映画コラム
ハリウッドを騒がす日系映画人―シンタロウ・シモサワ監督インタビュー
ハリウッドを騒がす日系映画人―シンタロウ・シモサワ監督インタビュー
ジョシュ・デュアメルを主演に据え、アル・パチーノとアンソニー・ホプキンスが初共演、さらにイ・ビョンホンと豪華キャストでおくるサスペンス映画『ブラック・ファイル 野心の代償』。本作でメガホンをとったシンタロウ・シモサワ監督に、シネマズが単独インタビューを敢行した。
映画『ブラック・ファイル 野心の代償』
シンタロウ・シモサワ監督インタビュー
映画『ブラック・ファイル 野心の代償』は、野心家の若手弁護士が、機密の臨床ファイルを受け取ったことで、全米を牛耳る巨大製薬会社相手に薬害問題訴訟で挑む姿を中心に、やがて想像もつかない展開に巻き込まれていく様を描くサスペンス作品だ。
本作でメガホンをとるのは、これが監督デビュー作となるシンタロウ・シモサワ監督。これまでに大ヒットドラマのスピンオフ『クリミナル・マインド 特命捜査班レッドセル』やケビン・ベーコン主演の『ザ・フォロウィング』にて脚本を手がけるほか、清水崇監督のハリウッドデビュー作『THE JUON/呪怨』で共同プロデューサーを務めるなど、ハリウッドでは存在感を高める期待の新鋭だ。
――アンソニー・ホプキンス、アル・パチーノ、イ・ビョンホンと、豪華スターたちが共演していますが、キャスティングは監督が?
ハリウッドでのキャスティングって、例えばダニエル・ラドクリフを出演させたいと、企画を持ち込んで彼が気に入ったら、それが「ダニエル・ラドクリフの企画」って感じになるんだ。だから、彼を軸に共演できる人たちを集めるっていうやり方だね。
――軸になる人を先に決めて、配役を決めていくわけですね。
ただ、今回は少し違った。ウエスト・ハリウッドって、クリス・ヘムズワースが今流行ってるから何が何でも彼を出演させてやろうって風になりがちなんだけど、そういうことは強要されなかったんだよね。例えばアリス・イブの演じたシャーロットは、アル・パチーノとアンソニー・ホプキンスは出ることが決まっている中で、商業的には他の女優に声をかけることも出来たと思うんだ。けれど、彼女を選んだ。あくまでもキャラクター重視で、キャラクターに合う配役をっていう、その主義でやり通すことができたんだ。
――アリス・イブの演技は素晴らしかったですね。彼女の陰のある演技は、本作を語る上でとても重要な場面になっていたなと。
彼女の演技に関して言うと、スタジオでは賛否あったんだ。もう少し明るい表情にした方がいいんじゃないかって。
――だけど、監督はそれにはノーと?
そうだね、まったく譲歩しなかった。もし、彼女を少しでも明るく振る舞わせていたら、物語は違った風になっていただろうから。あくまでもリアルなキャラクターを追求したかったんだ。
――そのおかげで、観終わった後に思わず唸ってしまいましたね。
これはアリスとも相談しながら決めたんだ。夫婦がこういう状況になったら、どう思うだろう?って。そしたら「それは鬱になるし落ち込むし、感情なんかも押し殺すよね」と言ってくれたんだ。あと、全編通して見ると、実は旦那であるベン(ジョシュ・デュアメル)に、妻のシャーロットから身体へタッチするシーンが1つもないんだ。それはアリスが自分で考えて意識的にそのように演じることにしたんだ。
――明るい演出がなかったことは、個人的には大正解だったと思いますね。
アリスは、綺麗な女優さんだからやっぱり笑顔を振りまいてもらったほうがいいわけで、スタジオのメンバーは「好感度をあげよう」という魂胆があったようで、明るくさせたかったみたいなんだけど、そんなのアホらしいと思いましたよ(笑)
――綺麗な女優といえば、エミリー役のマリン・アッカーマンは、すごくセクシーでした。彼女の役は、シャーロットの旦那であるベンを惑わす役ですが、ベンを演じたジョシュ・デュアメルの奥さん・ファーギーと系統的に似ていますよね?そう考えると、リアルとは真逆になっているなと。
その話でいうと、ファーギーとマリン・アッカーマンはプライベートで仲が良いらしいんだよね。だからこそ、安心して自分の旦那のセックスシーンを任せることが出来たんじゃないかと思うね。
――監督は、この作品で誰が一番の悪者だと思いますか?
