオとの因縁のはじまりを描く。

19世紀末のイギリス。英国貴族の子供ジョナサン・ジョースターの家に、ディオ・ブランドーが養子としてやってくる。ディオはジョナサンに度重なる嫌がらせを行い、友人や恋人、そして愛犬までも取り上げようとする。ついにジョナサンはディオと殴り合いのケンカをするが、その最中に「石仮面」と呼ばれる謎の遺物がケンカで飛び散った血に反応した。

時は流れ、成長し青年となった2人。父の病の原因が、ディオが混ぜている毒薬にあると知ったジョナサンは彼を追い詰める。後がなくなったディオは、「石仮面」の力で吸血鬼へと変貌した!人間を越えた圧倒的な力を持ってしまったディオ。ジョナサンは大きな犠牲を払いながらも、なんとかディオを撃退する。

傷を治療しているジョナサンの元に、ツェペリという男がやってくる。彼はジョナサンに、吸血鬼への対抗手段「波紋」を教える。さらにディオからの使者が、ディオの健在を伝えに来た。
ジョナサンとツェペリは、ディオとの最終決戦に赴く!時代を越えてよみがえった「波紋」と「石仮面」の戦い、そしてジョナサンとディオの因縁の対決の行方は…

映画ならではのダイナミックな表現で描かれる、はじまりの物語


本作は、当時では初の映像化となる「ジョジョ」第1部を、アニメならでは、映画ならではのダイナミックな表現で描いた点が印象に残る作品だ。
スケール感のある情景の中、数々のバトルシーンが繰り広げられるのは劇場アニメらしい迫力が楽しめるし、特に波紋エネルギーの描写は動画の醍醐味を活かした魅力ある描き方。

また、ディオがジョナサンへの嫌がらせのために、ジョナサンと相思相愛のエリナに無理矢理キスをするシーン。原作マンガでは、「ズキュウウゥン」という独特の擬音で表現されているところを、なんと映画版ではキスする二人の周囲をバレットタイムのごとくカメラがグルグル周る!

動画にしか出来ない表現で解釈されたこのシーンからは、「ジョジョ」を映像化する気合のようなものを感じた…

スピードワゴンはクールに去った?


しかし、本作はせっかくの魅力溢れる原作を活かしきれてはいない。確かに、「ジョジョ」程の多くのファンを持つ有名マンガを映画の尺に無理なくまとめることは、実に困難な作業であるとは思うが、「それにしても…」という点が多々あったのだ。

まず、「ジョジョ」の代名詞といえる独特のセリフ回しはごく普通の言い方に改変され、印象的なサブキャラもカット。

なんと原作ではジョナサンと共に戦い、第2部以降もジョースター家を様々な形で支え続けるスピードワゴンも一切登場しないのだ!「スピードワゴンはクールに去るぜ」というセリフが有名なキャラだが、映画では登場する前にクールに去ってしまったらしい…クール過ぎるよ!

しかし、当時「あま~い!」のネタでおなじみだったお笑いコンビの「スピードワゴン」は声優として出演しているという、何とも珍妙な事態に(ダリオ・ブランドー役:小沢一敬、ワンチェン役:井戸田潤、コンビ名は「ジョジョ」が由来)!

参考リンク:http://www.cinematopics.com/cinema/c_report/index3.php?number=2445

中ボスクラスの敵が、ザコキャラ扱いに!


さらに、中盤のバトルの見せ場であり、中ボスとも言えるほどの悪役であるタルカス、ブラフォードとの戦いもばっさりカット。いや、厳密にはこの2人は劇中に登場しているのだが、ジョナサンとツェペリに押し寄せる屍生人(ゾンビ)達の中の一人で、あっという間にやられてしまうザコキャラ扱い!

映画のパンフレットには割としっかりとした設定画が載っていたのに、「あれ、今のタルカスとブラフォードだよな…」と言うくらい、数カットしか出て来ない扱いには驚いた!

人気原作の映画化がはまりやすいジレンマ


90分という、比較的短い映画の尺に合うようにアレンジされた脚本も、どのキャラも描き方が浅いので感情移入がしづらくなっている。その上、物語を理解する上で重要な設定なども伝わりにくくなっており、原作を知らないと戦いの展開がわかりにくい部分がある。

そもそも、上映時間90分で単行本5冊分ってきびしくないか?!

こうした改変によって勇気や努力、人間の持つ無限の可能性といった、原作が持つ「人間賛歌」という大きなテーマも削がれてしまっているのが痛い。結果として原作ファンは満足できず、初めて「ジョジョ」に触れた層には理解がしづらいという中途半端な出来に。

劇場公開作品にした以上は、きちんと資金を回収できるように間口を広げなければならないので、コアなファンだけをターゲットにしてはいけないのはわかる。しかし、作品が持つ元々の魅力を押し殺してまで一般層に迎合してしまうのは、結果的には誰も得をしないのではないだろうか。

幻の劇場版「ジョジョ」が残した、「未来への遺産」


その点、この映画の5年後に放送されたTVアニメシリーズは、最初はセリフ数の多さや独特の色彩感覚に驚いたものの、1話30分のフォーマットは「ジョジョ」を語るには映画よりもふさわしく、原作の良いところを抽出してアニメならではの魅力を加えて昇華させた作品になっていた。

TVアニメシリーズの制作陣は、この映画『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』の存在もやはり意識していたのではないだろうか。そう考えると、ある意味では本作以前に制作されたOVA版「ジョジョの奇妙な冒険」(1993年~1994年、2000年~2002年)と、現在のTVアニメシリーズの間のミッシングリンクのような役割を持つ作品が、この映画なのかも知れない。

色々と残念だった幻の劇場版「ジョジョ」の存在が、もしもTVアニメシリーズの成功に影響を及ぼしていたとしたら、「ジョジョ」のテーマである「受け継ぐこと」にも通じるものを感じる…

グレートですよ!こいつはァ!

(文:藤井隆史)

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