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『ヒトラーの忘れもの』、今年のトリを飾る戦後戦争映画の傑作だ!

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■「キネマニア共和国」

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(C)2015 NORDISK FILM PRODUCTION A/S & AMUSEMENT PARK FILM GMBH & ZDF



2016年も邦洋問わずさまざまな映画が公開され、その中には傑作もあれば珍作もあれば、何じゃこれは? と頭をひねてしまうものもあれば……と、そのつど映画ファンを楽しませてくれましたが、おそらく私自身、今年最後の絶対的オススメとして、この作品を紹介したいと思います……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.185》

『ヒトラーの忘れもの』。

この邦題だけでは何の映画かわかりづらいところがあるかもしれませんので、これから簡単に説明していきたいと思いますが、これは間違いない傑作であり、戦争がもたらすものとは何かを明確に描き得た、本年度の大収穫の1本です。

デンマーク海岸の地雷撤去を命じられた
戦後のドイツ少年兵たちの悲劇


『ヒトラーの忘れもの』の舞台は、第2次世界大戦終結後、ヒトラー率いるナチス・ドイツから解放されたデンマークです。

この国の海岸線には戦時中、ナチスによって200万個を超える地雷が埋められていました。

デンマーク軍は、その地雷を捕虜のドイツ兵、しかもまだ幼い10代の少年兵たちに撤去させることを命じます。

地雷を扱ったことのない少年たちは、異国の地で毎日、一歩間違えば死に直結する地獄の作業に従事していくことになります。

これが終われば祖国へ帰れるのだと、そう信じながら……。

これまでナチスが犯した大罪を描いた作品は多々ありますが、その代償として敗戦国ドイツの人々がいかなる運命をたどったのか、『ニュールンベルグ裁判』のようなお偉方の裁判劇や、また今年は『アイヒマン・ショー』のようにナチス高官のその後を描いたものや、何とヒトラーが現代にタイムスリップしてきたブラック・ファンタジー『帰ってきたヒトラー』みたいなものもありましたが、純粋に国を信じて戦った者たちの戦後の姿を描いた作品は思ったほど多くはないように思います。

それはやはりナチズムの思想を盲目的に信じてきたことへの負い目みたいなものもあるのかもしれません。

ナチスの罪とデンマークの怒り
そして犠牲となる少年たち



本作はかつてナチス・ドイツに占領されていたデンマークの側から、自分たちを支配していたナチスの者たちに対する憎しみの視線を露にしていきます。

その象徴となるのが、ドイツ少年兵たちの地雷撤去作業を監督&監視する、本作の主人公ともいえるデンマークの指揮官ラスムスン軍曹(ローラン・ムラ)で、もともとナチスを激しく憎悪していた彼も、さすがに現場に連れてこられたのがあどけない少年ばかりであることに戸惑いを隠しきれず、またそんな彼らが餓えや体調不良に苦しみ、ひとり、またひとりと作業のさなかに命を落としていくのを目の当たりにしていく中で、ナチスが犯した罪を子どもたちに押し付ける行為が果たして正しいのかと、疑問を呈するようになっていきます。

これが本作のテーマでもあり、デンマーク映画界の俊英で現在浅野忠信を迎えた新作“THE OUTSIDER”を準備中のマーチン・サントフリート監督のキャメラ・アイは一貫して静謐な佇まいで、支配されてきたデンマーク人の憎悪を隠すことなく、自分たちを支配してきたドイツ人もまた同じ「人」であったことを露にしていきます。

荒涼としつつも一見穏やかに映える海岸線。しかし、そこにはあっさりと人の命を奪う殺人兵器が無数に埋め込まれており、それを除去する少年たちの一触即発の恐怖と、一方ではそういった極限状況の中でも家族を想い、帰国を夢見るはかない希望とが混ざり合い、次第に映画は単にナチスを批判するだけでなく、勝者が敗者を裁くことへの疑問、ひいては戦争そのものに対する痛烈な批判を、決して拳を振り上げることのない静かなる情緒の中で訴えていきます。

今年も華やかな正月映画が多々揃う中、こういった作品にもぜひ目を向けていただければと思います。特にクリスマスから年末にかけての慌ただしい中、逆に落ち着いた風情の心沁みる、哀しみの涙で見る側の心を浄化させてくれる作品に接してみるのも一興でしょう。

なお本作はデンマークのアカデミー賞にあたるロバート賞で作品&監督&オリジナル脚本&撮影&編集&観客賞と6部門を制覇。2015年度東京国際映画祭ではローラン・ムラと少年兵セバスチャン役のルイス・ホフマンが揃って最優秀男優賞を受賞。2016年度ロッテルダム国際映画祭で観客賞を受賞しています。

繰り返しますが、これは映画ファンなら見ておくべき傑作として、今年のトリを飾る映画であることを断言しておきます。

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(文:増當竜也)
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