2022年、注目したい城定秀夫作品「3選」

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2022年12月9日(金)に公開された『夜、鳥たちが啼く』は、売れない作家・慎一(山田裕貴)と友人の元妻・裕子(松本まりか)の奇妙な半同居生活を描いている。城定秀夫監督ならではの心理描写と生々しさが印書的な作品だった。

本記事では、『夜、鳥たちが啼く』をはじめとした数作に触れつつ、城定秀夫監督作品の魅力を紐解いていきたい。

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1:『夜、鳥たちが啼く』



若い頃に賞を獲ったきり、売れない作家の慎一は、同棲していた恋人にも逃げられ、鬱屈とした日々を送っていた。そこへ友人の元妻・裕子が引っ越してくる。離婚して住むところを失った裕子と息子のアキラに恋人と住んでいた一軒家を提供し、自分は小説を書くために借りていたプレハブで生活する慎一。

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慎一も裕子もそれぞれ「こんなはずじゃなかった」を抱えている。どうにもできない苦しさのようなものが、彼らの行動に表れていて観ているこちらも苦しくなるシーンが多い。特に慎一は、自分の家で過ごす裕子たちを見ながら、去っていった恋人との記憶を思い出す。踏切前のシーンは特につらかった。そして物語の中盤、あることが判明して大変衝撃を受けた。

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山田裕貴は本作を「僕の俳優としての感覚を変えられるきっかけになるんじゃないか」「こんなお芝居がやりたかった」と自身のラジオや映画に寄せたコメントで語っている。感情を作るのではなく「過ごす中で自然に生まれた感情を監督が切り取ってくださった」と話している。本作の感情をリアルに感じたのは、そういった撮り方にもあるのかもしれない。

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半同居のシチュエーションは、なんだかおままごとを見ているような現実感のなさと、いつ崩れるかわからない砂の城を見ているような胸のざわめきがある一方で、慎一と裕子がこの生活を通してそれぞれの傷を少しずつ癒しているようにも見える。過去に苛立ちから他者を傷つけてきた慎一は、アキラに対してはとても優しい。裕子はアキラを寝かしつけたあと、夜の街へ出かけていく。

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お互い深入りしすぎないようにしていた2人は、ある夜一線を越える。このシーンだけ質感が違うというか、毛穴まで見えそうなザラザラした映像になり、すごく生々しいし、2人ともこんな一面があるんだ、ここまでやるんだ……!とドキドキした。

タイトルの「鳥たち」は、彼らが住んでいる家の近くの幼稚園で飼っている鳥が発情期に啼くことからつけられていると思われ、鳥の鳴き声が他と重なるシーンが幾度か出てくる。この重ねられるものの移り変わりが2人の感情を表しているように感じた。この後どうなるのか、余韻を残した終わり方もいい。

2:『ビリーバーズ』

(C)山本直樹・小学館/「ビリーバーズ」製作委員会

「みんなのために頑張りましょう」

カルト宗教「ニコニコ人生センター」にハマった、無人島で暮らす男女問わず3人が毎朝言い合う口上。そのまんま、歌にもなっている。無人島で過ごしているのはプログラムの一貫らしい。

アスキーアートの笑顔「(^-^)」がプリントされたおそろいのTシャツを着て、“議長さん(宇野祥平)”、“副議長さん(北村優衣)”、“オペレーターさん(磯村勇斗)”と呼び合い、本当の名前はお互い知らない3人。

(C)山本直樹・小学館/「ビリーバーズ」製作委員会

足の裏をくっつけあって地面に座り、毎日見た夢を事細かに報告し合わねばならず、秘密は厳禁だ。宗教上好ましくないことが発覚したら激しくなじられ、穴に入らなければならない。本部から浄化された食料が届くはずだが、しばらくろくなものが届いていない。



最初から最後まで「一体、なにを見せられているんだ……?」というシーンの連続だ。彼らが素晴らしいことだと信じてしている行動は奇行にしか見えないし、こんな生活、絶対にしたくないと思うだろう。しかし彼らは耐えることでもっと上のステージに行けると信じていて、一瞬誰かが疑問を持ちそうになるとすごい勢いで否定される。カルト宗教の恐ろしさが伝わってくる。

(C)山本直樹・小学館/「ビリーバーズ」製作委員会

ある日、流れ着いたガラの悪い一般人たちに副議長がレイプされそうになったことから、副議長の性欲が爆発。議長の目を盗み、オペレーターといかがわしい行為にふける。それを見ていた議長は、宗教のためだとかこつけて副議長に自分との性的な行為を強要する。自分の性器を咥え、嚙みちぎれというのだ。副議長が嚙みちぎれないのをいいことに、繰り返しその行為は強要される。

