映画コラム

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2019年03月22日

『コンジアム』の「3つ」の魅力!考えうる限り最高に恐い理由はこれだ!

『コンジアム』の「3つ」の魅力!考えうる限り最高に恐い理由はこれだ!



(C)2018 showbox and HIVE MEDIA CORP ALL RIGHTS RESERVED.


2019年3月23日より、シネマート新宿とシネマート心斎橋にて韓国映画『コンジアム』が公開されます。結論から申し上げれば、本作は“しっかり恐いエンタメホラー”を期待すれば誰もが楽しめる優秀な作品でした!その魅力を以下にお伝えします!

1:韓国ホラー映画のジンクスを打ち破る!
ノースター俳優かつ低予算でも大ヒットだ!


韓国映画には現在も勢いがあり、ラブストーリーからサスペンスからバイオレンスものまで幅広いジャンルが続々と世に送り出されています。『シュリ』や『私の頭の中の消しゴム』や『猟奇的な彼女』などは日本でも大ヒットしましたし、近年では『哭声/コクソン』や『タクシー運転手 約束は海を越えて』や『1987、ある闘いの真実』や『バーニング 劇場版』など通好みの超ハイレベルの作品が公開されていたことも、映画ファンにとっては記憶に新しいことでしょう。

しかしながら、韓国映画には“国産のホラーが当たらない”というジンクスがあったそう。2003年の『箪笥』は例外的に特大ヒットを記録しましたが、その後に興行面で恵まれたホラー映画はほとんどなく、その状況は2016年の『新感染 ファイナル・エクスプレス』まで続いていたようです。『新感染』は人間ドラマや韓国の社会への痛烈な風刺などの要素も巧みに取り込まれており、ゾンビ映画という枠だけに囚われない内容(そして大傑作!)であったので、やはり純粋なホラーと呼べる作品ではないでしょう。

そして2018年に公開されたこの『コンジアム』は……同じ週に封切られた『レディ・プレイヤー1』を押さえて初登場1位の興行収入を記録し、観客動員数は260万人を超え、韓国の歴代ホラー映画における動員数は『箪笥』に次いで2位の記録を打ち立てたのです。しかも有名な大スターは出演しておらず若手の新人俳優のみがキャスティングされており、その総製作費は24億ウォン(約2億3500万円)で、韓国商業映画の平均である約50億ウォンの半分以下に抑えられていました。

ノースター俳優かつ低予算でありながら、なぜそこまでヒットをしたのか……それは(詳しくは後述しますが)SNSやYouTubeを親しんでいる世代にマッチした内容であったことと、とにかく“恐い”ことが予告編や実際に観た人からの口コミで広がったことが大きな理由であったようです。ともかく、韓国のホラー映画の歴史を変えるほどの大ヒットを遂げていたことと、それが低予算であっても圧倒的な恐怖(と面白さ)によるものであったということを、まずは念頭に置いてほしいのです。

また、本作では残虐描写がほぼほぼ廃されており、血を流すシーンもほとんどないということも長所です。それでも存分に恐いシーンが目白押しで、子どもから大人まで全年齢が楽しめるというのが嬉しいですね(あまり小さい子には流石に恐すぎると思うのでご注意を)。



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2:定番化したPOVのホラー!
主人公たちがYouTuber集団であることがフレッシュだ!


本作『コンジアム』の最大の特徴は、“POV形式”かつ“ファウンド・フッテージもの”のホラー映画であることでしょう。

POVとはPoint Of Viewの略であり、“主観視点”のこと。カメラを登場人物(主人公)の視点と完全に一致させ、リアルな臨場感を作り出す手法です。通常の映画は複数の視点が存在していますが、POVでは必然的に見ているものが限定されるため、“全てを把握できない不安さ”をも呼び起こします。端的に言って、POVは登場人物と全く同じ視点で同調し恐がることができるという点で、ホラーとの相性が良いのです。

ファウンド・フッテージとは、「撮影者が行方不明になったなどの理由により埋もれていたが後に発見された映像」という設定のフィクション作品のことで、モキュメンタリー(フェイク・ドキュメンタリー)の一種です。つまりは映画という作り物でありながら、やらせなしで撮った映像という体(てい)の内容であり、それもリアルな出来事だと“錯覚”できるという点でやはりホラーとの相性が抜群なのです。(『コンジアム』は後で書くように映像が生配信されているという設定であるので、厳密にはファウンド・フッテージものとは呼べないかもしれませんが)


