映画コラム
『築地ワンダーランド』はドキュメンタリー版『シン・ゴジラ』だ!その5つの魅力とは?
『築地ワンダーランド』はドキュメンタリー版『シン・ゴジラ』だ!その5つの魅力とは?
(C)2016松竹
10月15日より、ドキュメンタリー映画『TSUKIJI WONDERLAND 築地ワンダーランド』(以下、本作)が全国で公開されます。
その題材は、日本の食文化を支えている“築地市場”。いまは豊洲への移転問題が取りざたされていますが、本作は現在までの築地市場の姿を、ただただ丁寧に、とにかく魅力的に描いた作品となっています。
その撮影期間は1年4ヶ月。時間と労力をかけた取材と、こだわり抜かれた映像の力もあり、本作は「すべての人に観てほしい!」と思わせる、素晴らしい作品に仕上がっていました。その魅力を、以下にお伝えします。大きなネタバレはありません。
1.築地の映像がとにかく美しい!
本作の大きな魅力の1つとなっているのは、圧倒的な映像の美しさでした。
夜(早朝)に輝く築地市場のライト、堅牢な屋根、並ぶ新鮮な魚たち、その中でプロとしての仕事を全うする人々……それらを「美しい」と感じるというのは、それだけでも貴重な体験になるでしょう。
考えてみれば、本作は報道規制の厳しい築地市場に潜入して撮影を行っているのですから、通常の映画のように大掛かりな照明やスタッフを用意することはできません。
そうであるのに、ここまで映像が美しいということは、現実の築地市場がそっくりそのまま美しいということなのでしょう。本作を観れば、築地の魅力を“映像として”知ることができるのです。
また、劇中ではデジタル修復で蘇った、80年前の築地の姿も観ることができます。市場の建築風景、盛大な竣工式や入場式の大行進などの“歴史”を感じられることも、たまらなく魅力的でした。
(C)2016松竹
2.カット割りが早い!これはドキュメンタリー版『シン・ゴジラ』だ!
本作で何より驚いたのが、画面がバッバっと切り替わる“カット割り”の早さ。ほとんどのシーンで、わずか2、3秒ですぐに別の画面に切り変わるのです。
さらに、その素早いカット割の画には、総勢150以上のインタビューが覆いかぶさります。「築地市場はこういう場所である」ということが、プロによる言葉と、圧倒的な情報量のある画が組み合わせることで、瞬時に理解できるようになっているのです。
このカット割の多さと、プロによる仕事をひたすら追っていることは、2016年に多くの人々を熱狂させた『シン・ゴジラ』を彷彿とさせました。本作は600時間に及ぶ撮影を1時間50分に詰めこんでいる内容であり、3時間を超える量の脚本を2時間に収めた『シン・ゴジラ』に負けない、“圧縮した魅力”を感じられるのです。
さらに特筆すべきは、カットがパパッと早く切り替わるのにもかかわらず、映像そのものには“スロー”が使われていることです。これにより、ほんの一瞬のシーンであっても、プロによる1つ1つの仕事がより尊いことが伝わってきます。
遠藤尚太郎監督がこの編集作業にかけた期間は、なんと10ヶ月!とことん編集にこだわったおかげもあり、本作は一時として退屈することはないでしょう。ドキュメンタリーというジャンルが苦手な方にも(そのような方にこそ)、おすすめします。
(C)2016松竹
3.音楽の魅力に酔いしれよう!
本作の音楽を手掛けたのは、インストバンド“Anoice”のメンバーであるTakahiro Kidoさん。その澄み切ったような音楽は、築地市場の映像の美しさとの親和性がめちゃくちゃ高いのです。
Takahiro Kidoさんを知らない方は、以下の動画をひとまず観てみてください。劇中には“24時間動いている築地市場をハイスピードで見せる”というシーンがあり、それはこのミュージックビデオのような、映像とのシンクロによる高揚感があるのです。
本作は、2016年に公開されたアニメ映画『君の名は。』と『聲の形』と同じく、“映画における音楽の力を感じさせる”作品でした。この点だけでも、ぜひ劇場で体験してほしいのです。
4.お腹が空いてしまう!観た後はぜひ魚料理を食べて!
劇中には一流の料理人による魚料理、めちゃくちゃおいしそうなお鮨、大きなマグロの胴体がきれいに捌かられるシーンがたっぷり出てきます。そのため、観ていると問答無用でお腹が空くでしょう。
ぜひ本作を観たあとは、お鮨屋さんや、何か海鮮料理が食べられるご飯屋さんに行ってみることをおすすめします。その1品が作られるまで、どれだけのプロによる仕事が行われてきたか……映画の内容を反芻できるはずです。
(C)2016松竹
5.何も知らなかった!築地市場はオンリーワンの存在だ!
築地市場と聞いて、どういう印象を持つでしょうか。“魚を仕入れているところ”“朝早くから魚の競りをやっているところ”……有名とはいえ、多くの人がその場所に抱くイメージは、そのくらいなのではないでしょうか(自分がそうでした)。
しかし、本作を観れば「何も知らなかったんだな」ということをこれでもかと思い知らされるでしょう。毎日食べているような魚料理は、これだけの多くの築地市場の人々の仕事があってこそ成り立っているのだと……。
本作に出演されている料理評論家の山本益博さんは、築地市場を「1位2位3位という言葉がありますが、築地はオンリーワン。世界中を探しても、これに匹敵する魚市場はありません」と語っています。
それは単に東京ドーム約5個分の広さや1日当たりの水産物の取扱量は1600トンになるといった“規模”のことだけでなく、80年の歴史が積み重なることにより生まれた、そこで働く人たちが持つ“情熱”や“誇り”にもあるのです。
築地市場で働く人でなければ、それはわかることではありません。しかし、本作ではわずか1時間50分で、その規模、歴史、働く人たちの情熱や誇りを、丸ごと感じとることができるのです。なんと贅沢なのでしょうか!
ぜひ、築地市場について何も知らない、という方こそ本作を観てみてほしいです。堅苦しさはまったくなく、本音から来るプロの言葉の数々、知らない場所での知らない仕事は、それこそフィクションよりもドラマティックで、何よりおもしろいのですから。
(C)2016松竹
まとめ:ようこそ、ワンダーランドへ
本作のキャッチコピーは「ようこそ、誰も知らない不思議の世界へ—」とあります。『築地ワンダーランド』というタイトルもが示している通り、作中の築地は“不思議”という形容が確かに似合う場所でした。
15年に及ぶ研究により、世界で初めて築地市場を多角的に分析した書籍『築地』を上梓した、ハーバード大学のテオドル・ベスター教授は「調査を始めた当初は、築地市場がこんなにも複雑で、全体像を把握するのに、こんなにも時間がかかるとは想像もしなかった」と語っています。
そう、この築地市場は、それほどにまでも複雑で、想像をはるかに超えた“ワンダーランド”なのです。ぜひ、不思議な世界を冒険するような、ワクワクとおもしろさを味わってください。
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(文:ヒナタカ)
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