映画コラム
若いアモーレ二人とファンキーな一夜のゲス不倫!これぞキアヌ版「しくじり先生」!
若いアモーレ二人とファンキーな一夜のゲス不倫!これぞキアヌ版「しくじり先生」!
毎回過激な描写の問題作を見せてくれる、イーライ・ロス監督の最新作が、ついに先日劇場公開された。しかも今回は、男達に絶大な信用を誇るキアヌ・リーブスを主演に迎えたということで、公開前から早くも話題沸騰となっていたのが、この映画「ノック・ノック」だ。
(C)2014 Camp Grey Productions LLC
平凡で幸せな家庭が、一瞬の過ちで崩壊するという、現実では決して味わいたくない世界が、全編に展開するこの映画。実はそこには、俺たちのキアヌから全男子に対する、「お前ら、俺のようになるなよ!」という、ありがたいメッセージが込められていたのだった!
ストーリー
愛する妻と二人の子供に恵まれ、幸せな家庭生活を送る建築家のエヴァン(キアヌ・リーブス)。家族が旅行に出かけた留守に、深夜一人で仕事をしていると、ドアをノックする音が聞こえることに気付く。こんな深夜に一体誰が…。
エヴァンは不審に思いながらもドアを開けると、そこには雨でずぶ濡れになった二人の美女が立ち尽くしていた。ジェネシス(ロレンツァ・イッツォ)、ベル(アナ・デ・アルマス)と名乗る二人。道に迷ってしまった彼女達にタクシーを呼んで、車が来るまで二人を家に招き入れたエヴァンだったが、まさかそれが地獄への入り口になろうとは・・・。
この映画のストーリーの一部を要約すると、こうなる
[平凡で退屈な毎日を送る僕の元に、ある日偶然可愛い女の子がやって来る。なぜか彼女に気に入られた僕に、その子は積極的に迫って来てさあ大変!その日から始まる僕のバラ色のハーレム生活!]
うーん、こうして書くと、本当にハーレム物のアニメによくある基本設定にしか聞こえないのだが、でも確かに、これこそ全男子にとって、憧れの設定なのは間違いない。しかし、本作で描かれるのは、それが現実に起こってしまったら、いったいどうなるのか?この映画を観た後でも、果たして不倫や火遊びをしたいと思えるのか?という点だ。
そう、本作こそ紛れも無く全男子にとって、己の「オス度」を計るための「結婚満足度検定映画」なのだ!
思えば、昨年公開された「ジョン・ウイック」でも、幸せな家庭生活を侵入者に一瞬で壊されたキアヌ。ただ、「ジョン・ウィック」では、少なくとも最終的に相手を皆殺しにしてくれたので、観客はスッキリした気持ちで劇場を後にすることが出来た。ところが本作では、終始若い女の子二人にいいように弄ばれ、自分の男としての自己評価までも無残に打ち砕かれるという、我々男にとっては本当に悪夢としか言いようのない世界が展開するので、観た後のモヤモヤ感、劇場を出る時の後味の悪さは遥かに凄いものがある。。
スティーブン・キング原作の「キャリー」なみに、無残に天国から地獄に突き落とされたキアヌが、いっそのこと超能力とか銃器を乱射して反撃に回ったのなら、どんなに皆スッキリした顔で劇場を後にできただろう?しかし、本作ではそんな生易しいプレイは決して許されず、クリント・イーストウッドの「ガントレット」並みに、防戦一方の「耐えるキアヌ」を見るしかない。そう、本作で彼が見せる、今までにない位の情けないオヤジ姿!これこそが本作の魅力の一つだと言えるだろう。
キアヌだけじゃない?二人の女優にも大注目!
実は今回、キアヌの情けない姿以上に要注目なのが、凶悪な加害者を演じる二人の女優だ。
本作の脚本・監督を務めたイーライ・ロスの奥さんでもあるロレンツァ・イッツオと、2015年度の「世界で最も美しい顔」第9位に選ばれた、ブロンドのアナ・デ・アルマス。この二人の豊かな表情と演技力、そしてその眼差しに潜む狂気!これこそまさにキャスティングの勝利だと言えるだろう。
単なる狂気の加害者の枠には治まらないこの二人。そして、この二人に翻弄され、被虐と暴力の限りを尽くされる、我らが主人公キアヌ・リーブス!
