ノーベル文学賞受賞記念!ボブ・ディランに関わる映画たち!
本年度のノーベル文学賞を、何とミュージシャンのボブ・ディランが受賞しました!
これまで反骨のアーティストとして活動し続け(もっとも本人はそういったスタンスで語られることを嫌っていますが……)、《風に吹かれて》や《ライク・ア・ローリング・ストーン》《天国の扉》など名曲は多数。
既にロックの殿堂入りも果たし、グラミー賞やピューリッツァ賞など数々の受賞の名誉に預かってきている彼。
今回のノーベル賞受賞については、未だに(10月21日現在)沈黙を続けていますが……
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.168》
せっかくなので、彼が関わった映画などについて、ちょこっと調べてみました!
21世紀に入って話題を集めた劇映画
そして監督・主演作品
最近のボブ・ディラン関連映画で話題になったのは、トッド・ヘインズ監督の『アイム・ノット・ゼア』(07)でしょう。
これはいちおうディランの伝記映画……ではあるのですが、何と6人の俳優がそれぞれ異なるイメージでディランを元にしたキャラクターを体現していくもので(ちなみに、ボブ・ディランという名前のキャラは登場しません)、クリスチャン・ベイルやリチャード・ギア、ヒース・レジャー、ベン・ウィショーなどに交じって女優のケイト・ブランシェットまでディランを演じるというユニークなはからいに嬉しくなってしまいます。
そもそも時代ごとに様々な顔を見せてきた多人格のディランを、事実と伝説を錯綜させながらリスペクトした内容。多少、彼のキャリアを知ってから接したほうが理解しやすいかもしれませんが、逆に全く知識がないまま接してトリップするのも一興でしょう。
一方、ラリー・チャールズ監督の『ボブ・ディランの頭のなか』(03)は、ディランが脚本・音楽・主演を務めた異色音楽コメディで、近未来の架空の国を舞台に、刑務所から釈放されたミュージシャンが政変の渦に巻き込まれていくというお話。ディランのライヴ・シーンも多数収められています。またさまざまなアーティストによるカヴァー曲も満載の中、真心ブラザーズがカヴァーした《My Back Pages》も冒頭で使われています。
実はボブ・ディラン、監督&主演映画『レナルド&クララ』(78)もあります。アメリカ全土をライヴで回るミュージシャンの行動をスケッチ風に追ったもので、台詞をサム・シェパードが担当。当初は4時間の尺だったそうですが、批評的興行的に不評で2時間に短縮されて再公開されました(日本でもこのバージョンが公開)。
映画ファンに愛され続ける
『ビリー・ザ・キッド 21才の生涯』とその関連作
ボブ・ディランと映画と聞いて、多くの映画ファンがまずピンとくるのは、サム・ペキンパー監督の西部劇『ビリー・ザキッド 21才の生涯』(73)ではないでしょうか。
若き無法者ビリー・ザ・キッドとパット・ギャレットの友情と確執を描いたこの作品の中で、彼はペキンパー監督に乞われて音楽を担当し、エイリアス役で出演もしています。
(ちなみにこの作品、もともと音楽にはペキンパーとの名コンビで知られるジェリー・フィールディングが予定されていましたが、ディランの歌曲を気に入ったペキンパーがいきなり担当を彼に代え、しかもその監修をフィールディングに頼むというメチャクチャなオファーぶりで、そもそも頑固肌のフィールディングは、何とかダビング・セッションに参加したものの、そこでかなり厳しくディランを指導したとのことです)
ここで生まれたのが名曲《天国への扉》で、彼の楽曲でもっとも多くカヴァーされた曲としても知られています。
またこの曲をモチーフに、死を間近に控えたふたりの男が病院を抜け出してギャングのベンツを盗んで旅に出てしまうドイツ映画『ノッキング・オン・ヘブンズ・ドア』(97)、および設定を青年と少女に替えたリメイク日本映画『ヘブンズ・ドア』(09)も製作されています。
ドキュメンタリー映画の
ボブ・ディラン
ボブ・ディランの音楽活動を描いたドキュメンタリー映画としては、65年のイギリス・ロンドン・ツアー2週間の様子を捉えた『ドント・ルック・バック』(67)があります。
この時期の彼はかなり奔放で、取材に来たマスコミとの激しい攻防や、学生たちとの言い争い、さらにはギャラの交渉といった赤裸々な場面が映し出されます。
(『アイム・ノット・ゼア』のケイト・ブランシェットのパートは、この時期のディランに倣ったもの)
冒頭、いきなりライヴで《サブタレニアン・ホームシック・ブルース》を歌いながら、歌詞カードを1枚ずつ捨てていくシーンも印象的。
もう1本、マーティン・スコセッシ監督の『ボブ・ディラン ノー・ディレクション・ホーム』(05)は彼のデビューから66年までの軌跡を綴った3時間半の大作です。
音楽ドキュメンタリー映画の名手でもあるスコセッシ監督は、かつてザ・バンドのドキュメンタリー映画『ラストワルツ』(78)の中でもボブ・ディランを捉えていますが、ここでは10時間におよぶインタビューに成功し、彼の真相に迫るとともに60年代アメリカの時代性をも追及しています。
日本映画におよぼした
ディランの影響
ディランの音楽は日本のミュージシャンや文化人などにも多大な影響を与えていますが、みうらじゅんもそのひとりで、彼が書いた小説を個性派俳優の田口トモロヲが初監督した『アイデン&ティティ』(03)は、アマチュアバンド・ブームに巻き込まれたロック青年の青春を描きながら、ディランに対するオマージュをたっぷり捧げています。
このコンビの第2作『色即ぜねれいしょん』(08)の70年代高校生の主人公も、ボブ・ディランに心酔しているという設定でした。
『アヒルと鴨のコインロッカー』(06)では《風に吹かれて》が主題歌に起用されるとともに、ディラン・ファンの青年が、「ディランの声は神様の声」とする隣人のトンデモ計画に巻き込まれていくお話です。
なお、ロック曲を劇中に登場させることが好きな伊坂幸太郎の原作小説では、《風に吹かれて》ではなく《ライク・ア・ローリング・ストーン》が使われています。
70年前後の新左翼運動とその周辺のカルチャーを題材にした川本三郎の小説を山下敦弘監督が映画化した『マイ・バック・ページ』(11)。そのタイトルはボブ・ディランの《マイ・バック・ページズ》から採られたもの。映画では真心ブラザーズ+奥田民生の《My Back Pages》が主題歌として用いられています。
幻の名作『ワンダラーズ』に登場する
若き日のボブ・ディラン
最後に、個人的に思い入れのあるフィリップ・カウフマン監督の伝説の青春映画『ワンダラーズ』(79)を紹介しておきます。
これは1960年代前半のニューヨークの下町ブロンクスを舞台に、さまざまな人種の若者たちの対立や友情、恋などを描いた青春群像劇で、ヴェトナム戦争の徴兵といったシビアな社会背景も浮かび上がっていく中、クライマックスのコーヒーハウスの中で、ボブ・ディランと思しき若者が《時代は変る》を歌っています。
そしてアメリカは、激動の60年代後半を迎えることになるのでした……。
これまで絶版DVDがオークションで20000円以上の高価格取引されていた本作、10月にめでたくブルーレイ&DVD化されたので、これを機にぜひご覧いただけたら幸いです。
私自身、10代半ばの頃に見たこの作品で初めてボブ・ディランを強く意識するようになるとともに、彼の歌が時代の変遷を鋭く見据えながら紡がれていくことに昂揚したものでした。
ところで、彼は今回のノーベル賞を受け取るのでしょうかね?
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(文:増當竜也)
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