映画コラム

REGULAR

2016年08月11日

『秘密』の“わからない”は“おもしろい”!わからなかったことを教えます

『秘密』の“わからない”は“おもしろい”!わからなかったことを教えます


4.なぜ薪剛は“とっくり”みたいなシャツを着ているのか?


映画では説明されていないことに、薪剛(生田斗真)がシャツの下に、いつも“とっくり”のようなハイネックのシャツを着ていることがあります。

これは原作を読めばわかるのですが、MRI捜査では死者の脳が暴き見られてしまうため、薪は死んだと同時に脳も破壊されるよう、自身が脳を撃たなければ死なないように防弾チョッキを着こんでいます。つまり、ハイネックのシャツは、防弾チョッキをカモフラージュするための手段なのです(なお、貝沼の回想シーンでは、薪はハイネックのシャツを着ていなかったりします)。

そのほかでは、薪が急に倒れてしまうことについても説明がなかったですね。原作での薪は、盲目的に仕事をするあまり、自分を制御できずに倒れてしまうという描写があります。

5.絹子はなぜ遺骨をプールに撒いたのか?


劇中、犯人の絹子が父の遺骨を受け取ったものの、それをプールに撒いて、自身もプールに飛び込む、という描写があります。

これは原作にはないシーンなのですが、解釈しようとするのであれば、“絹子は(死んだ)父親と同一化したかった”ということなのでしょう。
この行動は、絹子の父からすれば“もっとも望んでいなかった”ことでしょう。このプールのシーンにより、ラストの展開に説得力を感じられるようになっています。

また、映画では絹子がなぜ全盲の少年を殺したのかという説明がありませんでした。これは、ぜひ原作を読んで確認してほしいので、秘密にしておきます。その“事実”に、きっと打ちのめされるでしょうから。

6. 橋本創さんによる美麗かつ、必然性のある美術も必見!


本作の美術担当は、『るろうに剣心』や『ライチ☆光クラブ』のほか、現在公開中の『HiGH&LOW THE MOVIE』も手がけた橋本創さん。その美術は単に美しいというだけなく、“この設定だからこうなった”という必然性にも満ちています。

例えば、捜査員たちがいる“第九”では、機械の多くが“配線むき出し”の状態になっています。この部署自体がまだ発足しても間もない、実験段階であることを表現したかったからでこそ、この配置になっているのだそうです。

また、死んだ人間の脳の記憶を映像化するMRIスキャナーは、原作ではビジュアルとしては登場していませんでした。映画の無機質で冷たいスキャナーの質感は、“凶悪犯の脳を覗き見た者は死んでしまう”という事実に説得力を持たせています。

その他、犯人の絹子の部屋には、蝶や昆虫の標本や、摘んだ花などを見ることができます。

この美術について橋本さんは「生と死を感じられる空間にしたかった」と語っています。標本や花は、絹子が“美しいものが朽ちていく(死んでいる)姿を眺めていた”という、生と死が隣合わせだった絹子の精神性を表しているのだそうです。

こうして美術だけでも、設定や人物像に奥行きがあることも魅力的なのです。ぜひ、こうした細かい小物なども、注意して見てみることをおすすめします。

7. 主題歌『Alive』の歌詞に見えるものとは


世界的大シンガー・Siaの『Alive』を主題歌に選んだことにも、確かな意義を感じられました(近年では『フィフス・ウェイブ』でも同じ主題歌が使われていました)。



その歌詞では「私は生きている(I'm alive)」と何度もくり返しており、どれだけ辛く苦しくとも“生きている”ことに意義を見出という、尊い精神性が大いに表れています。

本作で登場するMRI捜査は“死んだ人間の脳の記憶しか見られない”ため、生きている人間から得る情報が重要視されていない、とも取れます。

その一方で、生きている(生きていた)捜査員たちが理不尽な暴力や死に翻弄され、何よりも“生きること”が大切に描写されているという面もあります。
まさに、『Alive』の歌詞そのままのように……。

この歌詞は、作品全体を表現するだけでなく、薪剛や青木一行、恋人の鈴木(松坂桃李)を失った三好雪子(栗山千明)、はたまた犯人の絹子の気持ちを歌っているとも取れます。

更に、歌詞には“脳の奥深くで安らぎを見つけた”“他人の目で自分の人生を見ていた”という、MRI捜査で見つけた“結果”そのものを示しているかのようなフレーズもあります。これほどまで、作品にマッチした主題歌は、なかなか類を見ません。

8.“わからない”ことに意味がある作品である


本作は決して“わかりやすい”作品でありません。むしろ、二つの事件が統合された結果として情報量が膨大になったうえ、ある事実が“うやむや”になっているため、スッキリと納得できるミステリーにはなってはいない、“わかりにくい”作品なのです。

自分はこのことを肯定的に捉えています。

世にある凄惨な事件も、どれだけ分析や推理を重ねてもその全てを解き明かすことはできない、どこかに“わからないこと”が残っているものなのですから。

そして、登場人物たちが邪悪な犯人に翻弄され続け、疲弊していったからでこそ、ラストの感動があります。これも原作から少し変えたラストであり、自分はその作品の精神性に感動し、涙してしまいました。

大友監督は、映画『秘密 THE TOP SECRET』に説明が多くなく、役者の芝居や演出で語っていることについて、「映画は“わからないから面白い”という側面もあります。どこで何に気付いたかを、友人やいっしょに観た人たちとおしゃべりして楽しむ。僕は、そういう映画の楽しみ方をして育っています」と答えています。

まったくその通りで、本作は登場人物の行動や、事件の背景を考えると「あそこはこうだった」、「いや、こういう考え方もできる」と、いくらでも解釈が膨らむ、想像のおもしろさに満ちています。

ぜひ、わかりやすいテレビの2時間ドラマにはない、映画でしか体感することのできない“わからない”こその魅力を感じてください。そして、友人や家族と話し合ってほしいです。そのことで、映画から得ることは、きっとあるでしょうから。

なお、大友啓史監督は、小栗旬さん主演の『ミュージアム』が今秋、神木隆之介さん主演の2部作『3月のライオン』が2017年公開予定と、さらに人気マンガ原作の話題作が控えています。

『るろうに剣心』や本作で見せた原作へのリスペクト、そして再構築して映画として魅せる手腕を、今後も大いに期待しています!

■このライターの記事をもっと読みたい方は、こちら

(文:ヒナタカ)

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

RANKING

SPONSORD

PICK UP!