このPOVおよびファウンド・フッテージのホラーは低予算で作りやすいということもあって、多数の作品が生まれています。少し前であれば1999年の『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』や2007年の『パラノーマル・アクティビティ』などを思い浮かべる方が多いでしょう。

言うまでもなく、『コンジアム』もこれらのPOVおよびファウンド・フッテージのホラーの系譜の1つであり、そこだけを切り取れば目新しさはありません。事実、廃墟と化した病院に映像製作集団が取材に向かうというプロットは2011年の『グレイヴ・エンカウンターズ』と酷似していますし、物語構造そのものも「調子に乗っていた若者がいわくつきの場所で(文字通り)死ぬほど恐い目に遭う」というホラー映画のスタンダード中のスタンダードなものなのになっていました。

しかしながら『コンジアム』は、定番化が進みすぎていたPOVおよびファウンド・フッテージのホラー映画の中でも、頭ひとつ抜けた出来栄えであったと断言します。その大きな理由の1つが、主人公たちがホラー番組を生配信しているYouTuber集団に設定したことでしょう。

何より楽しいのは、このYouTuberたちがけっこうチャラいということ。こいつらは「え!廃墟の精神病院に行って動画を撮るだけでお金を稼げるの?ウソー!じゃあ行っちゃおうかな?」くらいの軽いノリで集まっており(一般の参加者を募っている)、序盤は合コンっぽく男女で飲んだり池に飛び込んだり楽しく動画撮影をしている様子が映し出されます。もちろん観客はホラー映画だということを知っているので、この若干イラっとするノリの序盤も「このパリピどもがどれだけ酷い目に遭うんだろうなー!」とワクワクできるのです(笑)。前述した『グレイヴ・エンカウンターズ』の劇中内の番組はちゃんとしていて主人公たちも概ね真面目であったため、この時点でけっこう差別化が図れているんですね。

このYouTuberたちが小型アクションカメラのGo Proやドローンなど最新の機器を使って撮影をしていること、生配信によってリアルタイムで視聴者からの反応を得られていることなどは、やはり現代でしかなし得なかったフレッシュな要素。それは(ネタバレになるので明確には書けませんが)皮肉的でもある終盤の展開にも見事につながっていくのです。総じて、YouTuber集団を主人公としたことが物語とも不可分であり、それにより十分なオリジナリティをも備えていること……それこそが、『コンジアム』がPOV およびファウンド・フッテージのホラー映画が陥っていたマンネリズムから脱却した大きな理由でしょう。

余談ですが、2019年5月9日公開予定の日本映画『貞子』も、SNS時代に現れた“撮ったら死ぬ”呪いを描くと同時に、YouTuberがいわくつきの場所に忍び込んで心霊動画を撮ろうとする内容になっているのだとか。ホラーに限らず、現代を舞台にした映画ではSNSやYouTubeの文化を取り入れることがほぼ必然的になっているとも言えるのかもしれませんね。



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3:撮影していたのは俳優本人!
BGMおよび効果音が一切ないことも重要だった!


本作『コンジアム』がさらに素晴らしいのは、撮影手法が徹底していること、音響にもこだわりがあり、“恐がらせる”ことにおいてはサービス精神が満点でもある、ということです。

その撮影手法の工夫の1つが、大半が“俳優本人が撮影したシーン”で構成されているということです。当初は撮影監督が主要シーンを撮っていたものの、そのプロによる撮影アングルが“恐怖体験”にはそぐわないと判断した製作陣は、7人の俳優にそれぞれに撮影を行わせるという決定をしたのだとか。しかも、通常の商業映画で用いられるカメラは1台たりとも使わず、7人の俳優それぞれにGo Proを装着させて撮影を敢行、その他もカムコーダー、Osmo、VRカメラなどの最新の撮影機材を導入し、最多で19台のカメラが現場で同時に回されていたのだそうです。

これら多種のカメラによる撮影は、POVの難点と言える画面の窮屈さを解消し、映像のメリハリを作り出すことにも成功しています。何より、俳優本人が撮影したこと、それにより良い意味で“生々しくて”“素人くさい”映像こそが恐怖を倍増させているのです。

さらに、本作ではBGMおよび効果音を後から付け加えるという演出は一切していません。水の落ちる音、門が閉まる音、正体不明の物体が動く音、カメラのシャッター音、俳優の足音や呼吸する音、などなど……現場での“環境音”のみを採用した音響が観客の想像力および恐怖を掻き立て、これ以上のない臨場感とスリルを生んでいました。