そう、時に妖艶、時に狂暴となる二人の行動に対する、キアヌの抜群の受けの演技があってこそ、本作での「悪夢の様な緊迫感」に説得力が生まれているのだ。
彼女たちの、一見狂気ともとれる行動。これが単なる愉快犯ではなく、彼女達のセリフなどから、実は彼女たち自身も父親や家族から受けた虐待の犠牲者なのだ、という事が観客に提示される。ここがオリジナル版との大きな相違点なのだが、なぜこのような凶行を繰り返すのかが観客に伝えられることで、彼女達の抱える心の闇が次第に我々にも判ってくる展開は、さすがイーライ・ロス監督の演出力だと感じた。
しかし、本作で尋ねてくる女の子が、二人とも奥さんと同じラテン系である辺り、さすが信頼出来る男イーライ・ロス!やっぱり男にとって魅力的なタイプを良く判っている!と思わずにはいられなかった。つい、魔がさして・・・。というよりも、自分はまだまだイケてると思っていたオヤジが、遥かに年下の女の子二人に酷い目にあわされることで、年相応の本来の自分に気づく。
「自分がもはや、男として現役の舞台から退いた存在」だと知らされるのは、男にとっては文字通り「死刑宣告」にも等しい仕打ちであり、実際本作でのキアヌも、「ある意味殺された方がまだマシかも?」という程の社会的制裁を受ける。具体的にどれほどの仕打ちを受けるか、そこは是非劇場で確認して頂ければと思う。
観客へのサービスに徹する、本作で見せたキアヌ流プロレス魂!
いくら若くて魅力的な女の子に二人がかりで襲われたとはいえ、そこはあくまでも女性の力。大の男のキアヌが、二人にいいようにされるのは変だ!との意見が多いのも確かだ。しかし、それさえもある種の説得力を持って全て受け入れてみせた、そこはキアヌの「男の度量の深さ」とでも言おうか。
今回ちゃんとキアヌ側にも、肩に抱えた古傷=爆弾という弱点を設定していて、お約束通り女の子の方も、フォークでその弱点の肩を迷うことなく攻めてくるという展開は、まさに黒い呪術師ブッチャーそのもの!そう、これこそはまさにキアヌ流のプロレスなのだ!相手の攻撃を全て逃げることなく受け続けて、相手の能力を120%に見せて、最後に自分も目立つという、彼の高度な演技プランを見よ!
これほどまでに観客へのサービスに徹した、今回のキアヌの姿に拍手を送ることこそ、我々映画ファンの務めだと言えるに違いない。
実は、キアヌ版「しくじり先生」だった、「ノックノック」!
とにかく本作は、全編にわたってキアヌ・リーブスが自身を反面教師にして、「お前たち、俺のようになるなよ!」と、スクリーンの向こうから体を張って教えてくれるという、例えるなら「不倫ダメ、絶対」的啓蒙映画だと言える。そう、これこそまさにキアヌ・リーブス版「しくじり先生・俺みたいになるな!」なのだ!
男の持つ潜在的な「後ろめたさ」「背徳感」が具現化して襲い掛かって来るという点で、本作でスクリーンに展開する数々の恐怖は、男にとって非常にリアルに迫ってくるのだが、更に女性の方々向けの鑑賞ポイントを上げるのならば、「ふーん、男って常に自分の欲望と罪に怯えながら生きてる可愛そうな生き物なのね。」そんな考えで観て頂けると、きっと面白いのではないだろうか。
最後に
ホラー、バイオレンス、サスペンス、様々な要素を持つ本作だが、この映画を一言で例えるなら、「全既婚男性にとっての踏み絵映画」といったところだろうか。ラストで加害者側から明かされる一連の行為の理由からは、思わず白石晃士監督の「グロテスク」を思い出してしまった。1977年のオリジナル版に比べて、加害者側の動機など、かなり観客に判りやすく作られているのは、きっと現代風のアプローチなのだろう。
若い女の子の裸、激しい暴力とSEXシーン、それももちろん本作の見所なのだが、自身の不道徳な行いに対して、その結果として報いを受けるというのは、実はホラー映画の王道であり、一見アンモラルな内容の映画に見えながら、実はちゃんと道徳的な結末と教訓で終わるように出来ている。
そう、不倫撲滅用の矯正プログラムの一環として、そのために誰かが作ったんじゃないか、これ?と思えるような本作。これこそ、男の密かな憧れを見事に打ち砕く、逆説的教育映画だとも言えるだろう。
女性の方には、是非結婚式の前に本作を彼氏に見せて、その反応を確かめるのがオススメです。
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(文:滝口アキラ)
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