オペレーターもどう考えてもおかしい行為をやめさせることなく「議長さんも副議長さんも頑張ってくださーい!」と応援し始める。狂っている。

(C)山本直樹・小学館/「ビリーバーズ」製作委員会

禁欲生活から一変、もともと宗教のために狂っていた議長は性欲のためにおかしくなってしまう。「ビリーバーズ」とは「信者・信奉者」という意味なわけだが、本作の台湾版のタイトルが「性徒」な理由が大変よくわかる。「先生が浄化していない食料は食べてはいけない」と言っていたくせに、副議長をレイプしようとした集団が乗っていたクルーザーに1人で乗り込み、彼らの食べ残したものを貪り食う議長の様子は「人間って極限状態になるとこんな感じになるのかな」と思わせる。

(C)山本直樹・小学館/「ビリーバーズ」製作委員会

他作品では滅多に見られない、磯村勇斗の無精ひげ姿も妙に色気があった。磯村勇斗も本作が自身の初主演映画になったことを「ちょっと変わっている自分らしいのでは」と言っており、TAMA映画祭にて最優秀新進男優賞を受賞している。「出演できてうれしい」と思わせる作品を作る監督だからこそ、俳優たちの演技が光るのかもしれない。

本作のラストは全く想像できない展開になり、なんだかすごいものを見たという感覚だ。「みんなのために頑張りましょう」って何だろう。少なくとも彼らの行為が、誰かのためになるとは思えないけれど。

3:『女子高生に殺されたい』

(C)2022 日活

女子高生に殺されたいがために高校教師になった東山春人(田中圭)は、9年もの綿密な計画の後、理想の殺され方を叶えるために、生徒たちにアプローチしていく。

「女子高生に殺されたいがために高校教師になった」という、春人は学生時代から願望を持っており、「完全犯罪であること」「全力で殺されること(できる限り苦しんで、味わいながら死にたい)」という条件も掲げている。

(C)2022 日活

身勝手な願望のために自分が動かしたい生徒と2人きりのときは下の名前で呼び、自分は相手のことを理解している、特別に思っていると思わせ恋に落とす様子は実に恐ろしく腹立たしい。生徒以外のことも、自分の願望のための駒としか思っていないような印象がある。

(C)2022 日活

かなり突飛な主人公に終始ドン引きする中で、たびたび殺される妄想のシーンだけは妙に生々しい。首を絞められ、じわじわと苦しみながら息ができなくなっていく……。田中圭は、そんな春人の気持ち悪さとかっこ良さが混在する姿を絶妙に再現している。

真帆(南沙良)・あおい(河合優実)・京子(莉子)・愛佳(茅島みずき)ら、春人が目を付けた女子高生4人も、それぞれのキャラをよく表していた。

観客を一気に引き込む「生々しさ」

『夜、鳥たちが啼く』© 2022 クロックワークス

3作を見て感じた城定秀夫作品の魅力は、感情が大きく振れるシーンや、欲望があふれ出るシーンで引きずり込むところだ。

『夜、鳥たちが啼く』のどうにもならない苦しさは、大なり小なり感じている人は多いのではないかと思う。『ビリーバーズ』『女子高生に殺されたい』では、共感できないトンデモ展開の中に、欲望丸出しの生々しいシーンが出てくることで「もし自分がこの人だったらどうなんだろう?」という、非現実の中に一瞬の現実的な錯覚を覚える。

欲望が露わになるシーンの生々しさは、ロマンポルノに面白さを感じた彼がピンク映画で経験を積んでいることもあるのかもしれない。キスシーンやベッドシーンがある映画の中でも、言葉を選ばずに言うと、エロさが群を抜いている。

(C)島本理生/集英社 (C)2021映画「よだかの片想い」製作委員会

城定秀夫の魅力は監督作品だけではない。『よだかの片想い』では脚本を担当している。松井玲奈演じる、生まれつき顔に大きなあざがある女性の恋の物語。本作はこれまで紹介した3作とはまた違った魅力のある作品だ。

印象的なラストシーンは、原作にはない城定が加えたオリジナルシーン。安川有果監督が撮ったことで想像以上に素晴らしいシーンになったことで、城定は嫉妬に近い感情を持ったという。

2023年公開作にも期待

©2022「銀平町シネマブルース」製作委員会

2022年だけで監督・脚本合わせて6作が公開されている城定。監督・脚本どちらかを担当した作品や両方担当した作品など、さまざまなパターンによって異なった魅力を見つけられることも、彼の作品の楽しみと言えるかもしれない。

2023年には『恋のいばら』『銀平町シネマブルース』『放課後アングラーライフ』の公開がすでに予定されており、今後の作品にも期待が募る。

(文:ぐみ)

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