言うまでもなく、(YouTuber集団らしい“素人くさい”映像だからといって)美術やライティングなど、細部へのこだわりも文句のつけようがありません。キャストには前述した通りスター俳優はいないのですが、それぞれの演技力は大物俳優顔負けですし、無名の俳優であることがむしろ「誰が生き残るかわからない」という展開の読めなさを際立たせるとも言えます。アイデア一発勝負だけでなく、舞台と設定を最大限に生かした工夫の数々も、賞賛されてしかるべきでしょう。

さらに、序盤から中盤までは“じわじわ”と恐怖を煽る演出が続いていき……終盤ではもう悲鳴をあげたくなるほどの恐怖描写のつるべ打ち!という、盛り上げるための演出および脚本もよく考えられています。クライマックスのまさかの展開には、恐怖を超えた感動(?)があるかもしれませんよ。



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まとめ:この恐怖はぜひ映画館で!
考えうる限り最悪で最恐な光景がスクリーンに映し出される!



本作『コンジアム』は、ぜひ映画館でこそ観て欲しいと思います。スマホやタブレットでも気軽に映画が観られる時代ではありますが、“逃れられない”“閉じられた空間”である劇場でこそ、真の恐怖を体験できるというのは間違いないのですから。前述した通り本作は音響も重要であるので、“聴覚”をフルに活用して観てみるのがいいでしょう。

そして……本作は「考えうる限り最悪で最恐な光景」がスクリーンに映し出される映画でもあります。「こんなものを大画面で映さないでよ!これ以上見たくねえよ!ひどすぎるよ!」という体験もまた、映画館でしか味わえないでしょう(もちろん良い意味で)。

ちなみに、タイトルおよび舞台となる「コンジアム」は「昆池岩」と書き、2012年にCNN(アメリカのニュースチャンネル)が選定する世界7大心霊スポットに選出された実在の廃病院の名前です。そこは大勢の患者が不可解な死を遂げ、院長が失踪もしくは自殺されたとされ、閉鎖後は幽霊の目撃情報などの噂が絶えないなど……ガチでヤバいスポットなのです。その昆池岩のことを映画を観る前でも後でも調べてみると……さらなる恐怖があるのかもしれませんよ。

おまけ:しっかり恐くて面白いPOVホラー映画はこれだ!


前述した通り、POVおよびファウンド・フッテージのホラー映画は多数作られている……というよりも粗製乱造されており、はっきり言ってイマイチな作品も決して少なくはありません。ここでは、筆者が3作品に厳選した『コンジアム』と同様に「確実に恐くて面白い!」POVホラー映画を紹介します!

1.『REC/レック』




ハリウッドでリメイクもされ、続編も4作目まで製作されるなど人気を博したスペイン製のホラーです。ジャンルとしてはゾンビ映画であり、ドキュメンタリー番組を制作中の女性レポーターが通報を受けた消防隊に同行してアパートを訪れると……それ以降は次から次へと、これでもかと恐怖描写の連続。クライマックスでは“本当に見たくないもの”を“ずっと見続けるしかない”、地獄のような光景が映し出されて本当に最悪でした(褒めています)。R15+指定で残酷な描写も満載なのでご注意を。

2.『V/H/S ネクストレベル』




空き家に入った若者が次々と恐ろしいビデオ映像を観るというシンプルな物語を通じて、4本の短編ホラー映画が楽しめるというオムニバス作品です。それぞれが“エログロ全部乗せ”で、次々と映し出される超ハイテンションな阿鼻叫喚の地獄絵図が最大の魅力となっていました。特に2本目の“ゾンビを主人公”にした「A RIDE IN THE PARK」、3本目の『ザ・レイド』などのギャレス・エヴァンス監督が手がけた“カルト教団の地獄の潜入ツアー映像”が展開する「SAFE HAVEN」は傑作です!R18+指定も超・大納得の内容なので、お子様は絶対に観ないように!

3.『ヴィジット』




『シックス・センス』や『ミスター・ガラス』などのM・ナイト・シャマラン監督の作品です。撮影される映像は“幼い姉弟ふたりによる記録映画”という設定で、POV方式により“視界が限定されるがゆえの恐怖”が際立っているだけでなく、それこそが作品のテーマと密接に絡むものになっていたりと、堅実に作られた作品になっていました。シャマラン監督に期待されている“どんでん返し”もバッチリ入っており、エンドロールの映像にもニコニコと笑顔になれますよ。

(文:ヒナタカ)

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