湊かなえ原作映画の世界観
(C)2016「少女」製作委員会
人気アイドルもはまる湊かなえの世界
現在、シネマズby松竹で好評連載中「乃木坂週刊映画」にて乃木坂46能條愛未さんも魅力を語っている、いやミスの女王湊かなえの世界。
その作品群の中の最新映画化作品「少女」が山本美月・本田翼W主演で公開された。この「少女」については同じ乃木坂46メンバーで小説家としても活躍している高山一実さんもはまっていることを公言している。
デビュー作から映画化連発
『告白』
湊かなえの07年の短編「聖職者」でデビュー。この「聖職者」を第一章として連作形式で長編化したのが“あの”「告白」だ。
この「告白」は中島哲也監督、松たか子主演、共演木村佳乃、岡田将生で2010年に映画化されると、興行収入40億円近い大ヒットを記録。第34回日本アカデミー賞の最優秀作品賞、監督賞を含む4冠を制覇。その年の映画賞の中心作品となった。今、キャストを振り返ってみると、生徒役に橋本愛やのん(能年玲奈)、三吉彩花などの名前がある。
『北のカナリアたち』
2012年には「往復書簡」の中の一編を阪本順治監督、吉永小百合主演で「北のカナリアたち」として映画化。
かつての教え子役に森山未來、勝地涼、松田龍平、小池栄子、満島ひかり、宮崎あおいという豪華な六人がそろった。脇も柴田恭兵、仲村トオル、石橋蓮司、里見浩太朗が固める超大作仕様の映画となった。大カメラマン木村大作が撮影を担当していて、自分も選考・出席の機会を得られた第36回日本アカデミー賞では「桐島、部活やめるってよ」と一騎打ちといった形になった。
『贖罪』
同年WOWOWの連続ドラマW枠で放送された黒沢清監督の「贖罪」が前後編に再編集され、第69回ヴェネチア国際映画祭を筆頭に多くの海外映画祭に出品され、のちに日本でも劇場公開された。主演が小泉今日子、そして池脇千鶴、蒼井優、小池栄子、安藤サクラがメインキャストを務めた。
『白ゆき姫殺人事件』
2014年にはネットを中心にしたメディアの暴走を描いた「白雪姫殺人事件」が中村義洋監督で映画化。W主演で井上真央・綾野剛がメディアに描かれる側、描く側を演じた。また菜々緒が今や代名詞ともいうべき“本格的な“悪女”役に初挑戦した作品でもあった。
これらの映画化作品に加えて、湊かなえ原作の作品は連続ドラマ、スペシャルドラマとして多数映像化。本数は二ケタにのぼり、長澤まさみ主演の連続ドラマ「高校入試」では湊かなえ自身が脚本も担当している。
待望の女性監督による湊かなえワールドの映画化
湊かなえ作品の特徴は、その大半の主役が女性(女性目線)であることだ。ところがごく一部を除いて(映画では今まで一度もない)女性による演出であったことがない。そんな中、今回「少女」で待望の女性監督の登板が実現した。
(C)2016「少女」製作委員会
過去「しあわせのパン」「ぶどうのなみだ」「繕い裁つ人」で人の心のうつろうさまを叙情豊かに描いてきた三島有紀子監督だ。
「少女」は“人の死ぬ瞬間を見てみたい”という思いに取り憑かれ、魅せられていく二人の少女の物語で、舞台は歴史と伝統のあるカトリック系の女子高が舞台となっている。
原作者湊かなえ、主演の山本美月と本田翼、そして監督の三島有紀子。閉ざされた世界観での広がる少女の危うげな心の闇を艶美に繊細に描くには最適な布陣がそろったという感じだ。パブリックイメージではどちらも活発・快活なイメージのある主演の二人は、演劇的に始まる独特でモノトーンに統一された映画世界の中で“死んだ目”をして登場。それまでの二人のイメージをがらりと変えてきた。親友でありながらもお互いに打ち明けきれない心の闇と秘密を抱えている間柄で、お互いに秘密のままに高2の夏休みに選択した行動が、次の事象に繋がり、やがてある事件につながっていく。
原作に忠実といえばその通りなのだが、いやミスの“いや”のところが注目を浴びやすくなりがちな湊かなえ作品だが、物語の基本はもちろん“ミス”テリーである。
散りばめられた謎、意外な人間関係、隠された真実が終盤に向かって見事に集約を迎える。
もちろん、“いや~”な後味もたっぷりと残るが、ミステリー映画としても堅実なつくりでじっくりと堪能できる作品になっている。
三島監督のフィルモグラフィーを見るとミステリーとの相性はどうなのかとも思ったが、真正面からミステリーに挑んで、なかなかの相性の良さを感じた。今後もこのジャンルを扱ってほしい。元々、ミステリーやホラーなどは女性作家が扱うと独特の味が出ることが多い。作家でいえば「残穢」の小野不由美や宮部みゆきなどはベストセラーを連発させているし、映画監督でいえば「ゆれる」や「ディア・ドクター」などで知られ新作「永い言い訳」も待機中の西川美和監督などの謎や秘密に関する女性ならではの体温感覚が一度触れると癖になる。
映画「少女」はミステリー(謎や秘密)と女性の語り部との相性の良さを改め感じさせてくれる一作となったといっていいだろう。
(文:村松健太郎)
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