映画コラム

REGULAR

2016年10月23日

沖縄ブームの立役者。隠れた傑作『ナビィの恋』は日本が誇る音楽映画だ!

沖縄ブームの立役者。隠れた傑作『ナビィの恋』は日本が誇る音楽映画だ!

■「映画音楽の世界」

みなさん、こんにちは。

先日開催された京都国際映画祭にて、沖縄を舞台にした一本の映画が公開されました。監督・原案・脚本を務めたのは中江裕司。主演には西田尚美を迎え、沖縄にある離島、粟国(あぐに)島を舞台に「おじぃ」と「おばぁ」の物語が優しく描かれます。

今回の「映画音楽の世界」では、そんな映画『ナビィの恋』を紹介したいと思います。

[amazonjs asin="B00005A1DQ" locale="JP" title="ナビィの恋"]

おじぃとおばぁが選択する未来に誰もが涙する。
究極のラブストーリー。


『ナビィの恋』が劇場公開されたのは1999年。当時沖縄で大ヒットとなり、単館系ではあるもののやはり評判を呼び、その後の沖縄ブームの起爆剤となります。本作でナビィを演じた沖縄演劇界の至宝である平良とみさんが2001年の『ちゅらさん』に、主人公の「おばぁ」の役で登場しているので覚えている方も多いのではないでしょうか。

そんな平良とみさんを筆頭に、本作には多くの沖縄の重鎮がキャスティングされているのも大きな見どころ。ナビィの夫、「おじぃ」を演じたのは登川誠仁さん。琉球三線の第一人者で、本作でも多くの場面で演奏を披露していますが、なんと演技は初挑戦。

中江監督が熱望して実現した配役ですが、この演技がとにかく優しく愛くるしいおじぃを見事に表現していて、初出演とは思えないほど。本作ではこの老夫婦を中心に、そこに謎の老人「サンラーさん」(演じるのは平良とみさんの実夫である平良進さん)が島に帰って来たことで巻き起こる物語を美しい風景と彩り豊かな音楽で描いています。

本作は、観る人によって感想が分かれるかもしれませんが、筆者はとにかく登川誠仁さんの演じた「おじぃ」こと恵達の優しさに見惚れました。どんな時でもおばぁを第一に考え、愛し、見守る恵達。畑に仕事に向かう際に三線でアメリカ国歌を演奏したり言葉の端々に英語が混じったりと沖縄の歴史をふと感じさせつつ、沖縄の風景に溶け込むようなその姿。

それでいてなかなかスケベという愛嬌。物語はナビィとのお家騒動で島を追放されていたサンラーが島に戻り大きく展開していきますが、それでも恵達という人間性は一切ぶれることはない。

大切な牛を売ってまでナビィのためにマッサージチェアを購入し、そして、ナビィが下したある決断に対する恵達の静かなる返答は、鑑賞時涙を止めることが出来ませんでした。本作は音楽映画であると同時に、ナビィと恵達の、壮大な恋愛映画でもあります。詳しくは書けませんが、本作は今年公開された『シング・ストリート』と偶然にもある共通のシーンがあり、シング~を鑑賞された方にもぜひ、本作を観てほしいところ。

あの作曲家も参加!
魅力的すぎる劇中音楽の数々。


おじぃとおばぁの物語と同時に、全編で流れる劇中音楽も本作の大きな魅力の一つ。そもそも沖縄の人ならば誰もが知っているという登川誠仁さんの三線が多く披露され、[国頭ジントヨー]や同曲のアレンジ版にして下ネタに爆笑したくなる替え歌[モンデヨー](この曲名の時点でいかがわしい)、そして琉球三線の本領発揮とも言える終盤の沖縄民謡[アッチャメー小]は演出も相まってこちらまで踊りだしたくなるような軽快な一曲など、おじぃの演奏だけでも十分な音楽が味わえますが、これだけではないのが本作の凄いところ。

まず、オープニングで流れるピアノ曲[RAFUTI]は、なんと『ピアノ・レッスン』で知られるマイケル・ナイマンによる作曲と演奏。さらにはエンディング曲ではこの[RAFUTI]でナイマンと登川誠仁によるコラボ曲となっています。

ナイマンの曲に始まり国際色溢れる楽曲も多く、フィドルをフィーチャーしたケルト民謡やアイルランド民謡[ロンドンデリーの歌]の使い方も良い。西田尚美さんがフリフリの衣装で[夏の扉]を歌うのも見どころの一曲(曲に合わせてフリを覚えているおじぃも可愛らしい)。

これでも使用曲の半分も紹介できていないような気がしますが、この他にも多くの場面で価値ある楽曲が披露されているので、ぜひ本編を観て確認してみてください。

まとめ


おばぁとおじぃの大人の恋の物語。沖縄の美しい風景と島の人々。そして彼らが生み出す音楽の数々。魅力を挙げ出せばキリのない作品ですが、おばぁを演じた平良とみさん、恵達を演じた登川誠仁さん、本家長老役で三線演奏と歌唱も披露した琉球民謡を代表する嘉手苅林昌(かでかり りんしょう)さんが既に亡くなってしまっていることに時の流れを感じつつ。これほどまでに優しい映画にはなかなか出会えるものではありません。一人でも多くの方に観てもらいたい。『ナビィの恋』は、そんな一本です。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

■「映画音楽の世界」の連載をもっと読みたい方は、こちら

(文:葦見川和哉)

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

RANKING

SPONSORD

PICK UP!