「野火」を見ようとしたのは絶賛の口コミ以外に理由があった
ストリーミングで観られる映画を毎週紹介する“金曜映画ナビ”。本日は昨日より配信が開始した塚本晋也監督「野火」。そして同監督の1989年に公開された「鉄男」をご紹介します。
(C)SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER
「野火」を見ようと思ったのは口コミだけではなかった
2015年7月25日に公開された「野火」。戦後70周年でもあったこの年は原田眞人監督の「日本のいちばん長い日」が公開されたり、荒井晴彦監督の「この国の空」が公開されたりしました。
日本で日々公開されている全ての映画を見ることは不可能なので、私も「野火」を含めた3作をすぐにチェックするということはありませんでした。
「野火」公開から1ヶ月ほど経った8月下旬、「日本のいちばん長い日」の話を歳上の方としている際に「野火」を激推しされました。
「本当にこの映画は見た方が良い。戦争の映画が苦手な人には難しいところもあるけど、君は大丈夫だからとにかく見てほしい。」
そう言われましたが、映画のフィールドで活動をしていると「あれ見なよ!」「これ見なよ!」は日常茶飯事です。
しかし「野火」は結果的に見ることになりました。それは熱烈な口コミだけでなく塚本晋也監督自身の言葉に感銘を受けたのは大きいかもしれません。
「30歳上の僕の世代でも、僕が生まれた時は高度成長の真っ只中で、戦争の面影はまったくなかったんで、僕も全く戦争のことよくわかりませんでした。『野火』を作るって思ってからもよほど意識的に勉強しないと戦争が実際にどういう時系列でどうなったかというのは全然わかんない」
「実は自分が演じるというのは最後の手段だったんで、これは自分が出ないで作りたかったんですけど、何十年も考えていた企画だったんで、一心同体みたいになっていた。意識の底にある『野火』への想いが、作り手と演じ手として一心同体にした」
「ひたすら原作に近寄りたいと思っただけだった。大自然のものすごい美しさと、人間だけが泥んこになっていく、自分は人間はむしろちっぽけな存在として、自然との対比を描きたいと思った」
引用:http://cinema.ne.jp/news/nobi2015081608/2/
などなど、細かい内容ではなく圧倒的に溢れ出る塚本晋也監督のこの映画への思いを感じました。
そして見た「野火」は、とても苦しい描写も描かれながらも、今この世界に平和に生きられることを考える、考えざるを得ない圧倒的な力を持った作品に仕上がっていました。
物資の途絶えた南方戦線、暑さと飢餓に襲われる過酷な状況。いや、過酷という言葉では表現しきれないその時の実態が描かれます。ここにはお涙頂戴の感動的なドラマはありません。ただただ強烈なエピソードの描写で「戦争とはこんなにも残虐なのだな」と感じさせられます。
そんな作品だからこそ、今平和に生きられる時代だからこそ、是非この作品をご覧になって頂きたいと思います。
[この作品を今すぐ観られるサービスはこちら](2016年5月13日現在配信中)
「野火」| 2014年 | 日本 | 87分 | (C) 2014 SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER | 監督:塚本晋也 | 塚本晋也/リリー・フランキー/中村達也/森優作 |
映画の中に出てきた映画として「鉄男」を知った
1989年に公開された「鉄男」。当時私は3歳なのでこの映画をリアルタイムでは鑑賞しませんでした。
(C)SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER
そもそも初めて作品の名前を知ったのが2012年に公開された吉田大八監督作品「桐島、部活やめるってよ」の中ででした。映画の中で映画部の前田が鑑賞していたのが「鉄男」でした。なかなか強烈な出会いだったのを今でも鮮明に覚えています。
「野火」を見た後だとこの映画の持つ圧倒的なパワーに改めて納得させられます。正直「鉄男」を塚本晋也監督作品とも知らずに(意識せずに)鑑賞した初見は「何じゃこの凄まじい描写の映画は!」という感想でした。
そもそも「桐島、部活やめるってよ」でも一瞬映った股間がドリルになって襲い掛かかるシーンは、良い印象の方も悪い印象の方も「何じゃこりゃ!」になるものです。それくらい凄まじい映画です。
「野火」同様に作品の映像が持つ圧倒的なパワーにやられてしまったわけです。その意味で全く異なる題材、ストーリーでありながら塚本晋也監督作品の持つパワー、魅力の共通項が見えました。
こちらはジャンル的にはホラーになりますが、上映時間が67分と短かったりで見やすい映画なのでこの週末に「野火」と合わせてチェックしてみてはいかがでしょうか。
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鉄男 ニューHDマスター| 1989年 | 日本 | 67分 | (C) 1989 SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER | 監督:塚本晋也 | 田口トモロヲ/藤原京/叶岡伸/塚本晋也/六平直政/石橋蓮司 |
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(文:柳下修平)
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