映画コラム

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2016年05月13日

私と映画Vol.3「株式会社ヤン 渡邊健太郎社長支えるストーリー」[PR]

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ヤンは、大企業のWEBプロモーションを担当するITベンチャーだ。動画を制作してSNSで拡散するほか、eコマースサイトを運営して商品を販売するなど、企業の顧客向けコミュニケーションをデザインする。渡邊社長は、スタジオジブリ作品や、洋画の名作をあげ「コミュニケーションとは何か」を語り始めた。

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渡邊健太郎社長。東京・恵比寿にあるヤンのオフィスにて。


『伝える』作業はドラマティックでなければいけない



誰かに何かを「伝えたい!」と思ったことがある方には共感していただけると思うのですが……自分の思いって、なかなか語り尽くせませんよね。

でも逆に、自分が何かを伝えられる時は、興味がない話を長々されても苦痛なだけ。また「おいしいよ」といったありきたりな言葉で説明されて「おいしいのか!」と納得はできません。どのようなメッセージも、ドラマチックでなければ人は納得せず、言いたいことは伝わらないのです。

我々がつくっているアプリの広告や、商品のランディングページも同様です。WEB制作者はいつも、思いを伝えるため頭を悩ませています。たとえば「BEAFの法則」。ネットの販売ページには、Benefit(購入するメリット)、Evidence(メリットがある証拠)、Advantage(競合優位性)、Feature(さまざまな特徴)の4要素を順番に並べていくのが一番いい、その頭文字をとって「BEAF」。私もこういった法則をいくつも頭に入れ、ページをつくり、壊し、また作り直し……と繰り返します。なぜって、eコマースは、自分たちのメッセージを伝える「作品」だからです。

そんなバックグラウンドがあるからか、私は宮崎駿さん率いる『スタジオジブリ』の作品が好きです。

ジブリ作品には、必ず何かの理念があるはず。でも、彼らは言葉でわかりやすく伝えようとはしない。

なのに、僕らはジブリ作品からメッセージを受け取り、感動するんです。いったい、なぜなのだろう……。私はいつも、そう考え込んでしまうのです。

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株式会社ヤンのWebサイト。左上、ロゴも個性的。


千尋の成長――テーマは直接語らない



まず、ジブリの作品を見返すと、彼らは「わからせよう」「説明しよう」としていません。勧善懲悪のようなわかりやすいストーリーがなく、時には見ている側を困惑させます。

ところが、世界観は伝わってくるのです。

人はわざわざ「こういうことが起きたんですよ」と説明されても頭で「理解」するだけで、「感動」はしません。一方、ジブリは登場人物の表情・仕草や、「間」や、音楽を駆使し、見ている側に、世界観を伝えるのです。

たとえば『千と千尋の神隠し』。千尋は神隠しにあったあと、次第に成長していきます。ただし、彼女が様々な妖怪と交わり、時に反発し、時には共感し、世界を受け入れ、それでも自分の感じ方を大切にしようとした……といった経緯はいちいち説明されません。しかし、一瞬で周囲のものをくさらせる妖怪・オクサレ様を洗ってあげる姿や、湯婆婆(ゆばあば)の双子の姉、銭婆(ぜにーば)のもとへお使いに行くシーンなどを見るうち、千尋が健気に成長しているとわかる。そして、周囲に戸惑いながらも同調はせず、人間に生まれた自分の正しさをしっかり心に秘めていることも、他のシーンから伝わってくるんです。

たとえば『となりのトトロ』にも同じようなシーンがあります。夜、さつきとメイが、トトロたちと庭に木の実をまき、樹を育てた後のことです。トトロがコマをまわして飛び乗り、みんなで空を旅します。なぜそうなったか、説明はありません。でも、僕はあの瞬間、なぜか涙が出る。何度見ても涙が出ます。自由や、愛情や、夢が詰まっているような気がするんです。

実は私、高校生の時に演劇にハマり、大学生の時には自分で脚本や演出をしていたんです。その時のお手本がジブリでした。

私も、あんな形でものを伝えたかったんです。たとえば映画を観ていて、作り手の意図がはっきりと見えると、「はい、ここで泣いて下さい!」と言われたような気がして、逆に「泣いてたまるか」と思ってしまいます。それと同じように、人は説明されても感動はしない。人の健気さも、この世界の不思議さも、商品の良さも、なにも分かち合えないのです。
実は、eコマースも同じです。「わかってほしい」とドアをドンドンとノックされ、情報を押し込まれても、人は不愉快に思うだけ。コミュニケーションは、受け取る側がドアのスキマから中をのぞき、興味があったら入ってくるもの。そして、感想も、時にはストーリーさえも、受け取る側にゆだねるべきなのです。
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演劇に没頭していた、大学生時代の渡邊社長(写真右から3人目)

スコットランドのくず野郎の「世界観」



では、いかにしてそれをつくるかと言えば、いったんつくって、いろんなものをそぎ落とし、必要なものを強調し、時には壊して作り直し……と、ひたすらに思考の量を積み重ねるしかない。圧倒的な思いと熱量がなければ、つくりこめないのです。

実は、ジブリ作品意外にも、そんな映画はいくつもあります。

たとえば『トレインスポッティング』。スコットランドのくず野郎を描いた作品なのですが、演出が巧みで、どこかに人生のはかなさを感じます。登場人物は、ヘロイン中毒に陥った若者たち。ある者は今度こそ麻薬をやめようと決意するものの、やることと言えばディスコでナンパ……ある者は注射針からエイズに感染し、ある者は社会復帰しようとロンドンで就職を決めたら、昔の仲間――逃走中の強盗犯やポン引きなどが押しかけてきて、足を引っ張られたり……。

そこに、勧善懲悪や大恋愛のストーリーがあるわけではないのです。でも、いつしか引き込まれて主人公の人生を追体験してしまう。

あとは『ブルースブラザーズ』も好きです。この作品は、作り手の「熱量」がすごい。登場するのは、現在、ブルースやR&B、ソウルミュージックの分野でレジェンドになっている超豪華アーティストばかり。「ジェームス・ブラウンがここでライブしちゃうの?」とか「このシーンでわざわざカークラッシュさせるか?」と、作り込む側の執念を感じます。

僕も、WEB動画やeコマースのランディングページを同じ気持ちでつくっています。映画や演劇でなく、ビジネスの世界で、私の感性を活かしたかったからです。

何度も見て、なおします。WEBページを公開した後も、他社のECサイトと見比べるなど何回も何回も見ます。そして、ユーザーの反応が想定したものと違えば。何度でもアップデートする。労働集約的で、大変な作業ですよ。でも――。

考えた量は、絶対に裏切らない。僕はそれを、様々な映画から学んだんです。


【プロフィール】
渡邊健太郎

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株式会社ヤン代表取締役社長。1980年東京都生まれ。 慶應義塾大学商学部卒業後、大日本印刷株式会社の営業を経て、社内ベンチャーでEC運用、モバイルキャンペーンの立ち上げなどに携わる。2010年8月に独立し、ヤンを設立。EC事業、Webマーケティング事業、制作事業を立ち上げる。

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