映画コラム

REGULAR

2016年06月11日

植物図鑑で運命の恋、ひろいませんか?草萌ゆる、恋が芽吹きて、音色美し。

植物図鑑で運命の恋、ひろいませんか?草萌ゆる、恋が芽吹きて、音色美し。

■「映画音楽の世界」

みなさん、こんにちは。
先週末より、『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』の公開が始まりました。

植物図鑑 運命の恋、ひろいました

(C)2016「植物図鑑」製作委員会


原作は『図書館戦争』や『阪急電車』など映像化作品も多い有川浩さんの同名小説。人気イラストレーター、カスヤ ナガトさんのカバーイラストも魅力的で手に取ってみた方も多いのではないでしょうか。

そんなベストセラー小説を、EXILEの岩田剛典さんと高畑充希さん主演で映画化した本作。
それはもう、大変胸キュンな作品でありました。

今回の「映画音楽の世界」では、そんな『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』をご紹介したいと思います。

原作の力と高畑充希さんが見せる自然体の魅力


今回の作品、原作小説を既に読んでいるのでストーリーも展開もわかっている、はずなのに終始胸の高まりが抑えられませんでした。行き倒れの青年、樹をOLのさやかが「ひろった」ことから始まる同居生活。もうその時点で「そんなのアリですか」とツッコミを入れたくもなりますが、アリなのです。この時点で現実を逸脱しながら、それでいて恋愛ものの王道パターンをしっかりと押さえています。

そのパターンを踏まえつつ、『植物図鑑』という物語はただの「恋愛もの」では終わらないのが魅力の一つ。序盤、樹の振る舞った有り合わせのものだけを使った手料理に感動し同居を提案するさやかですが、そこには「誰かの作った手料理の温もり」という、社会生活のために一人で暮らす女性の心情をストレートに描いた部分が「わかるわかる」と、観客を巧みに現実的な物語へと誘導していきます。

そして、幼い頃から野生の草花が好きだという樹に連れ出されることで、さやかの中で次第に樹に対する意識の変化が生まれます。このあたりの描き込みも上手いんですよね。近所であるにも関わらずたくさんの野草が自生する川縁の存在を知らなかったさやか。そして野草を使った料理で変化していくさやかの食生活。樹という存在を通して、さやかは知れず成長していく、一人の女性の自立を描いた作品にもなっているのです。

もちろん、そこは有川浩さんのテクニック、恋愛要素もしっかりと現代の女性に投影されています。出生も、苗字さえも知らない同居人。いつしかさやかの中で樹はなにものにも代えがたい存在となり、嫉妬心や彼に対する愛情に気づいていきます。そして──。

そんなさやかを、等身大の演技で魅せるのが女優・高畑充希さん。さやかという原作のキャラクターをただそのままに演じてしまえばそれだけになってしまうところを、樹を見つめる瞳、そこからあふれ落ちる涙、口をついて出る台詞が自然体そのもので、もはや素なのか演技なのか判らないくらいのナチュラルな存在感が、映画をぐっと現実感に引き寄せています。そしてそのナチュラルな演技が、やがて迎えるラストでありありと活きてくるのだから、まさに絶妙なキャスティングだったと思います。

植物図鑑 運命の恋、ひろいました

(C)2016「植物図鑑」製作委員会



『植物図鑑』を彩る音楽


本作の音楽を担当したのは、ピアニストの羽毛田丈文(はけた たけふみ)さん。オープニングから優しげなピアノの音色で彩りを添え、劇中でも過度に誇張することなく物語に寄り添い続けながら映画をサポートしています。

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さやかと樹の共同生活をアコースティックなナンバーで表現していますが、二人の瑞々しい空間に奏でられる音楽はどの曲も楽器一つ一つの音色が丁寧に紡がれていて、羽毛田さんの映画とさやか、樹に対する想いがしっかりと伝わってくる部分ではないでしょうか。いかにも、な音楽的な恋愛映画の展開は控え、より二人の関係性にすっと入り込むような、「大人の音楽」に仕上がっていると思います。

余談ではありますが、個人的には米映画の『P.S.アイラブユー』の音楽が好きな方には今回の劇伴はより耳に馴染みやすいのでは。ピアノやギター、フィドルの醸し出す雰囲気に、物語は違えども音楽から通じる部分があるような気がします。

主題歌はEXILEのダンスサポートとしても知られる女性ユニットFlowerの[やさしさで溢れるように]。

タイトルから解るように2009年に発表されたJUJUの同名曲のカバーですが、弦楽器メインのオーケストラをバックにした、見事に映画の世界観ともリンクしたバラードになっています。先日Flowerによるパフォーマンスを見る機会に恵まれましたが、ただ切ないだけではない、力強いダンスパフォーマンスがより印象的なイメージの主題歌として仕上がっています。


まとめ


繰り返しになりますが、本作の魅力は原作小説同様「ただの恋愛もの」というだけではありません。予告編にあるように確かに座席に座りながら「くぅー!」と身悶えしたくなるような展開もありますが、そのジャンルが苦手でスルーを決め込んでしまっているのならそれはもったいない! 野草、料理、二人で過ごすことを通して描かれる生きる喜び(と、ビターな感情)を体感出来る一本となっています。

ここまで読んでいただき、ありがとう ございました。

■「映画音楽の世界」の連載をもっと読みたい方は、こちら

(文:葦見川和哉)

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