アル・パチーノが演じたチャールズかな。
彼の役は自分の力を過信しているというか、自分を神様だと思ってしまってる部分があるんだよね。アル・パチーノともチャールズの役作りについて話していて、バーナード・マドフの話になったんだ。
――アメリカ最大規模の金融詐欺事件で有名なバーナード・マドフですね。
もし彼だったら、最後どういう風に立ち回るだろうか?となって、アル・パチーノが「彼ならこうするんじゃないか?」と提案してくれたんだ。じゃあそうしようと、それがチャールズの最後の決断のシーンにつながるんだ。
――そこは後から決まったことなんですね。
元々の脚本は違ったんだよね、別の形になっていた。アル・パチーノと話して変えたんだ。
――本作では、例えばお金だったり、地位だったり、愛だったりといった、人間の欲望を描いていますが、監督が今一番欲しいものは?
僕は、あまりそういう野心はないかな。人を突き動かすものって大体お金か、セックスか、権力への欲だよね。その欲望のおかげで、翻弄されてしまって、とんでもない結末を迎えてしまうみたいなものが多いけど、そういう状態に置かれるキャラクターを観察するのが好きだね。
――まさに監督らしいお言葉ですね。監督は、ブライアン・デ・パルマが好きだそうで、本作においてのアート性や、タメの演技みたいな部分は、彼の影響があるのでしょうか?
抑えた感じだとか、沈黙だとかっていうのは意識的にやったところで、たしかにデ・パルマの影響もあるけど、さらに遡って話すなら、クロサワの影響もあるかな。
――黒澤明監督ですか!
大学時代に独学で、映画のことを色々勉強していた時に、マーティン・スコセッシがクロサワを語っているところを見たことがあったんだ。スコセッシは、日本語が分からないから彼の作品で何が起きてるか分からないけど、沈黙だけは雄弁に語ってくれるって言ってたんだ。それがすごく印象に残っていて、そういうクロサワの“沈黙”も大きな影響かな。それと、もうひとつ「攻殻機動隊」だね。
――これもまた意外ですね。
「攻殻機動隊」は、凄く効果的に沈黙を使ってるところがあるんだ。主人公の草薙素子と、荒巻大輔が出るシーンで、何か喋ってるけど、ポチャポチャっと水の音しか聞こえないような非常に静かなシーン。そこがすごく印象に残っているんだよね。
――日本の作品の影響について話が出ましたが、監督は日系人で、ハリウッドでは珍しい存在ですよね。
コンスタントに映画作っている日系人は他に居ないだろうね。それこそ日本人にハリウッドに来てもらって、もっともっと活躍して欲しいと思ってるよ。現地は、色んな人種のグループがあって、ユダヤ系とか、中国人とかそれぞれのグループの結束が固いんだ。でも日本人は少ないから、そういった助け合いみたいなものはないんだよね。だからもっと居てくれたら、面白いのになというのはあるかな。
――最後に日本のファンのみなさんにメッセージを。
出演者たちが、物凄く印象に残る演技を魅せてくれています。お馴染みのスターが勢揃いしている作品だけど、それを抜きにして、ぜひその全てをご堪能ください。
映画『ブラック・ファイル 野心の代償』は、2017年1月7日(土)より新宿ピカデリーほか全国公開。
(C)2015 MIKE AND MARTY PRODUCTIONS LLC.ALL Rights Reserved.
(取材・文/黒宮丈治)
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